164話 褒美と進化 その3
さてさて、迷宮組の最後はアダルマン達だ。
アダルマンは魔力は大きいのだが、近距離での戦闘は苦手としている。
けれど、聖魔反転を編み出した一種の天才でもある。
脳味噌という演算装置が無いのに、頭脳が賢いというのも変な話なのだけど。
魂に刻んだ演算回路を持つ、一種の能力者なのだ。
当然、『完全記憶』や『魂魄思考』という特殊スキルを持っており、精神生命体に近い存在となっているのである。
単純な物理攻撃は全て無効とするのだが、伝説級武器では精神体への攻撃も可能とする。
ヒナタの聖霊武装もそうだが、伝説級ともなると使用者のレベルによっては、切断出来ない属性は無いのだ。
そういう敵に対し通常の武具で相手して押していたのだから、アルベルトを責めるのも筋違いであった。
前衛のアルベルトが武器破損により敗北してしまった以上、今回の敗北は仕方が無かったと言える。
「せっかくの褒賞ですが、敗北した私など、その資格が……」
無念そうにそう申し立てるアダルマン。
だが、気にする事は無い。
「何を言う。お前の働きは見事だった。
俺がそう言うのだから、間違いないだろ?」
そもそも、期待していなかったのにシンジ達を撃退してのけたのだ。
明らかに俺の予想以上の素晴らしい成果であったと言える。
今回の皇帝近衛のクリシュナなんかは、相性が悪かったに過ぎないのだ。
という訳で、アダルマンの辞退を許さず、進化の儀式を行おうとしたのだが……
「リムル様、それでも私は自分自身が許せません。
この無能なる我が身が、リムル様と同じ魔王を僭称するなどと……
次なる機会を与えられし時こそ、魔王となる栄誉を賜りたく存じます!」
どうしても納得が行かぬようである。
確かに、迷宮は最後の砦となるので、防衛は大事だ。
今となっては、本国首都たるテンペストを守る事を考えるより、迷宮最奥に全ての重要施設を移している程なのだから。
首都そのものは、各国要人をもてなす場として、優雅さと寛ぎ空間として活用しているのだから。
だが、それを考慮に入れたとしても、迷宮には十傑が居る。
ゼギオンやクマラと言った魔王級が何体もいて迷宮を守っている以上、防衛戦力としては問題無いと思う。
問題無いどころか、俺達の遊び場だと思っていた迷宮が、何時の間にか要塞になっていたようなものなのだ。
アダルマンも魔王になっていて貰うのも良いだろうが、本人の意思を無視するのも良くないだろう。
「判った。
俺はお前を評価している。
次の機会があれば、俺がお前を評価したのは正しい事だったと、証明して見せよ!」
「はは! 必ずや、その期待に応えて御覧に入れましょう!!」
「うむ。信じよう。
さて、魔王への進化は良いとして……
お前には今日から、"冥霊王"の称号をくれてやる。
その名に恥じぬよう、これからも励むが良い!」
「はは、御心のままに!!」
ふう。
威厳のありそうな言葉使いも大変である。
ともかく、アダルマンも俺の部下の中で最高位の"王"を名乗らせるのだ。
今後は彼の発言力も増すだろう。発言の機会があれば、だが。
さて、活躍したのはアダルマンだけではない。
アルベルトには、壊れた装備に代わる武具を授ける事にする。
通常の武具で戦って尚、圧倒的な技術の剣技を使いこなすのだ。
それに相応しい武具となると、今回帝国軍から奪った伝説級が良いだろうか?
と、そこで思案する。
一つだけ手に入れた神話級を、誰が使うのが正解か。
俺がゲルドに神話級を与えなかったのには理由があった。
ゲルドのスキルと合わされば、伝説級でも神話級に劣らぬ防御性能になるのも時間の問題だと思ったのは確かである。
だがそれだけではなく、ゲルドでは、恐らく神話級は使いこなせないと判断した為だ。
カリギュリオを見ても判るけど、決して能力は低くない。寧ろ、スキルも持つそれなりの戦士である。
それなのに、神話級の性能を引き出せず、単なる防御力の高い鎧程度の認識でしかなかったのだ。
神話級は自らを扱う所有者を選ぶ。
解析した結果、そういう裏情報も判明していた。
長き年月を経て、魔鋼が究極の金属に変化し、一種の"付喪神"になった存在が、神話級の力を得るのだと思う。
であるならば、それなりの使い手でなければ使いこなす事は無いだろう。
それこそ、寿命ある人間には夢のまた夢。
死霊となり果てしなく尽きる事なき寿命を得て、聖騎士としての技量も失っていない高潔なる魂。
下手すればハクロウ以上の剣技を持つ、アルベルトこそが、この武具を扱うに相応しいのではなかろうか?
