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6:手掛かり……わたしの予感

「何だか」

「うん?」

 ルカスの言いかけたことばに、キッポが訊いた。

「何だか、ナゾがナゾを呼んじまったな」

「そうね……。1回、整理した方がいいかもしれないわ」

 わたしも言った。薄暗い森の中、先ほど越えた小さな沢のあたりで、

「キッポ、リムノ。ちょっとここで休憩しよう。さすがにカラダが疲れたんじゃないか?」

 こんな心配をしてくれるルカスは、本当に大人だ。キッポとわたしの顔色を見てくれたんだろう。正直言って、かなり疲れていた。特にココロが。キッポの落胆も相当のものだろうし。

「ゴメンね。ボクのためにあんな、スケルトンと戦うことになっちゃって……」

「気にすんな」

「そうよ。手強かったけど、みんなの力で倒せたじゃない」

 わたしにとってみれば、炎の恐怖に打ち勝って魔道を使えたことが、大きな自信につながっていた。貧血も起こさなかったし。あ。それは血を見なかったからかな? うーん、たぶんそうだ。これで、相手が同じ人間だったら、使えなかったかもしれない。

「ありがとうね、2人とも。ボクだけだったら、スケルトンを倒すことも、みんなを救うことも出来なかったと思う。ややこしいことになっちゃったけど、まだ……。まだ付き合ってくれる?」

 ルカスは片目をつぶって、キッポのアタマをぽんぽんした。わたしも笑顔でうなずき返す。

「ほれ。そんな心配はいいから、新鮮な水を飲め。そうすればアタマもカラダも、しゃっきりするから」

 ルカスに言われるまま、わたしは両手に清水をすくい、のどを鳴らしてごくごく飲んだ。キッポも直接、口を沢の流れに付けて飲んでいる。あー、美味しい。ルカスの言う通り、ここで休憩して正解だった。

「ルカス、リムノ。これあげる。ボクたちが疲れた時に、口に含む薬草。ちょっと苦いけど、しばらく噛んでみて。だいぶ違ってくるから」

 キッポが言いながら、濃い緑の薬草を渡してくれた。うー。苦いのか。ルカスはもう、表情も変えずに大胆にくちゃくちゃしてるけど……。でも、キッポの好意だもんね。もらいましょう。

 恐る恐る噛んでみた。最初は青臭さが強かったけど、しばらく噛むと何とも言えない清涼感が広がって来た。それは全身まで行き渡り、猫背になっていたのが背骨に1本、柱を通したようで、重たいカラダが軽くなって行く感じがした。さすが森の民。こんな方法で疲れを取るのね。キッポも噛みながら、反応を窺ってる。

「気持ちいいわ、これ。最初は本当に苦かったけど」

「ああ。いけるな」

 それを聞いたキッポはにっこりした。

「ボクたちの薬だからね。これを煎じて出来た液体を傷口に塗っても、見る見るうちにふさがるんだよ」

 さすがドルイドのタマゴ。草や石のことは、専門家に任せるに限るのね。

 ――そう。ドルイド。集落の老師が伝えてくれたことは、非常に曖昧な手掛かりでしかなかった。わたしにとっては。キッポはどうだったんだろう……。

「よし。疲れも和らいで来たところで、ちょっと今までの情報を整理しよう。な?」

「それがいいと思うわ。腰を下ろそっか」

「うん」

 わたしたちは沢の砂利を越えて、やわらかそうな苔やシダが生している場所を見つけてから、よいしょと座った。ふう。落ち着く。

「さてと。まずはキッポの方だ。老師が何やら言ってたな?」

「そうね。わたしにはさっぱりだったけど」

「ボクも細かいことまでは分かんないんだ。老師のことばは難しかったから……」

 小さくキッポはため息をつく。

 老師が話してくれたことは。この集落の聖堂には壁画があって、そこにドルイドの、

『過去・現在・未来』

が表されていたと言う。それを理解した上で、えーと。

「何だっけ、キッポ?」

「探し出す物? 『薫り高き宝珠(オーブ)』だよ。どんな物なのか想像も出来ないけど」

 それ。それを見つけてキッポの生まれた集落に帰れば、一人前のドルイドとして認められるらしい。

「でもまあ、進むべき方向を教えてもらえたのは、良かったんじゃないか?」

 ルカスのことばに、

「それはそうなんだけどね。――『汝、北へ向かい、闇を目指せ』だけじゃ、あまりにあやふや過ぎるよ」

 本当。これだけの情報じゃ、曖昧模糊とし過ぎてる。せっかく部落を見つけられた、と喜んでいたら、つながりがあるのかすら分からない情報が入って来て、振り出しに戻った感じ。また、次の部落を探さないといけないのね。それが『北』にあるのか、それすら定かじゃないんだけど。老師のことばを手掛かりとするなら、それしか方法が無いもんね。でも、キッポがちょっとでも情報を得られてよかったな。

「村で地図を買おう。とにかく大きな街道に出ないと、始まらんだろ」

 髭をぷちっとしたルカスが言った。だいぶ分かって来た。これはルカスが、何かを懸命に考えた後でする仕草だ。

「そうね。――でも、あの村」

「ああ。少し行きにくいな。全員助けられなかったんだから」

「でも、ボクたちも頑張ったよ?」

 ルカスは生真面目な返事をしたキッポに、

「こんな場合はな。途中の努力は認めてくれないんだよ。結果ありき、だから、オレたちは役立たずに終わったってことになる」

 わたしは納得がいかなかった。

「だけど、頑張ったのは本当よ?」

「ああ、それはオレたちが一番良く知ってる。でもな? 事実1人はおそらく犠牲になり、1人はさらわれたんだ。残った結果のみしか、見てもらえないさ」

 ルカスは噛んでいた薬草を、沢の方にぺっと吐き出して言った。

「キッポ。黒いフォクスリングって、一体何者なの? さっきちょっと考えたんだけど、まるで『死を弄ぶ者たち』みたいじゃない」

 わたしが問いかけたら、キッポの耳が申し訳なさそうに、少しだけうなだれた。

「分からない。いるらしい、って言うのは知ってたけど。もう伝説にしか残って無かったよ。伝説によると、老師の言った通り地下世界に住んでいるらしいって。でも、滅びたって言うことで、伝説は終わってるよ」

「老師も似たようなことを言ってたな」

 わたしは、

「でも、滅びてはいない、のよね。事実、部落に現れてあんなひどいことをしたんだから」

 しばし沈黙。森の木々が風にざっと鳴った。やさしい沢の流れる音。小鳥たちが鳴き交わしている。いつしか背中に、イヤな汗をかいていた。暑さでじゃなくて。この先の困難な予感がそうさせているんだろう。

「その通りだな。――キッポ、リムノ。村に戻ろう。ありのままを話して、村からも情報をもらおう。キッポ。少し遠回りになるが、いいか?」

 キッポは少し暖かそうな表情を浮かべて、

「かまわないよ。さらわれた娘さんのことでしょ? それに、今ではばらばらにしか考えられないことも、どこかでつながるかもしれないし」

 わたしもルカスもうなずいた。そう。どこかでつながる、きっと。ううん、確実に。これからの旅は、もっと厳しいものになる……。魔道士であるわたしの、予感がそう告げていた。全て……。

 全て考えが外れてくれると一番なんだけど、ね。

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