身体の、変化
最初は、
ただの小さな山烏だった。
餌には困らなかった。
山には、いくらでも命があった。
だが、ある時――
腹ではなく、別の何かが満たされなくなった。
同族を、喰いたい。
理由は無い。
ただ、その欲求だけが生まれた。
山烏は、共喰いを始めた。
無数に喰った。
貪り、引き裂き、飲み込んだ。
その瞬間、身体に変化が起きた。
足が、四本になった。
同族の命を取り込むたび、
体の奥が満たされていく。
次は、
もう少し大きなものを喰おう。
猿を喰った。
山の中で、猿だけを喰い続けた。
残骸が増え、血の匂いが山に染みついた。
ある時、尻尾が生えた。
足が伸び、手が生え、
体は太く、丈夫になっていった。
山烏は、物の怪になった。
鳥の羽。猿の尻尾。
手足と、歪に膨れた身体。
――まだ足りない。
次は、自分より少し大きな存在を。
物の怪は、物の怪を喰い始めた。
噛み、引き裂き、押し潰す。
数千の命を、ただ喰い漁った。
殺すたび、身体はさらに強くなり、
羽は広がり、爪は鋭くなった。
そして、頭が二つ生えた。
片方は、「喰え」と叫び続ける。
もう片方は、次に狙う獲物を選び始めた。
意識は、かつてないほど鮮明だった。
この山に、もはや敵はいない。
そう悟った時、物の怪は山の麓にいる――
人間へと目を向けた。
喰いたい。
喰いたい。
だが、この世界には掟がある。
山と、人間の境界線。
それを越えてはならない。越えられるのは、
相手が禁を犯した時だけ。
物の怪は、境界の向こうを見つめながら、
その時を待った。




