懺悔の花は咲く
そう視えるんですよ、不思議な物が。
私は、少しだけ笑った。
敦は肩をすくめる。
「怖い話ですか?便利屋も暇でいいな」
もう、敦の存在が目に入らない様子で、
マッキーが私を見た。
「……その方は、どうなったんですか?」
私は、淡々と答えた。
「死んだよ。自殺した」
「えっ……」
マッキーの声が、かすれる。
私は続ける。
「その人の耳にね、少し大きな黄色い花があ
った」
「いや……正確には、ピアスじゃない」
「耳に“咲いて”たんだよ」
「黄色い花が」
敦を見ながら、言葉を置く。
「時々、花びらが動くんだ」
「ゆっくり、呼吸するみたいに」
場の空気が、冷えた。
「後悔と懺悔と、命を種にして芽吹く」
「綺麗な花だ」
「普通はね、男には咲かない」
「命を産めないから」
敦が、わずかに眉を動かした。
「でもさ」
「何かしらの“線”が出来ると、稀に男にも咲く」
敦は笑おうとして、失敗した。
「……線って、なんですか?」
私は静かに返す。
「繋がり、だよ」
マッキーが考え込むように言った。
「どうやって……繋がるんですか?」
私はマッキーにだけ、向けて答えた。
「その子の父親だと、自覚する」
「それだけで、線は出来る」
「伝われば、もっと強くなる」
私は、敦を見下ろす。
「お前さ」
「綺麗なオレンジ色の花、咲いてるけど?」
「両耳に」
敦の喉が鳴った。
私は、眠っているえっちゃんとキャロリンを一瞥する。
「女の人は、悔いる」
「後悔して、苦しむ」
「男はな」
「気づくのが、遅いだけだ」
敦は、私の視線の先を追い、
誰を見てるかに、気づいた
「……何言ってるんですか」
「知りませんよ、そんなの」
マッキーは、私を見ていた。
問いではない。
確認だ。
――本当なんですね。
敦は、口角が、引きつっていた。
「冗談、きついですよ」
私は一歩、近づいた。
「夜中さ」
「子供の泣き声、聞こえないか?」
敦の肩が、僅かに揺れた。
「夢、見るだろ」
「暗い部屋で、何かを探してる夢」
沈黙。
マッキーが、息を飲む。
敦は無意識に両耳に触れかけ、
途中で止めた。
「……知らない」
「そんなの、知らない」
声が、掠れている。
「子還しは、祓えない」
「許されもしない」
「ただ、咲いて」
「そこに、居続ける」
寝息を立てる二人。
同じ色の花。
同じ重さの業。
マッキーが立ち上がる。
「帰りましょう、緑さん」
私は頷いた。
席を立つ私たちの背中に、
敦は何も言えなかった。
ただ――
両耳を
何度も、何度も掻いていた。




