三人輝く、月の世
とある、昼下がり。
美良 凛。
緑屋に来て半年、時間に余裕ができた。
不動産……ビルの管理まで任されている。
自分の思ったことが仕事に直接反映される。
やり甲斐はある。責任も……。
緑さんは一言、
「任せた」
それだけだった。
真希さんと二人で、のびのびやっている。
そして給料が良い。
ボーナスが……。
真希ちゃんの住む高級マンションに、
今月引っ越しました。
「ふふっ」
緑さんの仕事は、正直よく分からない。
物の怪と言われても……。
変な写真を燃やしていることはあるけど、
ただ、イワオさん、すぅさんとは
挨拶を交わした。
「よろしくねぇ」
と、凄く軽いものでした。
この世界に、鬼が実在するという事実は
驚愕そのものでした……。
今日も窓の外を眺めて、日向ぼっこする緑さん。
……まぁ、気を使わなくて良いですからね。
「緑さん、書類にサインをお願いします」
「……あ〜い」
何も確認せずに、サインを書き込む緑さん。
「少しは確認してください」
眠そうな目でこちらを見て、
「凛さん、私は見ても分からない」
「お任せします。凛さんのお陰で
利益は右肩上がりでございます」
「神様、仏様、凛様、ありがたや〜」
私を拝み、
「失礼します」と言って、
再び日向ぼっこに戻りました。
……大丈夫ですか?
私の先輩、真希ちゃんは、
そんな緑さんを見ても
「気にするな」と言っています。
彼女もまた、
高級紅茶を飲み、クッキーを食べながら
幸せそうにしています。
緑屋の日常は、平穏で良いですねぇ。
……と、緑さんが思い出したように言いました。
「あ! マッキー、今日13だ。旧暦13日」
マッキーがカレンダーを確認する。
「そうですね、近藤様の日ですよ〜」
「忘れてた、危ない」
「マッキー、どうする? 夜勤する?」
「行きま〜す」
たまにある夜勤ですね。
私はまだ行ったことはありませんが……。
「凛さんも、そろそろ慣れてきたし
行ってみる?」
「もちろん、夜勤手当つくよ」
夜勤手当は魅力的ですね……。
夜勤で、
「仕事内容は、なんでしょう?」
緑さんは少し考えて、
「それは言えないんだ。簡単だよ」
言えない?
真希ちゃんを見る。
「凛さん、簡単ですよ。臨時収入です」
「私も行きますから、行きませんか?」
行ってみないと、分かりませんね。
緑さんも、真希ちゃんもいますし……。
何より、臨時収入ですねぇ。
「分かりました。私も行きます」
「じゃあ、夜、凛さんとマッキー、
迎えに行くよ」
「「分かりました〜」
その日、昼間の仕事は早上がりにした。
夜に備えて、だ。
大きな月――普段より少し明るい夜道を、
車で走る。二人を乗せて。
助手席のマッキーが空を見上げて言った。
「大きな月ですねぇ〜」
後部座席の凛さんも、同じように空を見上げる。
「本当ですね、大きいです〜」
「今日は月に一度、月が特に輝く日だね」
叔母わらしが現れる夜。
彼女は宴会を楽しみ、酒や料理を味わい、歌を歌い、
日付が変わると、満足したように帰っていく。
私たちがいようと、気にしない。
ただ、座っていればいい。
「凛さん」
「はい、なんでしょう?」
「少し、説明をね……屋敷に入ったら、
いろいろなものを目にすると思う。
そこで――見たもの、聞いたものは、
外で話しては駄目だよ」
緑さんが、珍しく真剣な表情をしています
近藤様からの依頼――機密事項なのでしょう
この街でも指折りの家柄であり、企業でもありますから…
知られてはいけないことも多いはずです
「分かりました。口外しません」
凛さんは、やはり理解が早い。
「うん。それと、二十二時から零時まで、
座っているだけでいいよ」
「それだけ……ですか?」
「うん、それだけ」
「暇だったら、パソコンや携帯を見ててもいい」
「分かりました」
しばらく見ていない映画でも観ましょうか
真希ちゃんも、すっかりリラックスモード
ですね
まだ月を見上げてる真希ちゃんは
「大きいですねぇ……月……」
近藤一族の本家がある、小高い丘の前に着いた。
輝く月に照らされた、大きな屋敷――圧倒される。
「凛さん、あそこですよ。お屋敷」
マッキーが、月に照らされた先を指差す。
凛さんは見上げながら、感嘆の声を漏らす。
「立派なお屋敷ですねぇ」
「近藤一族の本家ですから。
大きいですよぉ〜」
丘の上、屋敷の門の前でエンジンを切る。
近藤家のお手伝いさんが現れ、
「こんばんは、緑さん。いつもの、お願いします」
車を降りて挨拶をする。
「こんばんは。いつものですね」
三人で降りたため、少し戸惑った様子のお手伝いさん。
「本日は、三名様ですか?」
「明さんには、話を通してあります」
「左様でしたか。では、こちらへ」
門をくぐり、屋敷へと歩く。
「ジャッ、ジャッ」と、足音が静かに響く。
凛さんは周囲を見回し、小声で言った。
「本当に立派ですね、真希ちゃん?」
「そうですね。何回か来てますけど、
いまだに慣れませんよぉ〜」
二人はキョロキョロしながら、玄関へ向かう。
玄関に入ると、今宵も聞こえてきた。
「わっはは〜」「きゃっはは〜」
楽しげな笑い声が、屋敷に響いている。
私たちは目配せし、静かに頷いた。
「こちらです」
笑い声が響く部屋。
大きな障子の前で、お手伝いさんが立ち止まる。
「私は、ここで失礼いたします」
そう言って、戻っていった。
「マッキーは、いつも通りね」
「はいっ」
「凛さんは、話した通りにお願い」
「分かりました……」
「よし、行こうか……」
片方の障子に手を掛ける。
今宵も、
月夜の宴会が――始まる。




