ギャンブル
初めて投稿しました。
へたくそな文章だと思いますが最後まで読んでいただけたら幸いです。
陽一は腹這いになって茂みの中から様子を窺った。
視線の先では一人の男が青く塗られた建造物の中で身を小さくして座り、もう一人の男が周りを警戒しながらウロウロしていた。
「隆のやつ、やっぱり捕まってたか」
目的の位置を確認しその場を離れようとしたそのとき、さらにもう一つの人影が目に飛び込んできて愕然とした。
その人物は隆と身を寄せ合うようにして座っていた。
「そんな……響子まで……」
あまりの驚きに思わず身を起こしそうになり慌てて頭を下げる。
すでに二人も捕らえられているという事実は相手の能力の高さを物語っていた。
孤立無援となった事実を突きつけられた絶望感が陽一を襲う。
しかしそんなものにいつまでも浸っている場合ではなかった。
覚悟を決め、己の決意を口にする。
「僕一人でやるしかない」
そうして陽一はその場をそっと離れた。
捕らえた二人を見下ろす。
どちらも顔を伏せ、表情には絶望感を漂わせていた。
あと一人。だがそのあと一人が油断ならないことはよく分かっていた。
「もう終わりだよ」
その言葉に反応し、響子がさっきまでの表情を一変させ気の強そうな眼差しを向ける。
「まだ分からないわよ」
その言葉に肩をすくめておどけて見せると、響子は悔しそうに睨んで再び顔を伏せた。
隆は何も言わずに二人のやりとりを見ていたが、響子が言い返せなくなったのを見て、肩を落として俯いた。
二人を冷ややかな流し目で見る。
「もう終わりだよ。向こうの目標はここにあるのだから、自分は焦らないでここで待っていれば良いだけだ。それに時間が過ぎて焦り出すのは向こうさ」
そう言って口の端を上げて静かに笑った。
陽一は高台に場所を移していた。
そこにはちょうど横穴があり身を隠すには最適だった。
それにその場所からなら敷地が全て見渡せるという点も好都合だった。
「やっぱり離れる気はないか……」
その場所からしばらく様子を窺っていたが、相手が動く気配はなかった。
自分の腕に巻かれた時計に視線を落とす。
もうあまり時間がない。相手もそれを承知しているからこそ自分からヘタに動かず、こちらが動くのを待っているのは明確だった。
「自分から仕掛けるしかないか」
そう呟いたが一人では良い策も浮かんでは来なかった。
時間が過ぎるほど焦りに気持ちが蝕まれていく。
覚悟を決めて行動を起こそうとしたそのとき、三人がいる方向に人が近づいていくのに気付いた。
「あれは……チャンスだ」
陽一は三人に近づいていく人物を確認し、自分に千載一遇のチャンスが訪れたことを知ると、相手に気付かれないぎりぎりの位置まで移動するためすぐさま横穴から抜け出した。
捕らえた二人が呆然とした表情で自分を見ていることに気付いた。
なんだ?という疑問が浮かんで二人に声を掛けようとしたが、その視線は自分を通り抜けてさらにそのおく、自分の後方に向けられてると分かった。
二人の視線の先を確認するために振り返ると、こちらに向かって一人の人間が近づいてくるのが分かる。
その人物を目にした瞬間、本能的と言ってもいいほどの反応速度で身体が緊張で硬くなった。
その近づいて来る人物は自分にとって恐怖と同義語の存在だったからだ。
その人物との長い付き合いから歩調を見るだけで怒りを帯びているのが分かる。
とっさにこの状況に対する言い訳を考えるが、その考えを頭の中でまとめるよりも早く相手が目の前に到達してしまった。
「一体どうゆうこと?」
冷たく語りかけてくる。恐怖に上手く口が動かなかった。
「あんたは言われた仕事もちゃんと出来ないの?」
その静かな口調が恐怖をさらに加速させた。
完全に意識はその人物に向いてしまっていた。
あれほど周囲に警戒していたが今はそんな余裕もない。
目の前の人物の腕が静かに、そしてゆっくりと上がる。
恐怖がピークに達しようとしたそのとき、後方から自分に向かってくる足音が耳に飛び込んできた。
完全に不意を突かれた。
陽一は身を隠しながら近づいてきていたのだ。
振り返ると陽一が猛烈な勢いで向かってくる。
しかし身体が上手く反応しない。
『カーン!!』周囲に響き渡る音だった。
その刹那、電流のような強烈な感覚が脳天から顎へと突き抜けて、視界に火花が散り白黒に点滅した。
「きったねぇよ」
脳天をさすりながら口を尖らせて淳平が言った。
「油断するほうが悪い」
陽一が青く塗られた象のすべり台に手をかけながらニヤニヤ笑って言う。
「男の子がブツブツ言わないの!約束だからね。明日は淳ちゃん一人で掃除当番やってよ」
響子が腰に手を当てて勝ち誇った顔をしている。
「淳平君…かわいそうだよ……」
隆が上目遣いに見て言った。
「なんでよ?自分が負けたら明日一人で掃除当番やるから、あたし達が負けたら三日間あたしたちだけで掃除しろって淳ちゃんが自分で言い出したのよ」
「ちぇっ、あと一人だったのに母ちゃんが来るんだもんな」
淳平は母親から貰ったゲンコツの痛みが取れない頭をまだ擦っている。
「だから出前の帰りに遊んでたら怒られるぞって僕は言ったじゃないか」
陽一が呆れたように言った。
「ほら、なにしてるの。早く来なさい」
離れた場所から淳平の母親が大きな声で言ってきたのを聞いて、淳平は「ちぇっ」ともう一度舌打ちをした。
「分かったよ。約束だから仕方ない……じゃあまた明日な!」
そう言うとクルリと振り返り、手を振りながら走り去って行った。
淳平の後ろ姿を見送りながら「でもオバちゃんが来たときの淳ちゃん、凄い顔してたね」と隆が言ったので、響子が腹を抱えて笑った。
「あっ、もうこんな時間だ。僕も急いで帰らなきゃ塾に遅れちゃうよ」
そう陽一が言ったのをきっかけに、三人は帰ろうとしたが、隆が「あっ」と何かを思い出したような声を上げると、辺りをキョロキョロ見回しながら二人から離れていった。
それから隆はすぐに戻ってきて「じゃあ帰ろう」と二人に言い、三人で公園の出口に向かった。
隆は公園の入り口にあるゴミ箱に、先ほど拾ってきた物を投げ入れた。
それは先ほど陽一が思い切り蹴り飛ばし、カーンという音を上げて飛んで行った空き缶だった。
もっと長い話だったのですが、あまりにバカバカしいのでかなり省略しました。
なので、最後まで登場人物たちが『何をしていたのか分からなかった』と言う方はごめんなさい。
本来ジャンルはコメディだと思いますが、緊張感を出したいためにコメディというのは検索ワード以外では伏せました。
「アクションでもサスペンスでもないじゃん!」と怒りを持った方にはお詫びします。
最後に、この後書きまで読んでくれている方には深く感謝します。