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それは、それとて  作者: 明日


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甘い、紫







街は、慌ただしく動いていた。

二階建ての事務所、その窓から


走り抜ける車の列をぼんやり眺める。

昼の弁当を食べ終え、


私は良い雰囲気を気取って黄昏れていた。

ふと、マッキーに目をやる。


……高級感が、増している。

服装も、所作も、

以前より一段、上に見える。


太陽の光を受けて、胸元のネックレスが

時折、きらりと反射した。

――高そうだ。


眠たそうなマッキーが、あくび混じりに言う。

「緑さん、駅の近くの……ほら。

 よく当たるって評判の占い、知ってます?」


占い、か最近やたら耳にする。

この街は、ちょっと栄えた田舎だ。


一度流行れば、一気に広がる。

そして――飽きられるのも、速い。

「近頃よく聞くね。

 マッキー、行ったの?」


女性はこの手の話が好きだ。

小金持ちのマッキーも、例外ではないと思った。

「行かないですよ〜。

 友達に誘われましたけど、

 占いとか怪しくて」

笑いながら言う。


やっぱり。

マッキーは現実主義の、出来る女だ。

「緑さんは、占いとか信じます?」

「うーん……信じないな」

マッキーは、でしょうね、という顔で笑った。


その時だった。

「コン、コン」

「すみませーん、いらっしゃる〜?」

少し甘ったるい、……セレブの声。


マッキーと目配せし、

「はーい、ただ今〜」

ドアを開け、来客を迎え入れる。


……セレブだ。

私は立ち上がり、丁寧に頭を下げた。

「どうも、はじめまして。

 こちらで便利屋をしております、

 緑屋の緑と申します

本日は、どういったご要件で?」


ソファに座ってもらい、

名刺を差し出される。

――麻生カンパニー 代表

  麻生りんこ


代表、ね。

私は名前や肩書きで人を判断しない。

人間は、本質だ。

「麻生様、寒くありませんか?

 コート、お預かりしますね」


完璧に、ご機嫌を取りにいく。

マッキーは、

以前「高かった」と大事に取っておいた

香り高い紅茶を淹れていた。

「紅茶でございます」

……出来る。

「あら、いい匂い」


麻生様は、上機嫌だ。

私はマッキーに、

小さくグッドサインを送る。

マッキーは、静かに頷いた。


改めて名刺を見る。

麻生カンパニー?

聞いたことがない。


この街で十年近く仕事をしていれば、

それなりに大きな会社や地主、


政治家の名前くらいは把握している。

だが、この名前は――無い。


大きな帽子を被り、

紫のドレスに身を包んだセレブが言った。

「緑屋さんですわね。

 色々と噂は聞いておりますの」

「ほら、私……駅のそばで

 《夢の館》ってお店を出しているのよ」


……占い師か。

占いと関連商品で荒稼ぎ。

一発当てた瞬間成金。

私は、瞬時にそう判断した。

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