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それは、それとて  作者: 明日


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やり方 簡単






緑屋の初仕事、マッキーの初日、

私は事務所にいた。


「今日は教えるだけ、仕事はしない」

そう言うと、


マッキーは少し安心した顔をした。

事務所は六畳ほどだ。

古い机が二つ、来客用のソファー、

棚には書類と、用途不明の箱。

「ここが私の机、こっちが君の」

「電話は一台だけ。基本、君が取る」


マッキーは頷き、

真面目にメモを取り始めた。

「書類は三種類。白は請求、茶は依頼、

 青は触らない」


「触らない、ですか?」

「触らない」

理由は言わない。


マッキーも聞かなかった。

「電話の出方は簡単、鳴ったら――」


私は受話器を指で叩く。

「『緑屋です』って、一回だけ言う」

「はい」

「相手の名前は聞かない」


マッキーは一瞬だけ、ペンを止めた。

「聞かなくて、いいんですか?」

「向こうは知ってる」

「……分かりました」

分かっていない顔だが、納得はしている。


そういう顔だ。

「用件を聞いて、

 困ったら全部こう言えばいい」


私は少し間を置いて、

ゆっくり言った。

「『折り返します』」

「本当に、

 折り返すんですか?」

「私が判断する」


それでいい。

「来客が来たら、お茶を出す。

マッキーは何も言わず、二重丸を付けた。

「留守番中、

 事務所から出ない」

「トイレは?」

「裏」

「はい」


教えることは、それくらいだった。

「意外と、

 普通ですね」

マッキーが笑った。

「便利屋だから」

それ以上でも、それ以下でもない。


一通り終わり、私は立ち上がった。

「じゃあ、

 少し外に出る」

「え、もうですか?」

「練習だ」


マッキーは背筋を伸ばした。

「はい。

 任せてください」


ドアを開ける前に、

一つだけ言い忘れたことを思い出す。

「あと――」


マッキーがこちらを見る。

「何も起きなくても、報告はして」

「はい?」

「何も起きなかった、

 っていう報告」

「……分かりました」


外に出て、ドアを閉めた。

しばらくして、私は戻った。


事務所は静かだった。マッキーは机に座り、

メモをまとめていた。

「どうだった?」

「電話が一本ありました」

「内容は?」

「よく分からなかったので、

 折り返します、って」


正解だ。

「来客は?」

「ありません」

「他は?」

マッキーは少し考えてから、

首を振った。

「何も」


今日は、

マッキーの初仕事だった。

静かな、良い一日だ。

――――――――――

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