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いつもクールで完璧美人な孤高の狼姫が、実は寂しがり屋で甘えん坊な子犬姫だと俺だけが知っている  作者: ゆめいげつ
第五章 狼姫のお泊りラブリゾート

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第94話 「狼姫と、へそ天」

「咲蓮!? ま、待て! いったい何をしてるんだ!?」

「ちょっと待っててね」


 焦る俺の静止を聞かず、ベッドに仰向けで寝転んだ咲蓮はシャツのボタンをプチプチと上から外していく。

 涼し気な半袖シャツのボタンが一つずつ外れ、その内側に隠れていた白い肌が次々と現れ始めていた。

 首の下の鎖骨から、膨らみが始まる胸元が見えて、寝ていても分かるレベルで大きな胸とそれを隠す灰色の下着のようなもの、そこで手は止まらず腹部のボタンも外していき、最後には全てのボタンが外れた。


「むぅ。寝てると、外しにくい」

「さ、ささっされ……」


 手こずったのか、不満そうな声が聞こえる。

 俺はそれを手の隙間から見る事しか出来なかった。

 ベッドの上には仰向けで寝転んでいる咲蓮がいる。それだけでもかなりドキドキするのだが、今の咲蓮は直視が出来ない程に魅力的で蠱惑的で誘惑的だった。


 何を思ったのか咲蓮はシャツのボタンを全て外したのだから。

 ボタンによって繋ぎ止められていた衣服が二つに分かれ、まるでモーセが海を割ったかのように白い肌がむき出しになっていた。

 大きな胸とくびれのある綺麗な身体のせいでそのワイシャツが今にも横にずり落ちてしまいそうなハラハラがある。


 ドキドキハラハラなのに目が離せない、奇跡のような光景だった。


「総一郎」

「な、何だっ!?」

「こっち来て?」

「そ、そっちにか!?」

「うん。もっとちゃんと、見てほしい」

「見るのか!?」


 心臓を握られて、そのまま潰されるかと思った。

 ベッドの上で半裸になりつつある咲蓮がジッと俺を見つめている。

 その顔はいつもご褒美をおねだりする子犬姫そのものだった。


 い、良いのか……!?

 いくら咲蓮が望んでいるとはいえ、付き合っても婚姻前でもない男女が同じベッドの上でその身体を見るとか本当に良いのか!?

 でも確かに思い返してみれば今日は船に乗ってから十七夜月先輩や斑鳩宮さんに振り回されてばかりで咲蓮にご褒美のハグをしていない!


 いや、ハグ……?

 え、これハグなのか?

 ベッドの上で、脱ぎかけで、半裸の咲蓮と、ハグ!?


「……だめ?」

「駄目じゃないぞ」

「やった」


 弱い俺を誰か許してくれ。

 思春期特有の妄想と葛藤は、残念そうな咲蓮の顔によって全て消し飛んでいった。

 そう、ここは夏のリゾート。

 普段とは違うご褒美があっても良いだろう。

 俺は去年の冬に、咲蓮の力になると決めたんだ。

 だからこれは決してやましい事ではないのである、そう、決して!!


「好きなだけ、見て良いよ」

「ぉ、ぁ……っ!」


 情けない声が出た。

 ベッドの上、俺の真下で。

 咲蓮がハラリとそのシャツを横にはだけたからである。

 露わになる白い肌と大きな胸。そして普段は隠れている腹部の、綺麗なおへそが天を向いていた。

 子犬が信頼しているご主人様の前では自分の腹を見せて甘えると言うが、子犬と言うにはとても魅力的な半裸の狼姫の姿がそこにあったんだ――。


「水着。総一郎が、選んでくれた」

「――ぁ」


 嬉しそうな咲蓮と、情けない声の俺第二弾。

 水着、そう水着だった。

 不幸中の幸いと言うか、幸運中の不幸と言うか、咲蓮がシャツの中に着ていたのはこの前ショッピングモールで買った灰色ビキニタイプの水着だった。

 咲蓮の髪の色とほとんど同じかつ、水着と下着の違いも大して分からない俺からすればそれはほとんど変わらない。

 ふかふかなベッドの白さと咲蓮の肌の白さが調和して、そこに僅かながら髪色と水着の灰色が主張する。


 全体的に白を基調とした綺麗な光景の中で、わずかに朱色になったその頬が俺のドキドキを何十何百何千倍にも跳ね上げていく。

 まだ海にも入っていないのに、心臓マッサージが必要かもしれなかった。


「可愛い?」

「あ、あぁ……か、可愛くて……綺麗、だ……」

「えへへ。やった」


 俺を見上げながら。

 ベッドの上で、咲蓮が嬉しそうに微笑む。

 ヤバい、これはヤバいかなりヤバい。

 咲蓮が綺麗で可愛すぎる。

 そんなのずっと分かっていたのに何だこれは。

 学校でもほとんど一緒にいてそれこそ最近は隠しもせずに常に俺にピッタリくっついてきてばかりだったのに、時と場所と場合が違うだけでどうしてこんなにも魅力的に見えてしまうのだろうか。

 

 分からない、その理由が分からない。

 分かるのは俺の心臓が爆発しそうな事ぐらいだった。


「総一郎の赤い顔。可愛い」

「さ、咲蓮こそ……」

「ほんと? えへへ」

「お、おぉ……」


 何だこの甘酸っぱい空間は。

 赤くなっているらしい俺の顔を見て喜ぶ咲蓮と、そんな少し恥ずかしそうな咲蓮の顔を見て照れる俺。

 いつも放課後にしているやり取りと大して変わらない筈なのに甘酸っぱさが弾け飛びそうだ。


 これが、南国リゾート効果なのだろうか?


「じゃあ、下も脱ぐね」

「し、下!?」

「うん。総一郎に、早く見てほしい」


 目の毒と言うか、猛毒だった。

 ベッドに仰向けで寝転んだ咲蓮がカッコよさに振り切った黒のロングパンツの留め金のボタンを外す。

 それだけで俺は下唇を噛むのに必死だった。

 咲蓮の口ぶりからその下に水着を履いている事は分かっている。

 だけど好きな……大好きな相手がベッドの上でズボンを脱ごうとしている光景を見て何も思わない男なんている筈が無かった。


「うんしょ、うんしょ」


 男の俺が見ても黒のロングパンツはカッコイイ。

 だけど脱ぐ時のかけ声は可愛くて、それが俺の頭をバグらせていた。


「むぅ」


 不満げな声。

 どうやらベッドの上に寝転んでいるのでズボンを脱ぐのに苦戦しているようだ。

 ドキドキの魔力によって石像となってしまった俺はそれを見守る事しか出来ない。

 どうせ爆発するのなら、せめて最期の時は穏やかに――。


「総一郎」

「……ん?」

「下、脱がせて?」

「――――」


 ――天国は地獄だった。

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