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 コレットは近くにあった柱に身を隠した。

 ばくばくと動く心臓は痛いほどに動揺をあらわにしている。


(どうして、ここに……)



「エリク・アルノー様っ!こちらにどのようなご用でしょうか?」


 研究所の受付係が慌てた様子を隠すこともなく対応する。

 先日の巫女・サーラの来訪に続いてエリクが来たことに心底動揺していた。


「ーー人を、探していてね」


(ーーわっ、エリク兄の声知らない男の人みたい)


 最後にコレットがエリクの声を聞いたのは彼が15歳の時。

 声変わりをして低くなったと思っていたが、それ以上に深みを増した声色になっていた。


「人、ですか?もし先日巫女様が探されていた方ならその特徴に合うものはうちにはーー「いや……ここに、コレットという名で働いている女性がいたら全員教えてほしい」


(ーーーまずい!)


 ーーーコレット、という名は珍しくない。

 なんならこの研究所にも後2人は居ることをコレット自身も知っている。


 

「コレット…少々お待ちください」


 受付係はカウンターで名簿をパラパラとめくると名を確認していく。


「こちらには3名おりますわね。コレット・サルート、コレット・ミュンダー……あとは」


(どうしよう、どうしよう、どうしよう!所長ーーーは今日は登城してるんだった…)


「家名なしのコレットです」


「その子を呼んでもらえるかな?」


 全身から汗が吹き出るのをコレットは感じた。

 書類を持つ手が震える。


「少々お待ちくださいませーーーあ、すみませんコレットさんはいらっしゃいますか?」


 魔術通信で部署へと確認をとっているらしい受付に、コレットはどうにか頭を働かせる。


(今、この柱から出て行っても良いことはない、はず。ーーなら、ここでやり過ごしてーーー)


「ああ、そうなんですね。ありがとうございますーーーお待たせしました。どうやらコレットさんは総務部に向かったそうで。ご案内しますね」


「ありがとう」


 2人分の足音がコレットの隠れる柱とは反対方向へと向かって遠ざかっていく。


(ーーーこっち側にいる時で、良かった。……諦めて帰るまで部屋に隠れてようっと)



 2人の姿がもう見えないことを確認すると、コレットは階段を一気に5階まで駆け上がった。

 常日頃の運動不足によりだいぶ息は上がっていだが、なんとか部屋まで戻ることができたのである。


(これから…どうしよう。きっとエリク兄はまた確認に来るはず)


 不義理をしたコレットを、それでも心配してくれる優しいエリクにどうしようもなく胸が痛む。


 手紙も、無視して。

 結局誕生日プレゼントも一方的にもらっている状態だ。


(こんな人間、嫌いになって放置してくれても良いのに…)



 しばらく時間をおいて、コレットは職場へと戻った。


「あ、コレットさん!……顔色が悪いけど大丈夫ですか?」


【ごめんね、急に眩暈がしちゃって休んでたの。書類あとで出してくるね】


「そんなのはいいですよ!自分で行きます!!コレットさんは無理をするところ有りますから!だめですよ!」


【はい、ごめんなさい】


 後輩の叱咤に素直にコレットは謝る。


「そういえば、さっきコレットさんに来客があったみたいですがーーまあ、用があるならまた来ますかね?」


【そうなんだ、ありがとう】


 未だ震える手をなんとか抑え、コレットは仕事の続きをすることにした。


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