163話 褒美と進化 その2
さて、問題のディアブロである。
間違いなく、今回の進化で魔物の国最強の地位に就く。
俺の配下の中で一番強いのではなく、俺に並ぶ強さになりそうだ。
ベニマルと決勝で戦った時以上に、ディアブロは強くなっている。あの敗北自体も、連戦によるダメージが抜けきっていなかったという悪条件も一因だったのだ。
つまり、現状でも俺の配下の中で最強なのである。
智慧之王も間違いないと言っているので、確かな事実であった。
次点でベニマルにシオン、そしてゼギオン。
その次が、三柱の悪魔公達である。
ゼギオンの強さには驚かされたが、ディアブロは頭一つ抜けている感じだった。
そのディアブロを覚醒進化させるのだ。
俺が覚醒した時よりも強いディアブロがどう進化するのか、要注目であった。
「お前に相応しいのは、"魔神王"という称号だろう。
今後も俺の懐刀として悪魔達の統率を頼むぞ!」
「クフフフフ、お任せ下さいリムル様!」
そして、魔神が生まれた。
ディアブロは進化し、この世の最強の一角を占める存在となる。
ベニマルやシオンの進化が不発に終わった現在、正しく俺に並ぶ最強の存在になったのだ。
一瞬で進化は終わったようだ。
シオンのように不発だったのかと思ったが、そうではなかった。
全てのエネルギーを完璧にコントロールして、一切表に出さなかっただけの話だったのだ。
流石はディアブロ、見事である。
以前に見た魔王ダグリュールに匹敵するか上回る程の、圧倒的な内包魔力を感じる。
進化は完了したが、内部で新たな能力の獲得を行っているようだ。
今度、真面目に戦ってみようかな? と思ったのは秘密である。
ディアブロの祝福は、彼の副官であるヴェノムと、配下の100体に与えられる事になった。
ヴェノムは進化し、悪魔公となる。
しかし、どうもテスタロッサやカレラ達に比べると、威圧感が足りなかった。
同じ悪魔公とは言え、格の違いがあるのだろう。
貴族と言っても、公爵を頂点とし男爵や騎士といった下位の者達がいるように。
そもそも、ディアブロが連れて来た者達の中で、あの三柱はディアブロと同格だった者達なのだ。
長き年月、最強の座に君臨し続けた者が、新参に負ける事などないのだろう。
運だけで勝てる道理も無く、魔素量が増えたからと知識が増える訳でもない。
積み重なった錬度の差が、圧倒的な力の差となるのだ。
それと、俺の勘でしかないけれど、ディアブロは祝福に回すエネルギーを絞ったように見受けられた。
そんな事が可能かどうかは知らないけれど、何となくそう感じたのである。
デイアブロならば出来ても不思議では無いし、ヴェノム達の進化が一定であり、予想を下回ったのも俺がそう感じた理由の一つである。
ディアブロなら、強さとは与えられるモノではなく自ら獲得するモノだ、とか考えていそうだし。
だがまあ、ヴェノムには見所があるようだった。
何の感の言って、悪魔公になったのだから。
十分な進化であると言えた。
それに、テスタロッサ達と同格に進化し調子に乗る事もなく、進化した自分の力を確かめ、更なる実力の差に気付いたようである。
流石はディアブロの腹心。
ただまあ、万が一調子に乗っていれば、ディアブロに殺されていたかも知れないけれど。
ディアブロは自分の配下であろうと、弱者には容赦ないのだ。
それと、祝福を受けた者は他にも居た。
培養カプセルの中にて培養魔人形に宿らせて肉体を構成中だったヴェノムの部下100体が、上位悪魔騎士として誕生する事になる。
上位魔将には及ばないが、魔人を超える力を持った悪魔の騎士達。上位悪魔等、一撃で屠れる猛者である。
はっきり言えば、規格外の存在だった。流石はディアブロ、無茶苦茶である。
だが、ディアブロからすれば興味は無いらしく、悪魔騎士は完全にヴェノムに任せるつもりのようであった。
俺の直轄として身軽に動く事を優先したのだ。
自身はどれだけ強化されていようとも、ディアブロはディアブロであった。
続いて、迷宮内で活躍した者達だ。
ゼギオン、クマラ、アダルマン。
そして、迷宮十傑と呼ばれる者達。
