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誤字報告ありがとうございます!
ーーー幼馴染である男が帰還するらしい。
近々、魔王討伐を成功させた勇者達が王都へと帰還する。
それは朝からコレットの職場を賑わす話題だった。
王立魔術研究所。ここは変わり者達の集いである。
常ならば自分の作業台に向かって各々好きに研究を進めるメンバー達も、さすがに魔王討伐成功となれば話は別だ。
「いやぁーまさか成功させるとはねぇ」
「勇者ダルクの凄まじい剣技がどうたらこうたらと新聞には書かれてる」
「守りの巫女様の盾こそ勝利の秘訣だとか」
「いやぁ、しかし何と言っても」
「「エリク・アルノー様!」」
「一度でいいからその魔術を目の前で見たいものだなぁ」
「俺、感動で心臓が止まってしまうかも」
わいわいと楽しそうに続く会話に聞き耳だけを立て、淹れたての温かいコーヒーを一口飲む。
勇者と魔王討伐へと向かった稀代の魔術師、エリク・アルノー。
コレットの幼馴染。
『やだ!!行かないでエリクにぃ…!!』
『……コレット。手紙を書くよ。君が安心して眠れるように。誕生日には必ず特別なものを送るから……君が僕を忘れないように。ーーだからどうか、待っていて。僕は必ず帰ってくる』
コレットの頬を濡らし続ける涙の雨を、エリクはその手で拭い続ける。
討伐部隊へ招集されたエリクが15歳。
それを見送るコレット、12歳の時の話だ。
あれから10年が経った。
エリクは絶えず手紙をくれた。
毎年誕生日にはコレットに似合うだろう宝石や、花を重ねた栞、綺麗に染められたスカーフなどたくさん贈られてきた。
コレットももちろん返事を書いたし、エリクの誕生日には彼に似合いそうなアクセサリーや、読んでいる途中だったシリーズものの本、刺繍を入れたハンカチなど沢山用意して。
けれど今送られても荷物になるだろうと、彼が帰ってきたらまとめて渡そうと楽しみにしていた。
ーーーそう、いた、なのだ。
もうコレットはエリクに会う気はない。
魔王討伐後、エリクから手紙が届いた。
ようやく君の元に帰れるよ、と。
……これにコレットは返事をしなかった。
「コレットさん〜!これってこの書き方でいいんでしたっけ?提出書類書くの久しぶりで…確認お願いしてもいいですか?」
掛けられた声に一度頷くと、彼女が差し出してきた書類の隅々まで読み込む。
コレットがもう一度うん、と頷いて書類を返すと後輩である彼女は嬉しそうに笑ってお礼を言った。
※
勇者一行が帰還した日はそれはもう王都中が大騒ぎだった。
街には露店が所狭しと立ち並び、とにかく人、人、人で埋め尽くされていた。
歓喜の声があちらこちらから響き渡る。
それはそう、魔王は本当に脅威だったから。
じわじわと世界が闇に侵略され始めた時。
魔物達が最も簡単に人を屠った時。
世界中、各国で討伐部隊が編成され、送り込まれた。
沢山の討伐部隊がいて、“勇者一行”になったのはダルクが率いる部隊だけだった。
それだけ大変な戦いを、10年間続けてきたのだ。ーーー誰1人欠く事なく。
その日コレットは家から出る事なく篭って過ごしていた。
今でこそ一人暮らしをしているが、エリクと幼馴染であったときは地方の子爵家の娘としてのびのびと過ごしていた。
エリクはその領地を治める辺境伯の息子でーーー歳の近い2人はよく遊ぶようになったのだ。
(エリク兄もまさか私が王都で働いているなんて思わないだろうなぁ)
エリクが旅先から出してきた手紙は全て、一度実家を通してから転送魔法でコレットの元まで届けられている。
彼女の家族も、もちろん辺境伯もコレットが今何処に住んでいて何処で働いているかなど知らないし、聞かない。
それが彼女との約束だからだ。
(一目……いや、辞めとこう。どうせ人が多過ぎて見えないだろうし)
今日は王都で凱旋パレードも予定されている。
きっとそこにエリクも居る。
(良かった……本当に良かった)
流れ落ちる涙を、今日はこのまま許そうとコレットは思った。
(ずっと、ずっと怖かった。……生きて帰ってきてくれて、良かった……っ)
その日コレットは、エリクが旅に出てから初めて朝まで起きる事なく眠った。




