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いつもクールで完璧美人な孤高の狼姫が、実は寂しがり屋で甘えん坊な子犬姫だと俺だけが知っている  作者: ゆめいげつ
第四章 狼姫の好きラッシュ

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閑話4 『狼姫と、伝えたい気持ち』

※一日前。ヒロイン、咲蓮視点。

「……そーいち、ろー?」


 ごしごしって、目を擦る。

 カーテンの外はオレンジ色になっていて、もう夕方だって分かった。

 まだちょっと眩しいから私はごろんして、お気に入りの枕に顔を埋める。


「総一郎」


 枕から、総一郎の匂いがした。

 すごい。

 そこで私はさっき、総一郎がお見舞いに来てくれた事を思い出す。

 嬉しかった。

 今日は会えないって思ってたから、すごく嬉しい。

 優しかった。

 寝てる私の頭をなでなでしてくれたの。

 あたたかかった。

 総一郎の上で寝るの、すごい。

 この枕よりも硬いけど、それが総一郎に守られてるみたいな気持ちになれた。

 でも私は眠っちゃったみたい。

 もう、総一郎は帰っちゃったんだと思う。

 それは少し残念で、やっぱり寂しい。

 だからちゃんと元気になって、明日きちんとお礼を言おうって思った。


「……喉、かわいた」


 もぞもぞとベッドから起きる。

 身体はまだちょっと重いけれど、朝よりはすごく楽になった。

 これも病院に連れて行ってくれたお母さんと、見てくれたお医者さんと、ぎゅってしてくれた総一郎のおかげ。

 私は部屋のドアを開けて、ゆっくりと階段を降りる。

 確か冷蔵庫に、お母さんが買ってくれたスポーツドリンクがあった筈だから。


『咲蓮の事、お願いね?』

『すみま……え?』

「……わっ」


 リビングに入ろうとして、ビックリした。

 中からお母さんと総一郎の声が聞こえたから。

 総一郎、まだ帰ってなかったんだ。

 嬉しい。

 でも、お母さんと何を話してるんだろう?

 ちょっと気になるから、隠れて聞いちゃおう。


『咲蓮があんなに、私たち以外に心を開いているの初めて見たよ。普段は大人しい子だから、なおさらね』

『それは……』

『もちろん、咲蓮が学校で人気者だって事も聞いてるよ! でも咲蓮、自分から良いも悪いも言わない子だからね。だから咲蓮が好きな人がいるって言った時は、本当にビックリしたし嬉しかった!』

『…………』

『二人の間で色々あるみたいだけど、少なくても私から見て総一郎くんは本気で咲蓮の事を想ってくれているのでとても安心なのです! だから、よろしくね?』

「うんうん」


 総一郎は、私が大好き。

 大嫌いだけど大好きだって、私は知ってる。

 お母さんもそれを良く分かってくれてて、私は嬉しくなって何度もうんうんする。

 けれど総一郎は優しくて律儀だから、本当の事は中々言ってくれないの。

 だから、手ごわい……。


『改めまして、咲蓮をよろしくお願いします』

『……こちらこそ、よろしくお願いいたします』

「おねがいします」


 見えてないだろうけど、私もおじぎする。

 このまま中に入りたいけど、お母さんの前で総一郎と一緒にいるの、何でかちょっとだけ恥ずかしい。

 総一郎もまだ私に気を使ってくれてるし、みんなで話すならもっと仲良くなってからが良いな。


 でも、どれぐらい仲良しになれば良いんだろう……?


『…………ところで、ちゅーはした?』

『は、はいっ!? し、してませんよっ!?』

「わっ」


 ビックリした総一郎の声に、私もビックリ。

 でも、ちゅーって……アレだよね?

 お父さんとお母さんも隠れてよくしてる、唇と唇でちゅーってするの。

 子供の時に私もしたいって言ったら、慌てたお父さんとお母さんが本当に好きな人同士でしなさいって顔を真っ赤にして教えてくれたのをよく覚えてる。


 私が本当に好きな人……総一郎だ。

 でも総一郎は、まだ私の事を嫌いって言ってる。

 けれど総一郎は私の事が大好きだとも知ってる。


 むぅ。

 難しい……。


『え!? あの距離感で!?』

「わわっ」


 お母さんの声で、またビックリ。

 でもお母さんもビックリしてた。

 けどこれってビックリするぐらい、私と総一郎が仲良しって事なのかな?


『な、何でしてると思ったんですか!?』


 すごい。

 私が聞きたい事、総一郎が全部言ってくれてる。

 好き。

 だけど総一郎もビックリしてるから、やっぱりまだ早いのかも。


『ちゅーはね、それだけ大事なの……! 大事なんだよ……!!』

「……大事」


 そうだよね。

 やっぱり大事。

 総一郎とちゅー、したいけれど。

 大事だからこそもっと、仲良くなってから――。

 

『お、お気持ちは分かりました……! 分かりましたから落ち着いてください! ま、まあ俺も男なので……したいかしたくないかで言えば、したいですけど……』

「え?」


 ――総一郎?

 今、したいって言ってくれた?


『えぇっ!? その言葉詳しく!!』

『こ、言葉のあやですよ!? ふ、深い意味は無くてですね!?』

『ちゅーしたいって気持ちに、それ以上の深いものはないよー!!』

『そ、そうじゃなくてですねー!?』

「わ。わ、わわわっ……!」


 パタパタと私は逃げるように階段を駆け上がる。

 もしかしたら本当に風邪を引いちゃったのかもしれない。

 それぐらい顔が、身体が熱かった。

 自分の部屋に戻って、ぴょんってベッドに落ちる。

 でも枕からも、総一郎の匂いがした。


「わ、うぅ」

 

 どうしようどうしよう。

 頭の中が、総一郎でいっぱい。

 嬉しいのに、ちょっと苦しい。

 さっきベッドに落ちた時にぎゅってしてくれたみたいに苦しい。


「好き」


 総一郎が、好き。

 今すぐまた下に戻って、この気持ちを伝えたい。

 でも今は、恥ずかしくて顔が見れない。

 明日、会った時に言おう。

 お礼と一緒に、私の気持ちを。


「総一郎」


 ぎゅーと枕に顔を埋めて、目を閉じる。

 やっぱり枕からは総一郎の匂いがした。

 ちゅーしたいって、言ってくれた。

 嬉しい。

 でも私はそれを隠れて聞いてただけだから、急にしたらビックリしちゃうかも。

 

 だってちゅーは、大事だから。

 ちゃんと総一郎が好きって言ってくれた時に、したいな。


「……好き」


 でも、だけど。

 総一郎もしたいって言ってくれたから。


「好き。総一郎、好き」


 だから。

 唇じゃなくて、ほっぺたなら……良いかな?

第四章 狼姫の好きラッシュ 完


次回


第五章 狼姫のお泊りラブリゾート

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