ここまで来ると、暴走の心配などまるでないと思える。
だがまあ、一人ずつ進化させていこう。
先ずはクマラだ。
"幻獣王"クマラが、彼女の新たなる呼称となる。
クマラも、拾った時は銀色の子狐だったのに、気がつけば複数の魔獣の主になっていた。
迷宮内に隔離――という名の保護――をしたつもりだったのに、いつの間にか階層ボスを束ねる階層守護者の一人だったわけだ。
その階層ボスにも見覚えがある。
クマラの名前は、九本の尾を持つ九尾の狐だったから、クマラと名付けたのだ。
どうせ冒険者もやって来ないだろうと、出来立ての90階層に放していたのだが、そこでお友達にも名付けて欲しいと頼まれたのである。
別に幼女の頼みだから引き受けたとか、そういう疾しい気持ちは無いのは理解して頂けると思う。
気軽な気持ちで引き受けたのだ。
魔物への名付けは結構なリスクがあるのは理解していたが、魔獣へは多少は危険度が下がるのだ。
まして小さな子供みたいな獣達だったので、何の問題も無く名付けは終了したのである。
それが、あんな事になったわけだ。
驚きのビフォーアフターであろう。誰だって驚く。俺だって驚いた。
済んだ事は仕方ない。
クマラの一部でもある魔獣達に名付けした事で、クマラは俺から九個の名前を得たに等しい訳で……
それが濃密な魔素を吸収し成長したのだから、ああいう強さを身に付けるのも納得と言えば納得である。
以前の子供だった時と違い、今は八部衆として俺の前に整列している。
それぞれがかなりの力を有しているのは、見ただけで判るというものだ。
クマラが魔王への進化覚醒を成功させる。
クマラの尻尾の数本が輝く黄金色となり、毛並みも美しい、金と銀の混ざった美しい長髪は、サラサラと輝きを放ち背中を伝っている。
進化したのは美しさだろうか?
いや、当然ながら魔素量も増大していた。
クマラは本来、本体もかなりの戦闘力を持っている。しかし、当然だが八部衆が全て合体した合成獣形態が最強の力を発揮出来るのだ。
魔素量=強さでは無いのだが、合体すればそれなりに強さも増すのだ。
逆に言えば、クマラが強くなったと言う事は、八部衆も強さを増す事になる。
何よりも、俺の名付けで魂は繋がっている上に、祝福は八部衆にのみ与えられる訳だ。
反則じみた独占により、全部自分だけで持っていった感がある。
見た目の美少女っぷりからは想像も出来ない、腹黒い計算高さをそこに感じる事が出来たのであった。
アピトの様な愚直なまでの直情型と、相性が悪い訳である。
魔素量だけ見れば、ガビルを軽く上回るだろう。
いや、かなりの巨大さで、未だに上昇中のようであった。意識を必死に保っているのだ。
暴走しない為に。
「戻って休んで良し!」
そう命じると、少し悔しそうだった。
その辺りはまだまだ子供なのだ。
目を離しても暴走状態になる事は無いと判断し、クマラは戻って休ませる。
多分だが、ランガのように眠りにつき、力の増大に備えるのだろう。
ともかく成長が楽しみである。
決して、美女になりそうとか、そういう意味での楽しみではないので間違わないで欲しい。
傾国の美女に成長しそうというのは、約束された未来だろうけどね。
ともかく、クマラは退出し、自分の領域へと戻ったのだった。
さて、次はゼギオンである。
迷宮内最強の存在。
魔素量も高く、ベニマルに並ぶ程である。
それが武術に特化し、ヴェルドラと修行していたのだから強いのも当然だ。
今回の戦いにおいて、帝国側最強戦力である七名を弄さずに倒して見せたのは、その実力の高さを証明しているだろう。
しかし、考えて見れば魔王の大量増産か……
今更と言えば今更だし、既に6名に魂を授け内二人は進化終了なのだ。
覚醒進化の収穫祭中の者も居るし、先程から俺にも力が流入してくるのを感じていた。
このまま魂を付与しても大丈夫だろうか? そう思いはしたけれど、俺の身体はガス欠だったみたいに、何の問題も無く流入してくる力を受け入れている。
覚醒が不発に終わった者も居るようだし、問題ないだろう。
何だか吹っ切れた気分で、どんどん行こうと思う。
怖れるな、進め!
