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第91話 「狼姫と、ログハウス」

 コンクリート製の堤防は気づけば石畳へと変わっていた。

 砂浜沿いにある背の高い木々が並ぶ道を進む度に爽やかな風が抜けて、潮の匂いと共に木々が揺れる心地良い音に包まれる。

 完全に天然で出来た緑のカーテンの道を抜けるとそこには多数のコテージが住宅街のように佇んでいた。

 大きいものから小さいもの、はてには遠目に見える小高い丘の上にあるものまで様々で、だけど俺達の他に人っ子一人いないという静けさが寂しさよりも幻想的な雰囲気を醸し出している。


 石畳の大通りから森の中へ続く小路へ入った。

 土の上を歩きやすいように埋められたお洒落な石の橋の両脇には、景観を損なわないように小さな埋め込み型のライトが配置されていて、夜になったらまた違う景色を見せてくれるのだろう。


 そんなまだ見ぬ楽しみに導かれながら抜けた小路の先で。

 静かな森の中にたたずむ、二階建ての大きなログハウスがあったんだ。


「お、おぉ……!」


 思わず俺の口から感嘆の声が漏れる。

 子供の頃に憧れた秘密基地をそのまま形にしたような立地と造形だったからだ。

 開けた森の中、差し込む日差しの奥にある隠れ家のようなログハウス。

 玄関と思われる入り口に上がるまでに数段の階段や小さな木製の柵があるだけでロマンを感じた。

 横一文字に並んだ丸太の外壁は隙間風とか入らないんだろうかと思わなくも無いが、その武骨さがまた良かった。

 だけど日光を取り入れる為の大きな窓や、黒に塗られた大きな三角屋根が全体的なシルエットを引き締めていてとてもスマートそのもの。


 建築とか専門的な知識はからっきしだが、カッコいいという事だけは本能で理解できた。


「ま、回ってる……!」


 ログハウスの中も壮観だった。

 玄関を入ったリビングのようなスペースは吹き抜けになっていて、二階と繋がるように開放的な作りだった。

 無数の大きな窓からはこれでもかと日の光が差し込み、電気をつけていないのにも関わらず凄く明るくて、日の光に照らされた丸太の明るい色味も左右しているのかもしれない。

 吹き抜けの天井にはこれまた男心をくすぐるような大きな扇風機のようなプロペラがゆっくりと回っていて、なんかもう……なんかもう凄かった。


 朝日ヶ丘先輩が愛の巣とか言うものだから警戒していたけれど、とても素晴らしいログハウスとは正にこの事を言うのだと思った。


「総一郎。楽しそう」

「うんうん。喜んでくれて何よりだよ」

「ケダモノかと思ってたけど純粋なところもあるんだねっ!」

「男の子でございますね」

「はっ!?」


 振り返れば咲蓮をはじめとした他のメンバーにも微笑ましいものを見るような目で見られていた。

 満足そうに笑う十七夜月先輩。その隣では変わらず冷静な女執事の斑鳩宮さんがいて、朝日ヶ丘先輩は俺の事を何だと思っていたのだろうか。

 何はともあれそこでようやく冷静になった俺は恥ずかしさを誤魔化す為に大きな咳払いをした。


「し、失礼しました……。とても、素晴らしかったもので」

「見たら分かるよ。やっぱり柳クンは素直で可愛いなぁ」

「うん。総一郎は、可愛い」

「十七夜月先輩!? 咲蓮までもかっ!?」

「うんうん。ネコちゃん仲間だもんねっ。分かるよ……」

「朝日ヶ丘先輩は何か違くないですか!?」

「ネコちゃん……。私はぽっぽちゃんですので、お揃いでございますね」

「斑鳩宮さんまでふざけられると何も言えなくなるんですが!?」


 女子全員から総攻撃を食らう。

 朝日ヶ丘先輩はともかく、斑鳩宮さんも十七夜月先輩の専属執事なだけあってやっぱり愉快な人なのかもしれない。


「まあ柳クンで談笑するにせよ、一度荷物を置いてからの方が良いだろう。一階は共有スペースになっていてね、泊まる部屋は二階になるよ」

「俺で談笑……?」


 聞き捨てならない単語が聞こえたけど、触れるとそれはまたややこしい事になるので触れなかった。

 十七夜月先輩に続きロマンあふれる木製の階段をのぼって二階へと上がる。

 木々の廊下を伝って手前にある扉の前で、十七夜月先輩と朝日ヶ丘先輩が立ち止まった。


「じゃあボクと未来はこの部屋だから」

「あ、どうも」


 そう言って十七夜月先輩は俺に鍵を手渡してくる。

 ログハウスらしく、電子ではない金属製の鍵だった。


「ん?」


 違和感を感じながら俺は奥へと進む。

 二階には二部屋しか無いらしく、奥の部屋の扉の前で立ち止まった俺は鍵穴に鍵を差し込んで……。


「んん?」

「総一郎。どうしたの?」


 首を傾げた俺は、同じように俺の隣で首を傾げている咲蓮と目が合った。

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