美しいと滅
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真っ白な天井。独特な匂いが鼻をつく……。
「ここは?……あいつは?」
焦って体を起こそうとした瞬間、腹部に鈍痛が走る。
「イツッ……」
思わず腹をさすった。包帯がぐるぐると巻かれている。
私は個室のベッドの上で目を覚ましたようだった。
ふと、誰かに顔を覗き込まれる。
目が合う――美しい女性。
……凛さんだった。
「真希ちゃん、起きましたよ」
「大丈夫ですか? 緑さん」
私は笑いながら答える。
「大丈夫だよ。でも、どうしてここに?」
そこへ、マッキーが駆け寄ってきた。
「大丈夫ですか? 仁さんから電話がありました」
そうか……運んでくれたんだな。
よく生きていたものだ。あれは、完全に化け物だった……。
仁さんからある程度、事情を聞いたのだろう。
マッキーも凛さんも、心配そうな顔をしている。
凛さんが切ってくれたりんごを食べながら、私は話した。
「私の腹にさ、『モシャ』、ぶっとい脚が――
モキーンって来て、『モシャ』倒れた」
凛さんはやわらかな眼差しで言った。
「……分かりません」
「食べるか、話すか、どちらかにしてください」
マッキーも呆れたように。
「たい『モシャ』へんでしたね」
りんご、美味しいよねマッキー。
「コン、コン」
「入りますよ、真希さん、凛さん」
仁さんが来てくれていた。
目を覚ました私を見て、ほっとしたような表情を浮かべる。
「起きたか? 死んだと思ったぞ」
「半分、死にましたよ」
二人で笑い合う。
お互い、本当によく生き残ったものだ。
しばらく話した後、詳しい話は明日にして、今は休めと言い、仁さんは帰っていった。
その後、病院の先生から説明を受ける。
骨に異常はないが、三日ほど入院とのことだった。
マッキーと凛さんも、明日また来ると言って帰った。
その日は、泥のように眠った。
次に目を覚ました時、窓の外から朝の光が差し込んでいた。
体はまだ痛むが、回復している感覚はある。
自販機でコーヒーでも買おうと、部屋を出た。
「静かだな……まだ早いし」
廊下を歩いていると、女性とすれ違った。
……ん?
見覚えがある。
振り返ると、向こうも振り返り、私を見ていた。
「……あんた、何やってんの?」
退魔師の摩里だった。
「……コーヒーを買いに」
「違うわよ。なんでここにいるのよ?」
私は正直に答える。
「黒い着物を着てて、背中からぶっとい棘みたいな脚が六本生えた化け物に、ぶっ飛ばされた」
摩里は目を丸くする。
「はぁ?」
コーヒーを買ったあと、私の病室に移動し、詳しく話した。
話を聞き終えた摩里は言った。
「ふ〜ん。要は、仲間にならないなら殺すって言いに来たのね?」
私は頷く。
「多分な。厄介な奴に目をつけられた」
「山の王が、目覚めたのかしら?」
「う〜ん……目覚めてたら、引かないだろ。
警告だって言ってたし」
「じゃあ、そいつは王じゃない?」
「分からない……でも違う気がする」
確かに強く、不気味だった。
だが“主”とは、どこか違っていた。
「ところで、摩里はなんでここに?」
摩里は紅茶を飲みながら答える。
「知り合いが入院してるの。お見舞いよ」
「そっか」
私は以前見た呪符を思い出し、切り出した。
「なぁ……摩里。呪符って、私も使えない?」
さすがに、あの化け物を素手で相手するのは痛すぎる。
「呪符……あんたが?」
「そう! あの『滅』って燃やすやつ」
摩里は少し考えてから言った。
「……試してみる?」
私は自信満々に頷く。
三メートルほど離れた位置に、椅子を置き、赤い紙を貼った缶を乗せた。
「力を伝えれば煙が出るわ。訓練用だから燃えない。やってみな」
摩里は不敵に笑っている。
おいおい、お嬢ちゃん。
退魔師の私が出来ないとでも?
人差し指と中指を顔の前に立て――
「コン、コン」
「緑、入るぞ」
絶妙なタイミングで、仁さんが来た。
摩里を見て「誰だ?」という顔をし、私のポーズを見てさらに困惑している。
「仁さん、以前話した退魔師の摩里」
「あ、ああ。この娘が?」
「初めまして、神主の仁です」
「摩里です。さっき話、聞きました」
今から何をするつもりか説明すると、
仁さんは摩里と目を合わせ――
「はぁ……」
と、深いため息をついた。
気を取り直し、私は再び指を構える。
自信満々で、赤い紙に向かって力強く。
「滅……!」
…………………………。
何も起きない。
横で見ていた摩里は、「やっぱりね」と笑った。
すると、仁さんが同じ構えを取り――
「滅っ」
その瞬間、呪符から当たり前のように煙が立ち上った。
「無いわ、これは無い……」
私は一気にやる気を失った。
摩里は仁さんを見て尋ねる。
「鍛錬、やったことあります?」
「少しね。昔、やらされてたから」
何なんだよ、“力”って……どうやって飛ばすんだよ……。
そんな簡単なものじゃないと教えられた。
退魔師も、神主も、やっぱりすごい。
すると摩里が言った。
「じゃあ、こっちなら使えるはずよ」
そう言って、赤い呪符を二枚取り出した。
「今は誰も使ってないけど、作るのが面倒なのよ。
二枚のうち、どっちかを燃やせば、もう一枚も燃えるわ」
そ、そんな便利な呪符が……。
「燃やすって……ライターとかで?」
「そうよ」
摩里は真剣な顔になる。
「高いわよ……?」
――営業を仕掛けてきた。
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