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それは、それとて  作者: 明日


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新たな、主






今日も私は夕日を眺めながら

コーヒーを飲み、黄昏者のスイッチを入れた。

窓から見る街の景色を嗜む。

マッキーも仕事を終え、

高級紅茶を飲んでいた。

時間まで、あと三十分か……。

 

「リン」

鈴の音が鳴った直後、

「コンコン」

事務所のドアが叩かれた。

一瞬で鳥肌が立つ。


マッキーは、いつもの調子で

「はーい、ただいまぁ~」

と向かおうとした。

私は即座に止める。

「マッキー、待て」

いつもと違う声色に、

マッキーはビクッと立ち止まった。

静かな沈黙。


すると再び――

「リン、リン、リン」

鈴の音。

事務所のドアに、鈴など付いていない。

動かない。

動けない。


まるで、偽鵺を相手にした時のようだ。

外から声がした。

「いるんじゃろ?

 なに、少し挨拶に来ただけじゃ」

少ししゃがれた、女の声。


私はマッキーに耳打ちする。

「鏡を持って。

 何かあれば、すぐに“すぅ”に連絡を」

マッキーは頷いた。

瞬時に理解したのだ。

――これは、私の手に負えない。

 

私は冷静を装い、

「はーい、今開けます」

そう言ってドアを開けた。


外には、真っ白な着物を着た

白髪の女性が立っていた。

左手には、小さな鈴。

「少し、邪魔してよいかのぉ」


得体の知れないものを、

事務所に入れたくはない。

マッキーもいる。


返事をしない私に、女は笑った。

「とって喰いなどせんさ。

 邪魔するぞ」

「あ……どうぞ」

断る力は、今の私には無かった。

マッキーに目配せし、

ソファへ案内する。


マッキーは少し硬い動きで、

「お茶です」

と差し出した。

女は受け取り、

「おー、すまんのう」

と一口飲む。

「そう警戒するな。

 お互い“主”じゃろ」


一瞬、こちらを見て、続けた。

「……おっと。

 お前さんは、もう譲ったみたいだがのぅ」

……主、だと。

そんな化け物が、

なぜここに?

 

「何の用だ?」

警戒を隠さない私に、女は笑った。

「クックック。

 言ったじゃろ、挨拶じゃ」

「わしはな、白夜山の主。

 亜子じゃ」

「名は何だ、人間」


私は正面に座り、

マッキーを視界に入れる。

鏡は、彼女の手の中。

最悪の場合、

マッキーだけでも

すぅに飛ばせればいい。

 

「私は緑だよ」

「白夜の山の主が、

 なぜわざわざここへ?」

亜子は、ゆっくりと語り始めた。

「元の猿はな、

 話の分かる主でな」

「お互い干渉はせんが、

 ある山の監視はしておった」

戸惑う。

「話が分からない。

 ある山? 監視とは何だ?」

亜子は首を傾げる。

「ふむ……何も知らんのか?」

「この街の近くに、

 四つの山があるじゃろ」

それは知っている。


一つは、叔母わらしの山。

二つ目は、最近まで私が主だった山――

今は仁さんが治めている。

三つ目が、この白夜山の亜子。

四つ目は……

元帥山。

名前しか、知らない。

 

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