不気味な存在
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「痛いじゃ……ないかいぃ」
――何だ、こいつは。不気味すぎる……。
身体の後ろから生えた、蜘蛛のような脚で立っている。
浮いた体は、空中を漂っていた……。
両腕、両脚をだらりと垂らし、顔だけが私を見つめている。
………………
「なんだ、お前は……私に、なんの用が?」
ニヤリと笑い、
「……ひっひ……鬼の坊やぁ……挨拶だよぉ」
足を振り上げ、地面を蹴った。
「ガンッ」
飛び上がり、私に向かってくる。
それを見た仁さんが、鏡を構えて前に出た。
「緑、俺の後ろに下がれ」
私は急いで、仁さんの後ろに張り付く。
太い棘の脚が、私たちを襲う。
槍のように突き出されたそれは、私たちに当たる寸前で、
鏡の結界に弾かれた。
「ガキンッ」
弾かれた化け物は、着地すると、
「忌々しいねぇ……神の加護かぇ」
鏡の結界は強力……だが……。
――あれを、私は倒せるのか……?
「忌々しいねぇぇ」
少しずつ距離を詰めてくる。
棘の脚で、ゆっくりと……。
片側、三本の脚が襲いかかって来た……。
「ガキン、ガキン、ガキン」
「くっ、緑、手はないか? そう長くは……」
もう半分の棘の脚が、私たちを襲った。
六本の脚が、一つの槍のように――
「ガキンッ」
攻撃は跳ね返した……が、仁さんが弾き飛ばされた……。
「仁さんっ」
目の前の化け物と対峙する……。
先端が鋭利に尖った脚の一本が、私に襲いかかる。
「くそっ」
全身に力を巡らせ、襲いかかる棘の脚を――
「シッ」
殴る。
「ガキンッ」
嬉しそうにニヤけながら、
「おもしろいねぇ……」
一本、二本。
連続で繰り出される、槍のような攻撃を、私は拳で弾き返していく……。
………………
仁さんは
「ぐっ……」
俺は、飛ばされたのか……。
いや……飛ばされただけで済んだ。擦り傷だけだ。
身体に力を入れ、立ち上がる……。
「ガキン」「ガキン」
……緑が、尖る脚の攻撃を拳ではね返している……。
「とんでもねえな……」
………………
極限の集中。
高速で迫る、脚の連続攻撃。
一切の余裕はない。息が上がり、拳から血が滲む……。
突き刺すような棘の脚を弾いた瞬間、
「ガキンッ」
……死角から、次の攻撃。
被せるような横薙ぎ。
「しまった……」
しなるムチのような一撃が、腹に直撃する。
「ドコッ」
身体はくの字に折れ曲がり、吹き飛ばされ、石畳の上を転がる……。
一瞬、静寂が流れた。
揺れる視界。
痛む身体を抑え込み、立ち上がる。
「ガハッ」
血を吐き、それでも化け物を睨みつけた。
異質な化け物は、嬉しそうに私に言う。
「鬼の坊やぁ……あんたは、こっち側に来な」
気を抜けば、倒れ込んでしまいそうな体で、精一杯強がる。
「ハァ……ハァ……誰が行くか……」
「緑、大丈夫か?」
仁さんが私の前に出て、鏡を構える。
「仁さん……大丈夫ですよ」
「鬼の坊や……敵になるなら、死ぬよぉ」
「今日は……警告さぁ……」
「ひっひ、ひっひ……また会おうねぇ」
「可愛らしい、鬼の坊や……」
そう言い残し、影の中に消えて行った。
最後まで、不気味な笑顔で、私を見ていた。
私は、意識を手放した。
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