青鬼
仁さんは、もう言葉を失っていた。
神主としての知識も経験も、
目の前の光景を理解するには足りなかった。
マッキーは本殿から飛び出し、
両手を口に当てて叫ぶ。
「イワオさーん!がんばってくださーい!」
……応援モードだ。
すぅは私の隣に立ち、
腕を組んだまま、イワオに言った。
「久しぶりにさぁ〜
全力、全開でいいわよ〜」
その言葉が届いた瞬間だった。
イワオが、雄叫びを上げた。
「オオォォォォッ!!」
空気が、震えた。全身に力が込められ、
バンッ、と音を立てて筋肉が膨れ上がる。
皮膚の下で、
筋が、骨が、意思を持ったように隆起する。
目が血走り、地面の石畳が、ミシリと軋んだ。
――格が、違う。
鵺が、一歩、後ずさる。猿の頭が喚き、
虎の頭が牙を剥く。
尻尾が、二本、同時に跳ねた。
「ガギンッ!!」
両腕で、まとめて受け止めた。
掴む。次の瞬間。
「ブンッ」
鵺の巨体が、
まるで布袋のように振り回され、
境内の端へ叩きつけられた。
「ドォン!!」
地面が割れ、
砂埃が舞い上がる。
鵺が起き上がろうとする前に、
イワオは、もう踏み込んでいた。
速い、巨体に似合わぬ速度で距離を詰め、
拳を叩き込む。
「ゴッ」
猿の頭が、ひしゃげた。
「グギャッ!」
続けて、逆の拳。
「ドンッ」
虎の頭が、横に吹き飛ぶ。
鵺の身体が、崩れ落ちる。
尻尾が暴れ、爪が空を裂く。
だが――
当たらない。
イワオは、一切、焦らない。
淡々と、確実に、
“壊す”。
拳が、振り下ろされた。
「ズドンッ!!」
鈍い衝撃音。
鵺の身体が、完全に地に沈んだ。
動かない、境内に、
重たい静寂が戻る。
すぅが、手を叩いた。
「はーい、終わり〜やっぱ強いわぁ」
マッキーが、目を輝かせて言う。
「……すご……」
仁さんは、ただ立ち尽くし、
呟いた。
「……これが…鬼、か……」
私は、ようやく息を吐いた。
――助かった。
完全に、圧倒的勝利だった。




