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いつもクールで完璧美人な孤高の狼姫が、実は寂しがり屋で甘えん坊な子犬姫だと俺だけが知っている  作者: ゆめいげつ
第五章 狼姫のお泊りラブリゾート

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第93話 「狼姫と、夏の内緒ごと」

「ぐーる。ぐるぐるー」

「……楽しいか?」

「うん」


 ログハウス二階の部屋で咲蓮と二人きり。

 俺の緊張とは真逆に、咲蓮はリラックスしまくっていた。

 部屋の中心にある大きなベッド。その真ん中下の縁に座りながら寝転がり、頭上でゆっくりと回っている巨大な扇風機もどきを見つめて手を伸ばしたりしている。

 俺はそんな咲蓮の隣に腰かけ、一緒に扇風機もどきの回転を眺めていた。


 ベッドの上で無防備に寝転がる咲蓮を見るのは、何かとても駄目な気がしたからである。


「総一郎。ふかふか」

「……ああ、良いベッドだな」

「総一郎も、ごろんする?」

「おっ、俺は大丈夫だ! い、一緒に寝ちゃうとこのまま寝ちゃうかもしれないからな!?」

「それもそうかも。総一郎、賢い」


 寝ちゃうとこのまま寝ちゃうって何だろうか?

 咲蓮の急な添い寝のお誘いに緊張して変な言葉を言ってしまった。

 俺は咲蓮とネットカフェで添い寝をした事がある。

 それに俺は体調を崩して寝ていた咲蓮のお見舞いにも行った。

 だけどそれはネットカフェだからとか、お見舞いだしベッドの上で寝てるのは当然だからというギリギリセーフなグレーゾーンの免罪符があったから耐えられたんだ。

 

 今はログハウスの同室。

 お互いに調子も良いし休憩ではなく寝る為のベッドに寝転がる咲蓮を見たり添い寝をすると言うのは、どう考えてもアウトである。


「未来先輩も、ゴロゴロしてた」

「……船の上でな」

「うん。お魚さんの真似、上手だった」

「迫真の演技だったな……」


 朝日ヶ丘先輩に感謝だ。

 最近はいつも突拍子の無い行動をしている愉快すぎる先輩だけど、その行動が今の俺の緊張を和らげてくれるだけじゃなく、気まずい中で話題まで提供してくれる。

 俺達の中で一番気合が入っていそうな地雷系衣装で、波が跳ねる船首の上をビチビチとするのは違う意味で気合がいりそうだけど、それはそれで汚れた汚されたとかで喜びそうな気がする無敵の先輩だ。


 ……流石に偏見が過ぎるか。


「私もしたら。総一郎、喜ぶ?」

「……咲蓮の良さはそのままで最高だよ」

「わっ。やった、総一郎が褒めてくれた。嬉しい」

「あ……」


 つい口が滑ってしまった。

 いや、褒めるのはセーフだ。

 最近は俺自身が自責の念に駆られていて何がアウトで何がセーフかの境界が曖昧になってしまっている。

 思い出せ、思い出すんだ俺。

 ハグをして頭を撫でて褒め倒すのはセーフだし、添い寝もしたから一応セーフ。


 ……セーフの判定、ガバガバじゃないか?


「総一郎。もっと褒めて?」

「も、もっとか!?」

「うん。総一郎に褒めてもらうと、すごく嬉しい」

「お、おぉ……」


 そんな馬鹿な事を考えていると、俺に褒められて嬉しくなった咲蓮がおかわりを要求してきた。

 ベッドの上に寝転んだ、モデル体型でポーカーフェイスな灰色ウルフカットの美人が、モノクロのシャツとロングパンツスタイルというカッコいい衣装でキラキラと期待の視線を俺に送ってきている。

 そんな単純なようで綺麗とか可愛いとか背徳感とか色々な要素が混ざりに混ざった要求をされた俺は、何故か勝手に生唾を飲み込んでいた。


「ほ、褒める、か……」


 俺は隣に寝転ぶ咲蓮を見る。

 仰向けに寝転んでいるのでベッドに広がるセミロングの灰色ウルフカットはいつも通り綺麗だし、俺に期待を込めた視線を送ってくる切れ長の瞳もいつも通り輝いているし、スラっと高い鼻もその下の小ぶりな唇も綺麗と可愛いが同居していた。

 外が暑かったからか第二ボタンまで開いた白シャツも、そこから覗く首と胸元の境目は見ているだけでドキドキする。仰向けでも確かにある二つの膨らみがシャツ越しに見えて、着こなしが完璧だからかその下の細い腰のシルエットもバッチリとシャツ越しに映っていた。黒のロングパンツも同じように長い脚のラインを無防備にベッドの縁と下に放り出していて、服を着ていると言うのにその身体がどれだけ綺麗で美しいかが伝わってくる。


「……む、難しいな」

「むぅ」


 褒めるところが多過ぎた。

 見た目だけでこれだけ褒められる。

 俺が憧れている内面ももちろんこれ以上に褒めるところはあるが、今の俺達は遊びに来ているので今日の咲蓮を褒めるべきだ。

 しかしそれも無数にあり過ぎる選択肢のせいで、何から褒めたら良いんだか分からなくなってしまったんだ。


「今日の総一郎、厳しい」

「す、すまん……」


 そんな俺の不甲斐なさに、咲蓮がちょっとだけ不貞腐れてしまった。

 申し訳ないが、そうやって唇を尖らせる仕草が可愛いと思ってしまう。


 ん? これを褒めれば……いや怒らせたのは俺だから駄目か。


「辛口総一郎に、褒めてもらうには……あっ」


 頭の中は甘さでいっぱいなのに、辛口評価を受けてしまった。

 どうにかして俺に褒めてほしい咲蓮が天井の扇風機もどきを見ながら首を傾げていると、少しの間の後に小さく声を漏らした。


「総一郎。総一郎」

「ん?」

「うんとね。内緒にね、したかったんだけどね」

「お、おぉ……?」


 どうやら何かを思いついたようだった。

 元々口数が少ない咲蓮が、短い言葉を繋いでいく。

 そんないつもより言葉足らずな感じが既に可愛いんだけどなと思ったのだが。


「総一郎にね、見せるね」

「さ、咲蓮っ!?」


 ベッドに寝転んだ咲蓮が。

 ぷち、ぷちと、シャツのボタンを外し始めた事によって、俺はそれどころじゃなくなってしまったんだ。

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