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5:色の黒いフォクスリング!?

「大丈夫だったか? キッポ?」

 長剣を鞘に収めたルカスが、まだ息の荒いキッポに訊いた。

「――うん、平気。でも……」

「でも?」

 2人の元に行って、わたしは先を促した。

「村の聖堂が、焼けちゃってる……」

 あれは聖堂だったんだ。それに火をつけるなんて、なんてひどいことを。

「とりあえず。村人を探そう。別れた方が早いが、まだ危険もあるかもしれない。3人一緒で探した方がいいな」

 ルカスの意見に、わたしは首を縦に振った。でもキッポが、

「もし。もし、みんな、さっきみたいのに……」

震えながらつぶやいた。

「悪い方へと考えるな。絶対に生きてる!」

 強くルカスが励ました。

「わたしもそう思うよ。探そう?」

 泣きそうな表情のキッポだったけど、弱々しくうなずいてくれた。わたしは改めて集落を見渡してみた。キノコのような形をした家。スケルトンが最初、立っていたあたりに井戸。そして中央部分に焼け崩れた聖堂がある。

「おーい。誰かいないかー」

 大声でルカスが言った。

「助けに来たんだよー。ボクもフォクスリングだから。安心してー」

「そう。安心して。スケルトンは倒したわ」

 みんなで問いかけていたら、聖堂付近の家から苦しそうなうめき声が、幾重にも聞こえて来た。

「そこにいるんだね? 今行くよ!」

 キッポが駆け出す。わたしとルカスも後を追った。先に行ったキッポが扉を開けようとしてる。でも、カギがかかっているみたい。中からは声にならない声が、扉越しに聞こえて来ている。

「キッポ。ちょっと見せてみろ」

 ルカスにキッポは場所を譲る。

「普通の扉だな。錠はどこにも無いぞ? ――魔道か!」

「え?」

「リムノ、見てくれ。錠はどこにも無い。なのに全く開こうとしない。こんな魔道、あるんじゃないのか?」

 ルカスの洞察力は鋭い。わたしには魔道の波、波動が感じられた。間違い無い。灰魔道にある中の、『施錠(ロック)』がかけられている。幸いなことに、わたしはこの魔道を使ったことがある。

「『施錠(ロック)』の魔道ね。大丈夫。開けられるわ」

 わたしは再び集中して、『施錠(ロック)』の構造式を逆さから唱えた。逆魔道と言って、逆読みすると魔道の効力を失うのね。わたしは『解錠(アンロック)』の構造式にしたものを、精神力で封じ、式を完成させた。右手が微かに熱い。そしてわずかに輝いている。

「開きなさい」

 言いながら、右手を扉に当てた。キィ、と音を立てて、扉が開いた。やった! 魔道成功!

「大丈夫!?」

 薄暗い家の中に、キッポが駆け込んだ。腕と脚を縛られ、猿轡をかまされたフォクスリングたちが安堵のため息をついたのが分かった。わたしたちは片っ端からそれらを解いて行く。中に、行方不明となっていた、村人の姿もあった。でも……。

 おかしい。行方が分からなくなっていたのは、たしか5人。なのに2人足りない。

「助かった。恩にきるよ」

 一番年上らしい男が言った。そこにルカスが、

「あと2人、いなくなってたと聞いたぞ。どうしたんだ?」

 急いて男は答える。

「2人? それは知らない。オレたちといたのは娘。強力な魔法か何かをかけられて、倒れたところを連れて行かれたんだ。この集落、フォクスリングそっくりの、でも色がもっと黒いヤツらに」

「色の黒いフォクスリング!?」

 キッポが割って入った。

「知ってるの?」

 わたしの問いかけに、この集落の長らしいフォクスリングが答えてくれた。

「助かりました。ありがとうございます。強烈な魔法をかけられ、昏倒させられましたのは、人間様のまだまだ若い娘様でした。わたくしも長く生きておりますが、本当に存在を知ったのは、今回が初めてです。色の黒いフォクスリングとは、地下の闇世界に住むフォクスリングと思われますゆえに。わたくしたちの力足りず、連れて行かせてしまったこと、本当に申し訳なく思っております」

 ――そんな。そんなことってありなの!?

 わたしの表情を読んで、

「彼らは唐突に現れたかと思うと、あっと言う間にわたくしたちを捕らえ、縛り上げ、この家に閉じ込めました。わたくしも抵抗したのですが、力量差があり過ぎまして……」

「もう1人の人間は知らないか?」

 ルカスが問い詰めた。

「残念ながら。この集落でお会いすることとなった人間様は、4人でありまする」

 長は、沈痛な面持ちになった。それを聞いたわたしは、

「ルカス。あのナタと鎧の……」

「そうだろうな。今回のことと重なってるのかは、まだまだ分からんが」

 わたしの考えを引き継いで、ルカスが言った。それまで黙っていたキッポが、

「老師。見習いドルイドの旅をしております、キッポと申します。唯一の手掛かりでありました、聖堂が焼かれてしまいました。私はどうすれば良かったのでしょうか?」

 わたしには分からないことを訊いて来た。――そうか! これが、聖堂を探すことがキッポの旅の目標なんだ! 聖堂って本当に大切なものだったのね。

「やはり火を付けられたか……。大変な被害じゃな。見に行かねば」

 老師はそう言うと、縛られていた腕や脚をさすっているフォクスリングたちに、

「みな、この御仁たちに礼を述べ、それぞれの家へ帰れ。被害があった者はあとで、わしに伝えるように。女・子どもは特に注意して、休める者は休め。よいか?」

 疲れ切った様子でみんながうなずく。そして、家の外に出たわたしたちに、

『ありがとうございました』

と言って、自分たちの家へと向かって行く。沈痛な面持ちに、わたしはココロが痛んだ。ルカスもお礼のことばに、深くうなずいている。肝心のキッポは、視線を下に落したまま何も言えず、ただ涙をこらえているようだった。そんなキッポに声をかけようとしたわたしを見て、ルカスが首を横に振った。――そうよね。一番痛い思いをしているキッポに、語りかけることばは無いもの。

「連れて行かれた娘の行方が気になるが、オレたちは一度、村に戻るよ。それから改めて探し出す」

 さっきの村人が言った。ルカスが答える。

「オレもそれがいいと思う。オレたちもこっちが一段落着いたら、村に向かう」

「本当に助かった。感謝するよ」

 わたしたちは村人たちを見送った。でも、おそらく1人は殺され、1人はさらわれた。村人たちの悲しみも、想像に難くない。それにしても、さらって行ったと言う、黒いフォクスリングって……。イヤな予感がするけど、何のためにさらったんだろう? そう。似たような手口。まるで『死を弄ぶ者たち』みたいな。もしそうだったら急がないと。時間が無い。わたしの考えが外れていれば、一番いいんだけど。

「キッポと申したな?」

 老師が、うつむいているキッポに声をかけた。

「はい」

「共に聖堂へ。見せねばならん物がある。焼けてしまったかもしれんが……。そちら様もご一緒に」

 わたしとルカスもうなずいた。老師の後を着いて行く。

「ひどいありさまじゃな。もはや跡形も無い」

 聖堂はもう、原形をとどめていなかった。屋根と壁部分が崩落し、わずかに外壁が残されているだけだった。まだくすぶっているのか、ところどころから煙が静かに立ち昇っている。

「では、この聖堂の手掛かりはもう……」

キッポが涙ぐむ。

「見せられぬのは残念じゃが、わしの記憶に残ることを伝えることとする。それで次の手掛かりへの、代わりに充分なろう」

「お願い致します」

 キッポは深く、(こうべ)を垂れた。

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