菩薩とオウム
「私は便利屋、緑屋の、緑です」
「よろしくお願いします」
そう言って、机に置かれた履歴書を
「失礼します」と伝えて、
手に取った……
美良 凛 29歳。
私立大学・経済学部を卒業後、
会計士資格を取得。
大手監査法人に勤務していたが、
激務に嫌気が差し退職。
現在は、事務・会計・契約管理を
一手に引き受けられる職を探していた。
……私は硬直した。
……かんさほうじん?
会計士資格って、何に使うんだ?
……あかん、分からん。
何故こんな人が、うちに?
どうしようか、考えた。
マッキーと視線が合う。
私は冷静沈着な態度で――
「ちょっ、しつれぃしゃ……」
光速で舌を噛んだ。
そう言って、マッキーに
履歴書を見せ、ひそひそと。
「やばいマッキー、化物がきた」
履歴書を見たマッキーは
「す、凄いですね……どうするんです?」
先輩風は、急速な温暖化により
跡形もなく過ぎ去ったようだ。
「間違えてないか、確認しよう」
「そ、そうですね」
きっと彼女は迷子になったんだ。
教えてあげなければ。
そんなパニック状態の私達を他所に、
美良様は、スッと前を見ておられる。
私は席に戻り、彼女を諭す。
「時に人生という迷路は――」
「思わぬ場所に、壁を作るものです」
「……はぁ?」
「美良様は、人生という迷路に」
「迷っておられるだけですよ」
菩薩のような微笑みで、美良様を見る。
「すみません、何を言っているのか
分かりません」
冷静な視線が突き刺さる。
耐えきれず、もう一度――
「美良様は人生とい――」
「迷っておりません」
「思わぬ壁など、ありません」
……えぇ……迷子じゃないの?
「個人経営にしては、
待遇が良かったので応募しました」
「ボーナスあり、と書かれていましたが、
具体的な金額を聞いてもよろしいですか?」
私はオウム返しで答えた。
「はい、固定給と合わせて」
「月に、百五十万です」
「仕事の頻度により上振れします」
「減ることは、ありません」
美良様は、さらに不可解そうな顔で――
「私の前職の収入を超えます」
「失礼ですが、どこにそんな収入源が?」
「どのように利益を上げているのですか?」
「それと……」
「面接官が“美良様”は不要です」
それも素直に答えた。
「顧客に、近藤様と三上様がいます」
「月に一度、固定で仕事があります」
「なるほど……近藤様と三上様が……」
名前だけで察したようだった。
「では――」
「便利屋とは、何をするのでしょう?」




