理想と現実とマッチ棒
「ふふっ」私は笑う。キマった。
オーディエンスを間接視野で捉える。
「チラッ」
摩里は口をあんぐり開け、目が――すんごい。
エリカさんは両手で目を覆っている。
だが、指の隙間が……開いてる。
ガッツリ見てる。壁から顔だけ出す体勢で、
体は真横に、くの字だろう……大変だ。
どんなに凶悪な姿形でも、所詮は煙。
脆い。私は骸の核を地面に叩き付けた。
「ビタン」
……シュワっと消えた。
なんなの……こいつ。
あたしは驚きに震えた。
魔獣黒衣は、死を連れて来る。
実体を持てば、凶悪な魔獣になる。
なのにこいつ……。
緑は……気持ち悪い体勢で、
マッチ棒みたいな姿勢だったわね……。
ジャンプげんこつで、あの魔獣黒衣を、
割った……滅した……。
その後……寝室に戻ると、雪さんは優雅に
ステーキを食べていた。治ったみたいだ。
「グー」
私のお腹が鳴った。
「あら!?……緑さんも、食べる?」
れいらさんが安心した表情で言う。
「お母さん、体調は?」
「急に良くなったのよ〜」
「お腹が空いて、ステーキよ」
「秋元、皆さんの分も用意してね」
「かしこまりました」
皆で談笑し、沢山食べた……。
「黒い化物が、グワーっと来たんです」
「摩里さんが、紙を投げたり」
興奮したれいらさんは、雪さんに説明している。
私の“虎砲”まで話が進み、期待した……。
「緑さんが、変な体勢で……」
摩里が口を挟む。
「マッチ棒げんこつよ。気持ち悪い体勢で」
「何が“虎砲”よ。気持ち悪い」
……嘘……。
そんな感じに見えてたの?
「そうです。げんこつで、緑さんが」
「グァーっと、倒しました」
「あらぁ、そうなの。ありがとうね」
「緑さん、摩里さんもね」
「また何かあれば、お願いね。緑さん」
私は、天空まで伸びる信頼を、太く勝ち取った。
…三上一族は、明日も繁栄する。
熱いお礼と、分厚い封筒を貰い、
豪邸を後にした。
「緑……あんた、こうやって稼いでる
のね?」
分け前を貰った摩里は、呆れていた。
「そうだよ。今日は特に大事な仕事だった」
「摩里がいて助かったよ、ありがとう」
「まぁ別に、悪い事をしてる訳ではないわ」
「魔獣は、ちゃんと滅したから」
摩里を車で送る間、色々聞いた…
どうやら、私が言う“物の怪”が魔獣だとか、
師匠の元で長く学び、実戦を通して、
退魔師を名乗れるようになる等……。
私は「へぇ〜」「ほぉ〜」と、
驚きの連続だった。
私が摩里に気付かなかったのは、
影縫いという技らしかった。
「最近、魔獣の力が増してる気がするわ」
ついこの間の“おっシャレ”を思い出し、
「そうだな……何か異変があるのかな?」
摩里は難しい顔をして言う。
「この街は、特殊だからね」
「四方の山からの……影響を受けやすい」
“白夜山の主・亜子”が言った事を、
……私は思い出した。




