表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/20

10:『死を弄ぶ者たち』の正体

 部屋に入り、ルームキーをかけた。さらに安全のため、『施錠(ロック)』の魔道もかけておく。共通している白魔道、『守護盾(カウンターシールド)』があるルカスのみが通れるようにして。やっとほっと出来るわ。ふう。熱いシャワーでも浴びたいところね。――キッポはカーテンを少しだけ開いて、下を通っている外の大通りを眺めている。そんなキッポに、

「森の中じゃないと、やっぱり不安?」

「うん……。石のことばも分かるけど、ここにあるのはみんな、人間が加工したものでしょ? だからあまり聞こえて来ないんだ。でも、森と一緒だよ。『助けて』って言ってる。声じゃないんだけど、何て言ったらいいのかなあ……。そんな感じがするんだ」

「言ってることは同じなのね?」

「そう。『何か良くないことが起こる。助けて』って」

 何なんだろう、この予言に似た感覚。わたしも感じるもの。娘さんがさらわれた、あの村の時からずっと。

「ここはルカスに任せましょ。あれでも情報を手にするのは、わたしたちよりずっと長けてるんだから」

 そう。

 最初にフォクスリングの部落がある、って訊き出して来たように。そして。それが始まりだったのよね……。

「何でボクたち。フォクスリングなんだろう?」

 言いながらカーテンを戻し、キッポは椅子に座る。わたしもテーブルをはさんで反対側に座った。

「『裏の世界で』って言ってたわね。公けに出来ない誰か、――ううん、そんな集団がかけているのかも。どうしてかは分からないけど」

 沈黙が訪れた。カーテンを閉じていても、大通りの喧騒が微かに届いて来る。そうそう。明日から1週間、お祭りなんだったわね。そんな気分にはとてもなれないけど。

「ルカスだ」

「え?」

「ルカスが帰って来たよ」

 さすがキッポ。わたしにも『守護盾(カウンターシールド)』の波動が感じられたけど、それより早く察してる。ノックが聞こえた。

「オレだよ。開けてくれ」

 一応用心しながら、わたしはルームキーを外した。大丈夫。本物のルカスだ。『施錠(ロック)』の魔道が跳ね返えそうとしていないもの。

「今開けるわ」

 お酒の臭いをぷんぷんさせながら、ルカスが部屋に入って来た。顔が真っ赤。

「ずいぶん飲んだのね」

 部屋に備え付けの水をごくごく飲んでる、そんなルカスに言った。

「付き合いで飲まないと、情報も手に入らないからな」

 ふう、とルカスは息を付く。

「何か……、分かった?」

 少し怯えを含んだ声で、キッポが訊く。

「いろいろな。あの店で正解だった。アルムテの、いや、この辺りの裏が分かったよ」

 椅子に座ったルカスは続けて、

「色の黒いフォクスリング」

『え?』

 わたしとキッポは同時に口にした。

「あいつらが賞金を懸けてる。村で殺されたらしいのがいただろ? そいつはどうやら、あの部落に危険を知らせようとして、()られたみたいだ。『死を弄ぶ者たち』の正体、それが色の黒いフォクスリングだよ。部落のフォクスリングたちが手出し出来ないように、聖堂に火を付けて壊したらしい」

 わたしとキッポは呆然とした。『死を弄ぶ者たち』が実在してる!? それが色の黒いフォクスリング!?

「じゃあ、娘さんは……」

 わたしはちょっと震えながら、訊いてみた。

「リムノが思う通りさ。おそらく魔族との契約に、生命を使われた」

「――そんな。ひど過ぎるわ」

 そう言いつつも、わたしはどこかで納得していた。生命を使うには、若い女の子が一番だと知っていたから。師匠の元で学んだわ。それが『死を弄ぶ者たち』の特性だって。

「ボクも、狙われてるんだね」

「ああ。キッポはまだまだ若い。それでいて経験が豊富だ。格好の獲物だよ」

 わたしは急激に心配になって来た。

「ねえ、ルカス。この街に居るの、危なくない?」

 だって、いつどこでかかって来られるか、分からないんだもん。

 もう1杯水を注いで来たルカスは、

「リムノが言うのも、もっともだ。でもここはもう少し、出方を待った方がいい。街中の方が、手出しはしにくいからな。それにまだ分かっていない、北の部落を探らないと、キッポの行き先が決まらないだろ」

 沈んだ声でキッポが、

「ゴメンね、ボクのせいで……」

つぶやいた。

「気にしないでよ、キッポ。手掛かりを見つけて、部落を探しましょ。ここも北の街だけど、もっと北方なのかもしれないし。それに、色の黒いフォクスリングが関係しているんだから、その部落も危ないわ。手遅れになる前に、何とかしないと」

 わたしは少しでも、キッポを励ましたかった。こんなに打ちしおれているキッポは、見たくなかったから。

「ルカス。部落の手掛かりはつかめなかった?」

 ルカスに訊いてみた。でも、首を横に振っている。

「そこまでは誰も知らなかった。元々が森の民だろ? 街中には情報が入りにくいんだろうな」

「北……」

 ぽつりとキッポがもらした。

「え?」

「北の部落。フォクスリングの、『過去・現在・未来』が描かれてた、って言うあの聖堂。老師が言ってたことかもしれない。『未来は闇から吹く北風。それに立ち向かい、つぼみから花開く『薫り高き宝珠』を手にせよ。汝、北に向かい、闇を目指せ』って。きっと、ううん。ここより北にある最果ての森。そこに部落があるよ、絶対に」

 どこか予言じみた言い方で、ゆっくりとキッポが口開いた。まるであの老師が、憑依してでもいるかのように……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