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いつもクールで完璧美人な孤高の狼姫が、実は寂しがり屋で甘えん坊な子犬姫だと俺だけが知っている  作者: ゆめいげつ
第五章 狼姫のお泊りラブリゾート

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第90話 「狼姫と、南の島」

 白い砂浜の沿岸から海へ伸びた堤防に船が止まった。

 短くも濃い船旅で波の揺れに慣れ始めた両足で踏みしめる動かない地面は少しだけ違和感を感じバランスを崩しそうになる。

 そんな俺を、雲一つない太陽の光とその先に広がる緑に覆われた島の自然が出迎えるのだった。


「凄いな……」

「ね。凄い」


 俺の後に船を降りてきた咲蓮も同じ感想だった。

 俺達は二人揃って海、砂浜、木々、山々の自然溢れる光景を眺めている。

 こんな大自然、テレビや動画サイトぐらいでしか見た事が無かった。

 心なしか空気も澄んでいて凄く美味しい気がする。


「南の島。南の島」

「あぁ、そうだな……南なのか?」

「地理的にも南でございます」


 咲蓮が俺の服をクイクイと引っ張りながら島の奥を指差す。

 元々口数が少ない咲蓮は、感動するとより言葉の引き出しが少なくなるようだ。

 咲蓮の言う通り確かに広がる景色は南の島そのものだが、小型のクルーズ船で小一時間という俺の中には存在しなかった距離の物差しが邪魔をする。

 そんな俺達のフォローをするかのように、この暑い中燕尾服を完璧に着こなして汗一つかいていない斑鳩宮さんが十七夜月の手を引きながら船から降りてきた。


「あっはっは! どうだいどうだい? 凄いだろう?」

「お嬢様。日差しがお強いですので、日傘を」

「あっ! 誠ちゃん誠ちゃんっ! 私がやるよっ! 莉子ちゃんと相合傘ーっ!!

「ありがとうございます未来様」


 海辺特有の強い風に白のワンピースが揺れる。

 その一挙手一投足さえも自然を味方にしたかのように、十七夜月先輩の姿はとても絵になった。

 隣には出来る執事がいて、そんな執事がすかさず差した日傘を受け取ったゴスロリ地雷系な朝日ヶ丘先輩が腕を組む。


 ……ちょっと後半の情報量が多い気がした。


「莉子先輩。凄い」

「……規模が凄すぎて、凄いって感想しか出ませんよこれは」

「うんうん。正直な事は美徳だからね。下手なお世辞よりよっぽど嬉しいものだよ」


 日傘の下で、十七夜月先輩が嬉しそうに微笑む。

 船の中でも思ったけど、やっぱり十七夜月先輩自身もいつもよりテンションがとても高く見えた。


「浜の奥にあるコテージ群はもっと凄いから楽しみにしてくれたまえ。まあ今は夏休み前だから、ボク達しかいないけど」

「お嬢様。コテージのお鍵はこちらに」

「あぁ。ありがとう、誠」


 ドヤ顔すらも嫌みなく綺麗だなと思うんだから十七夜月先輩は凄い。

 そんな先輩は斑鳩宮さんから鍵を渡され受け取った。ただの鍵なのに、なんだか綺麗なハンカチに包まれていてなんか凄い。


 朝日ヶ丘先輩とは違う意味で、情報量の暴力を食らっているところだった。


「じゃあ皆、行こうか」

「うんっ! 私と莉子ちゃんの愛の巣に!」

「愛の巣?」

「コテージですよね!?」


 十七夜月先輩は俺達に微笑みながら、先導するように歩き出す。

 そしていつもと同じようにテンションがおかしい朝日ヶ丘先輩がとんでもない事を言ったせいで一気に不安になるし、咲蓮が変な影響を受けるから止めてほしかった。


 まあ、ただ、結果的に。

 愛の巣と言うのがあながち間違ってなかった事を、俺はすぐ後に思い知らされる事になるのだが……。

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