何しろ、魔王覚醒させようかという幹部達は、殆ど既存の武具を必要とせず、自身の能力で武具を具現化させているのだから。
例えばディアブロ筆頭の悪魔達は、物質創造という能力にて自身の衣を具現化している。
その性能は高く、下手すれば伝説級並の防御力に達する。だが、その衣も、本来の意味では保険でしかないのだ。
防御結界を多数張り巡らせていて、それによる防御が突き抜けた時に備えているだけなのである。
強いて言えば、ベニマルかソウエイに与えるのが良いかと思っていたが、覚醒後に判断しても良いかも知れない。
そもそも、『物理攻撃無効』耐性があるならば、殆ど防具は必要なくなっているのだし。
それに時間さえ掛ければ、伝説級を神話級まで進化させる事も可能かも知れないのだから、彼等の武具の心配は今でなくても良いだろう。
シオンの大太刀なんて、いつの間にか"真・剛力丸"とか言う伝説級の破壊力優先兵器になっているようだし。
クロベエの鍛えた武具を進化させるのが良いかも知れない。
武具との相性も重要な要素なのだから。
何よりも、智慧之王さんが、アルベルトに渡すのが良いと進言して来たし。
そういう訳で、アルベルトへの褒美は、カリギュリオから没収した神話級武具である。
長剣に凧型盾もセットになった、全身鎧であった。
「アルベルト、お前の剣技は素晴らしい。
これからも腕を錆付かせる事なく、アダルマンを助けてやってくれ!」
「御意!!」
声をかけつつ、装備一式を取り出し、アルベルトに手渡した。
俺の手から直接武具を受け取る事になり、アルベルトが緊張で震えている。
気にし過ぎであった。
「こ、これは!!」
受け取り、品を確かめて、アルベルトが驚愕の声を上げる。
無理も無い。
現存するのも極僅かと言われる、神代の世代からの伝来品なのだ。
この世の最高の武具を扱うのは、騎士としての最高の栄誉であろう。
「使いこなせるだろうな?」
否とは言わせない。
俺の視線の圧力を受けて、
「当然です! ご期待に、必ず応えて見せましょう!!」
高らかにアルベルトが返答した。
こうして、無事に装備はアルベルトの手に渡り、アルベルトはアッサリと武具の主と認められる。
俺の誤算はたった一つ。
開放された神話級の真の力が、想像を遥かに上回った事。
知らねーよ! 解析ではそこまで"視"えなかったんだよ!!
智慧之王が、ん? みたいな反応をしていた理由がやっと理解出来た。
知っていたね、君。通りで、ベニマルとかではなく、アルベルトが良いと進言して来た訳である。
"肉体を持つ者を、一時的に精神生命体へと昇華する能力"
それこそが、神話級の隠された能力だったのだ。
精神生命体とは、言わば神の如き存在である。ヴェルドラもそうだし、俺も言ってみればそんな感じだ。
実感は無いのだが、不老不死に近いのは間違いない。
不老は確定で、不死性はかなりのもの。心核破壊か、魔素消失でしか、死ぬ事は無い気がする。
一時的とは言え、その存在と同格にまで引き上げる力を有しているのだから、凄まじい性能である。
だが、半精神生命体のベニマル達妖鬼や、まして完全な精神生命体である悪魔達には、勿体無い装備品だったのだ。
有るべき所へ納まった、そういう事であった。
俺直下の十傑は以上だが、アダルマンのペットの竜も忘れてはいけない。
そう、死霊竜も頑張っていたのだ。何か褒美を与えようと思う。
4体の竜王と並び、闘技場の中央にて鎮座している死霊竜の下まで歩いた。
死霊竜は俺が近づくと、緊張し頭を下げて項垂れる。
見た目は激しく怖いけど、なかなかに可愛いヤツであった。
「お前にも褒美をやらないとな。という訳で、"名前"をやろう。
今日からお前は、"冥獄竜王"ウェンティ、だ!」
そう言って、全員の前で名前を付けてやった。
その瞬間、劇的な変化が生じた。
死霊竜の20mを超える巨体が見る見る小さくなっていき、闇色の衣を纏う美女に変身したのだ。
だが、俺に油断は無かった。
魔物なら何でも有り。そう、嫌と言うほど体験し、実感した真理が、俺に慌てる事を許さない。
動揺を表に出さず、当然だよね! という態度を守ってのけた。
我ながら頑張った。
「ああ、麗しき我等の最愛の神よ!
