表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/9

8

「あぁ、でも残念だな。僕は薬を飲んだ時の記憶がないからーーーもし戻れるなら味わい尽くして飲み干したのに……」


(エ、エリク兄……?)


 目の前の男の様子にコレットは思わず後ずさる。


「コレット……嬉しいよ、コレット。君から手紙が来なくなった時にはどうしてやろうかと思っていたけどーー全部、受け止めるよ。多分君のことだから僕のことを考えて会わないようにしていたんでしょう?」


 更に離れようとしたコレットの腕をエリクの手が引っ張る

 バランスを崩した彼女はそのまま、エリクの胸の中に飛び込んだ。


「はぁ……この部屋はたまらないね。そこかしこから君の香りがする」


 コレットの髪に顔を埋め、大きく深呼吸するエリク。

 暫くそうしていたと思ったら、徐にコレットを抱き上げて言葉を放った。


「で、寝室はこっちかい?コレット」


(何を言ってーーー!!)


 ばん、と開けられた部屋は確かにコレットの寝室だった。

 ーーーそして、そこにはエリクに渡すことのできなかった誕生日プレゼントが置かれていて。


「これは……“親愛なるエリク兄へ”……こんなに……沢山……」


 包装紙につけられたメッセージカードを読み上げ、感極まったエリクはそのままの勢いでベットにコレットを押し倒した。


「嬉しいよ!コレット……僕は君の愛に包まれていたんだね……」


(そう、だけど……違う!何かが違う!私とエリク兄の思いには大きな壁が……)


「ねえコレット……大好き……愛しているよーーーだから、もう逃げるなよ」


 耳元で落とされた低い声に、コレットの体はぴしり、と固まる。


 エリクの銀色の髪がコレットの顔周りにサラサラと流れ落ちてくる。


(あぁ……檻の中みたい)








「僕はね、もうおかしいと思うよ。

僕も、ダルクも、サーラもカヴィスもローリーも、みんなみんなおかしくなってしまってるーーーそんな僕がかろうじて人間で居られるのは何でだと思う?」


 朦朧とする意識の中、コレットは小さく首を横に振る。


「君だよ、コレット。君だけが僕を人で居させてくれるーーーね?だから、コレット……僕を怪物にしないでね」


 体中が熱くて、訳も分からずエリクの手を強く握った。


「あぁ……コレット。僕の唯一……」



 エリクがあまりにも泣きそうな顔をするので、コレットは握った手を解き彼をそっと抱きしめた。







「はぁ〜!凄いですねぇ……完全に体に術式が組み込まれてます。定められた以上の距離を物理的に離れられなくするものですね。お見事」


 コレットの左手の甲をまじまじと眺めながら所長は感嘆の息を吐く。


【お見事、じゃなくて外せませんか?これ】


「そんな事したら、私の命日が今日になってしまうじゃ無いですか」


「そうだね、外す必要なんてないでしょ?コレット。それとももっと際どい術式掛けようか?」


【……遠慮しておきます】


 あれから数日が経ち、所長室にて三者面談が行われていた。


「まぁ、何にせよめでたいですねぇ。幼馴染同士の結婚!そしてエリクさんが研究所顧問として働いてくれるというのだから!ここも安泰ですねぇ」


【所長!その結婚なんですが、私婚姻届を記入した覚えがなくて。身分もいつの間にか子爵家に戻っていたんですが】


「僕が書いておいたし、お義父さんお義母さんにも話は通しておいたよ」


「すみません、最近目は霞むわ耳は遠くなるわで」


【所長まだそんなお年じゃないじゃないですか!エリク兄もそれは犯罪では?】


「犯罪に関してはコレットさんは大きな声で言えないでしょう?」


(…ぐ、ぬぬ)


「あ!あなたがコレットに術をかけた事は怒ってますからね。僕より先に何をしてくれてるんだ」


「えぇ〜、そもそも、あなたが薬を飲めたのは私のおかげだし……それにコレットさんがお願いしてきたんですよ?……可愛いじゃないですか、全てはあなたに迷惑をかけたくない一心で」


【所長】


「知ってますか?あなたと巫女様が新聞記事になってすごく落ち込んでたんですから彼女」


「そうなの?コレット」


【……黙秘します】


 嬉しそうに笑うエリクはコレットの髪を優しく撫でると耳元で囁いた。


「でも、コレットはもう知ってるよね?僕の愛が誰にあるか」


(ーーーっ!!)


 途端に顔を真っ赤にするコレットに、エリクはさらに笑みを深める。


「はー…10年、頑張った甲斐があったなぁ…

世界はどうでもいいけど、僕とコレットが一緒にいる為には守らなくちゃいけなかったから」


「エリクさんは本当にコレットさんを軸に生きてるんですねぇ」


「当然」


「ーーー…でも、余計なお世話かもしれませんが頸はもっと隠すように教えてあげてもいいのでは?」


「なんで?コレットはこんなに可愛いんだから。虫除けは必要でしょ?」


「……もうあなたのものだと周知の事実すぎて誰も手を出せませんよ」


(ーーー?)


【何の話?】


 コレットの問いにエリクはやはり笑顔のまま何でもないよ、と答えた。











『ねぇエリク兄』


『なに?コレット』


『大きくなったらエリク兄と結婚する!ーーーしてくれる?』


『ーーーー勿論だよ、コレット』



 エリク、9歳。

 コレット、6歳。


 この日、エリクの人生は決まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