気分は正に、そんな感じであった。
ゼギオンなら、どこまで強くなるのか? 寧ろ、そう考えると気分も高揚するというものだ。
俺を超える可能性もあるのだろうが、『食物連鎖』がある以上、決定的に俺の優位は覆らないだろうし。
気にせず覚醒を促す事にしよう。
「見事な強さだった。ここまで強くなるとは思っていなかったよ。
お前の弛まぬ努力の成果、見事である!
これからも俺の為に、その強さを磨くが良い。
そして、今日から"幽幻王"を名乗る事を許す」
「はは、有難き幸せ!」
ゼギオンは相変わらず寡黙だが、俺の言葉に感動し打ち震えているようだ。
俺の適当な言葉もどうかと思ったのだが、ゼギオンにとっては珠玉の福音に聞こえたのだろう。
予想以上に崇拝フィルターを掛けて俺を見ているようだけど、ここまで慕われると悪くない気がする。
希少な昆虫を保護したつもりだったのだが、結果は俺が守って貰う程に成長してくれた。
その成長は、恐らくは努力のお陰とかでは無く、出鱈目な才能に溢れる魔素、そして格上の修行相手のお陰だと思うけれど……まあそんな事は些事であろう。
結果的に強くなった、それでいいのだ。
魂を授与した。
ゼギオンは一瞬だけ震えたが、力の洪水を精神で押し殺す。
制御して見せたのだ。
間違いなく努力でどうこう出来る話では無いだろうけど……ディアブロのように進化を意思の力で制御し、見事に抑え込んで見せたのだった。
ただし、ディアブロのように一瞬で進化を終わらせた訳ではないようだ。
現在進行形で進化しているが、それを表に見せていないだけなのだ。
そんなゼギオンの進化は恐ろしいものがある。
外殻が意思の力により一部を究極の金属に変質出来るようになっていた。
肉体そのものが、凶器。
各種法則を支配し、操る肉体は神話級に匹敵する外骨格に覆われている。
格闘戦だけ見れば文句なく最強になっている。
精神生命体にとっては格闘戦の強さは優劣に影響しないのだが、脅威となるのは間違いなさそうだ。
他にも能力を獲得しているようだが、彼も進化の途中。
意思の力で抑えているが、肉体はどんどんと作りかえられているのだろう。
後でゆっくりと、どう進化したのか確認した方が良さそうであった。
そういう事なので、収穫祭は間違いなく発生している。
祝福の対象はアピト一人。
俺が自ら改造と言う名の施しと"名"を与えたのがゼギオンとアピトだけであった。だからこそ、ゼギオンの中ではアピトのみを兄妹と認識したのだろう。
蟲達の階層には、他にも危険種は居るのだが、そういう者達には影響を与える事は無かったのである。
アピトは一度繭に戻り、再誕生する事になる。自分の配下の蜂を全て食い殺した上で、だ。
祝福の対象として膨大なエネルギーを一身に受け止め、肉体が崩壊する事になったのだ。
だが、彼女は生まれ変わり、真なる女王として君臨する事になる。
生まれ変わった彼女は、数匹の各種蟲型魔人を生み出した。
その魔人達を頂点としたコミュニティが、今後の階層に形成されて行く事になるのである。
喰った蟲の生態を取り込み、魔人として生み出す能力『女王崇拝』を得て、アピトは十傑でありながらゼギオンに従う事になる。
ディアブロは意図的に祝福を絞った感があったが、ゼギオンは惜しみなくアピトに与えている故に、アピトが異常進化したのも納得であった。
ただまあ、祝福を受けた側のアピトでこの凄まじさなのだ、ゼギオンに至っては、推して知るべしである。
ただし、それは祝勝会が終わってからの話である。
アピトもまた、会の進行中は一切苦しい素振りを見せなかったのだ。
女王の貫禄を見せ付けた辺り、ゼギオン同様に流石であった。
祝勝会の後、迷宮内でゼギオンとアピトは繭となり、進化を完了させる事になる。
ゼギオンは進化により、一つの能力を得た。
アピトの『女王崇拝』は、特殊能力以上究極能力未満という『絶対防御』クラスの能力であった。
十分に強力な能力なのだが、ゼギオンは格が違う。
正真正銘の究極能力『幻想之王』を獲得したのだ。
ヴェルドラの弟子として、らしい能力を得たものである。
その能力を獲得した事により、ゼギオンは迷宮内での不動の地位を獲得する事になるのであった。
スイマセン、また分割です。
書く速度が、通常の倍以上時間が掛かってしまう。
設定を考えるのは大変ですね。