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それは、それとて  作者: 明日


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31/129

身体の、変化






最初は、

ただの小さな山烏だった。

餌には困らなかった。


山には、いくらでも命があった。

だが、ある時――


腹ではなく、別の何かが満たされなくなった。

同族を、喰いたい。

理由は無い。


ただ、その欲求だけが生まれた。

山烏は、共喰いを始めた。


無数に喰った。

貪り、引き裂き、飲み込んだ。

その瞬間、身体に変化が起きた。


足が、四本になった。

同族の命を取り込むたび、

体の奥が満たされていく。


次は、

もう少し大きなものを喰おう。

猿を喰った。


山の中で、猿だけを喰い続けた。

残骸が増え、血の匂いが山に染みついた。


ある時、尻尾が生えた。

足が伸び、手が生え、


体は太く、丈夫になっていった。

山烏は、物の怪になった。


鳥の羽。猿の尻尾。

手足と、歪に膨れた身体。


――まだ足りない。

次は、自分より少し大きな存在を。

物の怪は、物の怪を喰い始めた。


噛み、引き裂き、押し潰す。

数千の命を、ただ喰い漁った。


殺すたび、身体はさらに強くなり、

羽は広がり、爪は鋭くなった。


そして、頭が二つ生えた。

片方は、「喰え」と叫び続ける。

もう片方は、次に狙う獲物を選び始めた。

意識は、かつてないほど鮮明だった。


この山に、もはや敵はいない。

そう悟った時、物の怪は山の麓にいる――

人間へと目を向けた。


喰いたい。

喰いたい。


だが、この世界には掟がある。

山と、人間の境界線。

それを越えてはならない。越えられるのは、

相手が禁を犯した時だけ。


物の怪は、境界の向こうを見つめながら、

その時を待った。

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