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いつもクールで完璧美人な孤高の狼姫が、実は寂しがり屋で甘えん坊な子犬姫だと俺だけが知っている  作者: ゆめいげつ
第五章 狼姫のお泊りラブリゾート

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第92話 「狼姫と、ふかふかベッド」

 部屋の中も、壮観だった。

 ログハウス入ってすぐの共有スペースとは違い個室ならではの落ち着いた作りだ。

 風が抜けるように大きな窓が部屋奥と左側に二ヵ所あり、パット見で分かるレベルで高そうなカーテンも薄めのものと遮光性が高い厚めのもので好きに明かりを調整できるところがポイント高いのだろう。

 部屋の隅にはこれまた高そうな木の枠組みに収まった透明なガラステーブルがあったりして、下手に荷物を置けないなとヒヤヒヤする。

 クローゼットや収納もバッチリで、遊び盛りの子供がいればここでかくれんぼとかし出すかもしれない。

 そしてこの部屋にも共有スペースで見た天井から伸びる扇風機もどきがあって、このゆっくりとした回転を見てるだけで一日が過ごせそうだ。


「…………」


 そんな至れり尽くせりな、まさにリゾートと言っても過言ではない部屋を見て俺は絶句していた。

 感動。

 もちろんそうだ。これを見て感動しない奴はいない。だけどそれは半分で。


「総一郎。ふかふか、すごい。ふかふか」


 ――ギシギシッ。

 高いかは分からないが、気持ち良く鳴るスプリングの音がする。

 部屋の奥、大きな窓の下にドドンと佇んでいるのは、とても大きなベッドだった。


「ふかふかー」


 その上に寝転んだ咲蓮が、楽しそうに身体を揺らしている。

 他にベッドは存在しない。

 枕はベッド同様に大きなサイズのものが二つある。


 俺の残り半分の絶句は、困惑に埋め尽くされていた。


「お気に召しましたでしょうか?」

「うおわっ!?」


 そんな俺に背後から淡々とした声がかかる。

 ビクッとしながら振り向くと、綺麗な銀髪で顔の半分を隠した女執事の斑鳩宮さんが佇んでいた。

 いつからいたんだろうか……?


「ぽっぽちゃん。すごい、ふかふか」

「ありがとうございます。お嬢様一押しの、ふかふかベッドでございます」

「わあ。すごいね」

「すごい、でございます」


 咲蓮がベッドで寝返りを打ち、うつぶせで小さなドヤ顔を決める。

 それに斑鳩宮さんもポーカーフェイスながらに小さな笑顔を向けた。

 灰色髪と銀色髪、そして一見すると無表情同士。

 この二人から謎のシンパシーを感じた。


「あ、あの斑鳩宮さん……」

「はい。何でございましょう、柳様」

「他に部屋は、無いんですか……?」


 俺は小声で、隣に立つ斑鳩宮さんに耳打ちする。

 流れで咲蓮と一緒の部屋になってしまっているが、年頃の男女が同じ部屋で一夜を過ごすというのは風紀的にとても問題だからだ。


「ふむ」


 斑鳩宮さんは俺の顔を見上げて、一瞬間を置いた。

 近くだとその綺麗で整った顔が良く見える。中性的だが、確かにその表情には女性的美しさがあふれ出していた。

 咲蓮が綺麗で可愛い系なら斑鳩宮さんは綺麗で美しい系だろう。

 そんな事を考えていると、斑鳩宮さんは顔を上げて俺を見た。


「一階のリビング奥に、もう一部屋ございます」

「っ! じゃ、じゃあそこに!」

「私との同衾をご所望でしたら、何なりとお申し付けくださいませ」

「どっ!?」


 救いの糸が伸びてきたと思った。

 風紀的な地獄に舞い降りた蜘蛛の糸。だけどその糸を掴んだら違う風紀地獄に行くだけだった。

 よく考えれば斑鳩宮さんにも寝る場所は必要だし、言われてみればそれは当たり前の事である。

 だけど同衾なんて恥ずかしい言葉、どうしてそんな恥ずかしげもなく言えるのだろうか……。


「失礼いたしました。お嬢様より、柳様はからかわれるのがお好きと伺っていましたもので」

「違いますよっ!?」


 表情一つ変えずそんな事を言う。

 あの主にしてこの従者ありって感じだった。

 何てことを吹き込んでいるんだろうか十七夜月先輩は……。

 そんな事を思っている俺に、斑鳩宮さんが言葉を続ける。


「お嬢様よりお言葉を預かっております。『慣れない船旅で疲れてるだろうし、お互いに少し休んでからビーチを楽しもうか』との事です」

「ご、ご丁寧にありがとうございます……」

「いえ。それでは、ごゆるりと」


 ――パタン。

 木製のドアがゆっくりと締まり、斑鳩宮さんが出ていった。

 静かになった部屋の中で、天井から伸びた巨大な扇風機もどきが回る音だけが響いていく。


「ぽっぽちゃん、すごい。莉子先輩と、声同じ」

「あぁ……そっくり、だったな」


 ベッドの上の咲蓮が目を輝かせている。

 斑鳩宮さんが部屋を出ていく直前に言った十七夜月先輩からのメッセージが、喋り方の雰囲気から声の抑揚まで、そっくりそのまま本人みたいだったんだ。

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