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いつもクールで完璧美人な孤高の狼姫が、実は寂しがり屋で甘えん坊な子犬姫だと俺だけが知っている  作者: ゆめいげつ
第五章 狼姫のお泊りラブリゾート

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第84話 「狼姫と、新しい約束」

「食べちゃった」


 咲蓮の歯が、俺の首から離れたのを感じる。

 痛みは無かった。

 終わって見れば一瞬で、少しだけ痒さと言うかくすぐったさが走っただけ。

 けれどそれは頬にキスをされた時よりも甘く突然で、それでいて刺激的だった。


「ごちそうさまでした」

「お、あぁ、おぉ……」


 咲蓮が嬉しそうに微笑んで、俺を見上げる。

 息と息が触れ合いそうな距離で見るその顔はとても綺麗で、さっきまでしていた可愛らしい威嚇が嘘のように美しかった。

 そんな咲蓮に心を奪われてしまった俺は声にならない声を出すしか出来なくて、 そんな情けない俺を見て、咲蓮は背中に回していた両手を俺の首の後ろに回す。


 座りながらのハグが本格的なだっこになって、これ以上高まると思っていなかった密着度は更に高まったんだ。


「総一郎」

「な、何だ……?」

「好き」

「っ!?」


 ――ちゅっ。

 不意打ちの追撃に、心臓が止まるかと思った。

 噛まれた首と同じ方の頬に、咲蓮がそっと口づけをしたんだ。

 柔らかかった。

 二度目のキスでようやくそれを感じて、心臓が鼓動をかき鳴らしまくっている。

 そこでやっと俺はキスの前に噛まれた事まで実感してきて、自分自身の顔がとんでもなく熱くなるのを感じてしまった。


「むふぅ。みゅぅー……」

「っっっっ!!??」


 今度は頬張りだ。

 頬と頬が合わさって、キスをする。

 唇とは違った柔らかさが広がって、咲蓮の髪の甘い匂いがこれでもかと漂ってきて、俺の頭はどうにかなりそうだった。


「そういちろー……」

「お、おぉ……!?」


 俺の頬に自分の頬をくっつけたまま、咲蓮が舌っ足らずに俺の名前を呼ぶ。

 その間ももちろん全身はくっついていて、俺の心臓の音は間違いなく咲蓮に伝わっているという謎の自信があった。


「すき」

「…………っ」


 二回目の、好き。

 一度目よりもゆっくりと、だけど純粋な、子供のように真っ直ぐな好きだった。

 その気持ちに、俺はいつもの嫌いと返せない。

 咲蓮との約束だから言わないといけないのに、今までの流れが、この状況が、俺から言葉を奪っていたんだ。


「ちゅー、したい……」

「な、ぁ……」


 コツンと、俺のおでこに咲蓮のおでこが当たった。

 切れ長の瞳に、俺の瞳が反射して映り込む。

 ゼロ距離だ。

 鼻と鼻も触れそうで、それこそ、少し動くだけで唇同士も触れそうな距離。


「お、おれ、は……」


 声が、震えていた。

 このまま少し前に動けば、それで何もかもが変わる距離。

 思考は既に正常に機能しておらず、頭の中は咲蓮で一杯で――。


「まだ駄目」

「……え?」


 ――その咲蓮が、ゆっくりと、離れていった。

 だけど視線は、じっと真っ直ぐ、俺を見つめたまま。


「唇と唇は、大事。だから」


 真剣に、だけど嬉しそうに、悪戯に。


「総一郎が、好きって言ってくれるまで。我慢する、ね?」

「――――」


 微笑んだんだ。

 可愛いのに綺麗で、美しいのに可憐な。

 そんな好きになる理由しかない、魅力的で蠱惑的な……最高の笑顔で。

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