卑しき我が身にまで、祝福を下さり、感激で御座います!」
ああ、うん。
そうね、祝福というか、名前ね。
「おおお、良かったな、デス――いや、ウェンティ、よ!」
「ああ、主さま。神は私を見捨てませんでした――」
「うむ、これも我等の信仰の賜物だぞ」
「はい!」
麗しい、主従愛。
良かったね。俺は置いて行かれた感がする。
だがまあ、喜んでいるみたいだし良いだろう。
実は、今回の名付けでは、俺の魔素を使用していない。
魂を5,000個程使用して代用したのだ。
こんな事が出来るのも、智慧之王さんが魂を解析し、暴食之王にて魔素への変換を可能としたからである。
そもそも、竜クラスの上位魔物に名付けなんかしたら、どれだけ魔素を奪われるかわかったものでは無いのである。
コツコツと暴食之王に溜め込んでいた魔素は、悪魔公達への名付けで使い切ってしまっていたし。
予備もなく名付けして、低位活動状態にでもなったら問題である。
魔素の絶対量が増えた現在、回復にどれだけ時間が掛かるかわからないのだ。
戦時中には間違っても出来ない話なのである。
今までも魔王達がホイホイと魔人の部下に名付けをしなかったのも、当然だと理解出来た。
少なくとも、戦時下には危険過ぎて名付けは止めた方が良かったのである。
今回は、膨大な魔素の代わりに魂を使用して、俺の負担はゼロであった。
智慧之王様々なのである。
9名魔王に進化させても余るので、問題ないという判断だ。
人化したのは驚きだが、竜が人に化けるのは物語の定番である。
予想外という程では無いのだ。
ともかく、そんな感じで迷宮組への表彰と褒美も終了したのだった。
余談だが、竜王4体はラミリス直轄である。
なので除外する訳だが、実はきちんと褒美は渡していた。
魂は全部で94万人分集まったのだが、70万の帝国軍将兵の蘇生に凡そ1万人分程使用している。
ただし、一人が大量の魂の力を持っている者もいたようで、総数は若干多くなっていた。
なので、残りの93万人分強からラミリスに配当を渡そうとしたのだが、
「アタシ、魂の使い道ないから必要ないよ?」
と言われた訳だ。
で、助手としてミシェルとレイモンドの二人を蘇生している。
これは仮初の復活ではなく、本当の意味で蘇生させたのだ。
心核さえ無事ならば魂の復活は問題ないので、二人はスキルの使用も可能であろう。
それだけがラミリスの取り分というのも何なので、竜王達にウェンティと同様に名付けを行ったのである。
何しろ、何度か討伐されて痛い目に遭って頑張って貰ったのだし、このくらいは当然の事であった。
アークデーモンより強い属性竜といえども、自力進化では限界があったのである。
そこで、魂を各々5,000名分使用し、ラミリスに名前を付けさせた。
ここでも、魔素の代わりに魂を代用した訳だ。
結果は当然成功し、竜王は真なる意味で、"竜王"に進化した。
"炎獄竜王"ゼピュロス
"氷獄竜王"ボレアス
"天雷竜王"ノトス
"地滅竜王"エウロス
という、それぞれの階層を司る称号に準じた名前である。
名前を考えたのは俺だが、名付けたのはラミリス。
普通に、美男美女に変化する竜王達。
問題なく進化は成功し、人化も可能な強大な魔力の獲得にも成功したようだ。
ただし、あくまでも変化の一種であり、ミリムのような竜人になった訳ではないようだけど。
そもそも、竜人は肉体を有する精神生命体のような存在で、一種の変異体みたいなものなのである。
強い力を持つドラゴンロードとは言え、肉体に囚われている以上、その力は原初の精神生命体である"竜種"には遠く及ばないのだ。
今回の名付けで使用した魂の量は、魔王に覚醒させるよりも少ないのは確かだ。
しかし、その戦闘力の上昇率は同等であると言えるだろう。
魔王と竜王は元から違うのだし、何より魔物は理屈では無いのだ。
気にしたら負けである。
こうしてラミリスへのお礼も兼ねた竜王の進化も無事に終了したのであった。
ちなみに、迷宮十傑は魔素量の大きさだけは互角だったようだが、戦闘力は大きく違っていた。
4体の竜王達も属性竜としての力は強かったが、戦闘力で見れば低かったようである。
戦闘経験の少なさによるもので、レベルが低かったという事だ。
今回何度も討伐された経験が余程悔しかったのか、竜王達は修行する事を決意したようだ。
彼等は人型になれた事で、人としての戦闘方法にも興味を持ったようである。
属性吐息攻撃と爪や牙による物理的攻撃力にのみ頼るのではなく、魔法を理解し戦闘に組み込む。
そして、人としての戦闘術を理解し、実戦に生かしたのだ。
それが高じ過ぎて、人型の方が強いという本末転倒な者が現れたのはご愛嬌だと思うけど、俺がその事を知るのはずっと後になってからの話なのだ。
さて、残るは3柱の悪魔公達だ。
どうするか、それが問題だ。
93万個程あった魂は、配下達の魔王への覚醒進化と名付けに使って消費したりして、21万名分程になっていた。
後二名覚醒させる事が出来るのだが……
ゲルドの申し出に応えてカレラを覚醒させるべきか?
