巫女姫サーラの考察
※※※注意※※※
エリクが本当に本当に、気持ち悪いです!!
そこだけご了承ください!!!
「……コレットちゃんもねぇ、なんで逃げちゃったのかしら」
我ながら白々しいな、と思いながらも形ばかりの言葉を吐く。
仲間たちの反応をどこかぼんやり眺めながら。
エリクには命を助けられた恩と、彼を助けられなかった罪悪感がある。
だからこそ、協力はしているが―――。
エリクの想い人が姿を消したと聞いたとき、私の頭の中はただ一つの思いでいっぱいだった。
“そりゃ、そうよ”
エリクと私は同じ戦いを共にした、いわば戦友である。
それ以上でもそれ以下でもない。
決して巷で騒がれている様なご機嫌な関係でないと声を大にして言いたい。
―――だれが、こんなに気持ち悪い男と。
目の前で、魔王と対峙したとき以上に顔を顰めるエリクはここのところ必死で、今まで見たことのないほどの真剣さでただ1人の少女を探している。
そのお綺麗な顔は随分と窶れ、青白い。
コレット。
この男の愛を一身に受け、手紙一つで支え続けた少女。
間違いなく、彼女も今回の討伐の功労者の1人だと私は思う。
彼女の存在がなければ、エリクはここまで強い魔術師にはならなかっただろうから。
見つかったら良い目に遭わないのは目に見えているので、できればこのまま逃げ切れたらいいのにね、とも思うが、それは叶わぬ願いだろう。
見つかっても彼女の対応次第では今度はエリクを私たちが討伐しなくてはいけないかもしれない。
そうなったら、辛うじてダルクと相打ち。
他の人間は早々に天へ召されているでしょうね、私を含めて。
私が本当にエリクを気持ちの悪い男だと思った事件がある。
それは、まだ旅に出始めて互いのことをそんなに知らなかった時のこと。
「エリク。あなた、時々体調が悪い様だけど大丈夫?治癒魔法を掛けましょうか?」
私自身もまだ猫を被っていた時期。
休憩時間に少し顔色の悪いエリクが1人休んでいるところに声をかけた。
エリクはお綺麗な顔をへにゃりと崩して笑った。
「―――あぁ、大丈夫。これは大切な人の痛みなんだ」
「―――?どういうこと?」
「僕の可愛い子はどうやら月のものの痛みが強いみたいでね。だから毎回その時期は体を温める薬草茶を淹れたり、触り心地の良い膝掛けを贈ったりしていたんだけど―――ほら、長く傍に居られなくなるから。出血を止めてあげる事は今はできないけど、せめて痛みくらいは僕が引き受けたいと思って。凄いよね、初めて痛みを引き受けた時はこんなにも、と驚いたよ」
「え、あ、はぁ?」
一瞬、脳が理解を拒んだ。
だってこの男、つまり、好きな女の生理痛を自分に転換している、と言っているのだ。
「あ、本人は知らないよ?そんなこと知ったらコレットは僕を心配してしまうだろうから」
こちらの心情にも気づかず、エリクはどこか遠くを見つめながら話し続ける。
「コレットはいつもゆっくりしていれば大丈夫だと言っていたけど、定期的にこんな痛みがあるなんて……知れてよかったよ」
「―――きっっっっも」
溢れてしまったその声にエリクは笑った。
「よかった。これで君が僕を好きになる事はないね?」
どれだけ自分に自信があるのかと突っ込みたかったけど、事実この男は王都でも、旅先でも必ず信奉者を作る程度にはモテるのだ。
「早く魔王を倒して、コレットの元へ帰りたい。最短で終わらせたいな」
けれど、この男にはどこまでもコレット1人しか見えていなかった。
「なんで追跡魔術を掛けておかなかったの?エリクならそれくらいすると思ったのだけど」
「―――コレットが僕から逃げるなんて考えもしなかった」
どうやらエリクが昔かけた生理痛の転換も解かれてしまったらしい。
コレット本人か、はたまた他者が解いたのかは分からないが―――。
「まあ、でももう分かってるんでしょ?何処にいるのか」
「……十中八九、研究所だと思う。……多分あの男が隠してる」
「研究所所長?」
「そう。胡散臭さが漂ってる」
それはあなたもね、と声に出さずに返事をした。
そしてさらに数日が過ぎた頃。
「みんな協力してくれてありがとう。おかげでコレットと無事愛しあえたよ」
「うっわぁ……」
見かけだけは綺麗な男の後ろには、むせかえるほどのバラの幻影が見える。
(捕まっちゃったのねぇ……コレットちゃん)
ダルク達はそんなエリクに確実に引きながらも、それでも本心から喜んでいるようだ。
何だかんだ言いながら、私も。
今後強烈に重たいエリクの愛をゼロ距離で浴び続けるコレットには申し訳ないが、私からすれば彼女も大概なのだ。
「ねえ、エリク。禁薬を作ったのはやっぱりコレットちゃんだったの?」
「……サーラは気づいてたんだ」
「なんとなくね、確信したのはダルクから話すことができないって聞いた時。代償を受けたのかなって」
「僕のコレットは本当に、素晴らしいでしょう」
「……一応調べてみたのだけど、代償は私の力でも魔術でも治す事はできなそうね」
「―――それは、僕も調べた。悔しいけど、どうにもできない」
自身を犠牲に作成する禁薬。
そんなものを、恋人でもなかった男に作る彼女も相当だと思うのだ。
「禁薬って、作るのに相当な痛みも伴うんでしょう?だからこっそり製薬を試しても大抵が未完成で放り投げてしまうって昔神官様から教わったことがあるわ。だから絶対試しちゃダメですよ、って……あ」
これは言わない方がいい情報だったかも知れない。
「……ちょっと、用事を思い出したから研究所に行ってくるね……」
恍惚とした表情を隠しもせずにふらふらと部屋を出ていくエリクを見て、心の中でコレットに謝る。
「あーあ、どこかにいい男が落ちていないかしらね?出来れば執着心は控えめの」
私の言葉に、仲間たちが声をあげて笑う。
その平和が、本当に嬉しかった。
―――ちなみに後日、コレットがエリクを避けていた理由を聞いて、やっぱりお似合だわ、と私は思った。




