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2:死体は無いのに……?

 ルカスはばらばらになってしまっていた鎧代わりの樹の皮を、器用にも持ち主が着けていたかのような形に復元してみせた。こうして見ると、なるほど、樹肌色のそれは短めの胴衣のようであり、着心地はともかくとして多少は防御の役には立つだろう、というのがわたしにも分かった。

 草むらに落ちていたのは、この木製鎧と古びた大ナタが一ふり、ぱっと見ただけでは分からなかったけど、やはりこれも血をたっぷりと吸った上下の衣服もあった。

 手掛かりを求めて、衣服をごそごそやっていたルカスとキッポの後ろから、わたしはこわごわその様子をのぞき込んでいたんだけど、ルカスが、

「おっ」

と手を止めたのを見て、身を乗り出した。

「ほれ、こんな物まであった」

 わたしの鼻先に広げられたのは、血痕の付いた下着だった。しかも、たぶん男の人の!

「やあ~、もう! やだよー」

 あわてて目を閉じたけど、くっきりと焼き付いてる。あああ~。

「『やあ~』とか言ってらんないだろ。村のヤツの物だったら、家族に渡してやらないと」

 それは、ルカスの言う通りなんだけど……。

「でも、これじゃあすっぽんぽんだよね。裸でどこへ行っちゃったんだろう」

 キッポがそう言うのを聞いて、ルカスは苦笑した。

「そりゃあ、これだけ深手を負って、歩いてどこかへ行ったわけじゃないだろうな」

 ルカスは、

『見てみな』

と復元した木製鎧を目で示した。わたしはもう一度きつく目を閉じた。

「別にもう、こわい物でもないだろに……。傷を受けてるのは後ろからだよな。鋭い刃物じゃない。切れた跡が力で押し切ったみたいになってるから……、そうだな。例えば重たい鉄製の武器。斧とか……」

「コレとか、なのかな」

 ことばを引き継ぐようにキッポが言った。落ちていたナタを手に持っている。鈍い刃の部分には、恐らく乾いた血液だろう、赤黒いものがこびりついて、森の木の葉越しに届くやわらかい光を全部吸い取ってしまっているようだ。わたしはぞっとした。

「そんなような物を、力いっぱい叩きつけたんだろ。でも、背中だけじゃない。鎧の上のほうも血がべっとりと付いてる。首をとどめに切られたんだろうな、背中をやられて倒れたところを」

 キッポは不思議そうに、手に持ったナタをながめた。

「じゃあ、この血の跡はやられた人のなの?」

 わたしはひらめいて口を開いた。

「でも、それじゃあ変じゃない。どうして自分の持ってるナタで背中をやられなきゃならないの? だいたい、そんな首を切られたりして、血がばーって出たんなら、どうして草の上とかにその跡がないのよ?」

 自分で言いながらそんなところを想像してしまい、わたしは気持ち悪くなった。言わなきゃよかった。

「いや、血の跡はあった。この草むらの奥のほうに。そこから続いてる跡を追ったら、キッポ、お前がリムノに話してるところに出くわした。そういうわけだ」

 じゃあきっと、わたしがルカスの声に驚いて飛び上がったところも見てたんだ。そう思ってルカスを上目使いに見たら、その通りと言わんばかりに片目をつぶってウインク。あーもう、人が悪いにもほどがある!

 キッポは別のことで驚いたらしい。首をかしげてルカスを見上げながら、

「草が鳴るまで、ボクは分かんなかった。すごいね」

 ルカスはそれには答えず、肩をちょっとすくめただけだった。

 キッポのことばを聞いて、わたしも改めてルカスに感心した。森の民、キッポが直前まで気配にすら気が付かなかった、と言うんだから。

「まあ、たしかに変だな。リムノの言うことももっともだ。でも、こういうことも考えられる。なにもこのナタがやられたヤツの物だとは限らない。これを使った誰かが捨てていった、ってこともあるだろ」

 わたしとキッポは顔を見合わせた。そんなことは考えもしなかった。いつの間にかナタの持ち主を決めてしまっていたのだ。――じゃあ、このやられた人は何にも武器になるような物を持たずに、この森を歩いていたの? 危険な獣だって出てくることもあるだろうに、樹の皮を重ねたものを着ただけで?

 わたしの思いを読んだかのように、ルカスが言う。

「何か武器は持っていたとしても、逆にその持ってた物を持って行かれた、のかもしれないし、な」

 キッポが首をかしげた。

「山賊や追いはぎが出るなんて、村の人は言ってなかったと思うけどなあ」

 無精髭の生えたあごをルカスはこすって、

「可能性だけで話してても始まらんけどな。その論で言えば、さっきオレは鋭くない何かで切られたんじゃないか、とは言ったが、リムノ、お前の得意分野でやられたのかもしれないぞ」

「――魔道でやられたかもしれない、って言いたいの?」

 ルカスは直接答えずに、髭をつまんでぷちっと抜いた。

 ――混乱して来た。

 魔道でこんな結果となるなら……。『灼炎(ファイア)』や『雷撃(サンダー)』の魔道じゃない。それだったら、鎧までもが燃えてしまうもの。最大の特徴である、鈍い傷跡……。『思念体(エナジーボルト)』か『追撃矢(マジカルアロウ)』なら、目標にぶつかった後で爆発を起こす。炎を使わずに。わたしが、今考えられる一番高い可能性は、『思念体(エナジーボルト)』を2発、背中と首筋に命中させられたんじゃないだろうか。 

 でも、

「待って待って。だいたいなんで、この人は裸なの? ――じゃなくって、殺された跡はあるのに死体がないの? なんで鎧やナタや、服だけが残ってるのよ?」

 わたしはルカスとキッポを交互に見た。

「そんなことオレが知るか」

「誰か食べちゃったのかなあ」

 同時に2人から答えが返ってきた。わたしはがっくりした。2人とも真顔で答えてるから始末が悪い。

 そんなわたしを見たルカスはちょっと笑って、もう一度無精髭をぷちっと抜いた。

「可能性を話してるんじゃなくて、動かなきゃしょうがないんだけどな。このままじゃキッポはともかく、お前は動けそうもないからな。ぐじぐじ余計なことを考えちまうんだろ?」

 ルカスの言う通りだったので、何も言えずにわたしはうなずいた。

「じゃあまあ、最初から考えてみるか。――と、なんでオレたちはここの森にいるんだ?」

 そこまで最初じゃなくてもいいのに。そう思ったのが顔に出たのか、

「いいから、そこらから考え出してみろよ。そうしたほうが頭も冷える。あと、そうだな……、キッポ。お前は最初のあたりは聞いてなくていいだろ。その、傷に良いっていう草を、まだあたりにあるかもしれない。見てきてくれないか」

「うん、いいよ」

 明るくキッポは答えて立ち上がった。地面に置いてあった総鉄製のハルバード(斧付きの槍)をひょいと手に持つ。

「一応、気をつけろな。――ゆっくりでもいいぞ。リムノが考えかんがえ話すのは、なんせ時間を喰うからな」

 ホント、人が悪い。でも当たってるから反論できない。――悔しい。わたしは、魔道を使う時の集中力はかなり高いらしいけど、構造式の理論を構築・構成するのと、考えながら話すのはまるで別。自分の考えに振り回されて、なかなか上手く話せない。――やっぱり悔しい。

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