そうすると残りはテスタとウルだが、どちらを覚醒させるのが良いだろう?
そもそもこの3柱はディアブロと同格。
俺の見立てではディアブロが頭一つ抜けている感じだが、元は互角であったのだろう。
ディアブロはこいつ等を倒してから俺の部下としてスカウトして来た訳で、今は一目置かれている。
そう考えると、ディアブロを除いた同格の中で強弱を付けるのは問題があるのではなかろうか?
強いて言えば、危険だ。
同時に進化させないと、揉めそうである。
カレラだけでもと思わなくもないが、一番力が強そうな彼女に力を与えるのは、何だか嫌な予感がしてならないのだ。
制御出来ない力は身を滅ぼす、そういう感じがするのである。
何しろ、最後に彼女が使った魔法――"重力崩壊"――だが、途中で止めなければ小規模な超新星爆発により、テンペストの首都ごとゲルド達まで吹き飛ばされていただろうから。
制御出来る自信はあったのだろうけど、あの場面であの魔法を選択するその性格が、若干の不安感を与えてくるのである。
覚醒した者達の様子を見て、力の制御がきちんと出来ているかを見極めてから、彼女達を進化させる方が良いと思う。
その点、ディアブロは俺の心を読んだかの如く、適切な行動を取ってくれる。
進化も完全にコントロールしてのけたし、頼もしい限りであった。
「テスタロッサ、ウルティマ、カレラ。
お前達3名は、情報武官として良く働いてくれた。
しかし、お前達の進化は適切な時期に行いたいと考えている。
ゲルドの言い分を聞き、カレラだけを進化させるのも考えたのだが、時期尚早だという判断だ。
不満かも知れないが、理解して欲しい」
「リムル様、何を仰いますか! 我等に不満など、在ろう筈も御座いません!」
「その通りですわ」
「問題ありません。我等は既に十分に強さを得ております」
俺の言葉を、3名が一斉に不満は無いと否定した。
確かに、十分過ぎる強さであろう。
覚醒したであろうガビルより、恐らくは強いだろうから。
慌てて覚醒させる必要も、揉め事の種を残す事も無いだろう。
この3名は同時に扱う事で、バランスが取れそうだし。
「そう言って貰えると嬉しいものだな。
俺の心は常にお前達とともに在ると感じられる。
だが、褒美無しと言うわけにもいかないし……
お前達の事も幹部として認める事にしよう。
"虐殺王"テスタロッサ
"残虐王"ウルティマ
"破滅王"カレラ
今日より、そう名乗る事を許す。
我が国では新参ではあるが、俺の腹心として今後も活躍を期待する!」
『はは、御心のままに!!』
俺の言葉を受け、3人が一斉に頭を垂れた。
どうやら気に入ってくれたらしい。
これで、俺の配下に12名の"王"が揃った事になる。
四天王や十傑と、役職被りの者もいるけれど、正式には"聖魔十二守護王"とでも呼称しよう。
まあ呼び名に拘る訳では無いけど、最高幹部であるという証明にはなりそうだしね。
こうなると、王ではないけど幹部の一人のゴブタは、本当に異質な存在だと思う。
案外あの褒美は、一番良いものになるのかも知れない。
俺の背後に控えていた王達が、俺の前に整列するのを眺めつつ、そんな感想を抱いたのだった。
こんな感じで、褒美と進化の式典は終了したのである。
この日の出来事が伝わったのか、後に俺は"聖魔混世皇"リムルと呼ばれる事になるのだ。
ステータス的なもので一話使うのも話が進まないと感じましたので、次回から本編を進める予定です。
キャラ紹介は時間が掛かりすぎるので、なかなか用意出来そうもありません。
機会があれば用意しますので、ご了承下さい。




