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いつもクールで完璧美人な孤高の狼姫が、実は寂しがり屋で甘えん坊な子犬姫だと俺だけが知っている  作者: ゆめいげつ
第四章 狼姫の好きラッシュ

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第80話 「狼姫と、はじめての」

「昨日は、凄かったな……」


 咲蓮のお見舞いに行った次の日。

 俺は一人、朝の通学路で昨日あった事を思い出していた。

 クラスメイトである山川と南が付き合っていたという所から始まり、咲蓮が学校を休んだ事で心ここにあらずな俺を十七夜月先輩が一発で見抜き、朝日ヶ丘先輩が咲蓮の幼馴染だからと住所を俺に渡してきて、家に行ったら咲蓮の母親の早霧さんにめちゃくちゃ絡まれながら背中を押され、咲蓮とは部屋で抱き合い俺はベッドになった。


 他にも上げればキリが無い。

 それだけ濃密な一日だったのだ。


「咲蓮は今日、来るだろうか……」


 いくら濃くても、頭の中には常に咲蓮がいた。

 お見舞いで会えたと言っても、やはり元気な咲蓮が一番である。

 表情の変化は少ないが、喜怒哀楽の感情は間違いなく持っていて、最近は俺に対する好意をこれっぽっちも隠さないでいる。

 それを身近で感じられないのが寂しいのだと、自分勝手ながらに俺は昨日咲蓮と抱き合った時に実感してしまった。


「しかし、ち、ちゅーは、な……」


 学校の下駄箱で上履きに履き替えながら、周囲を警戒して呟く。

 それもこれも昨日の帰り際に早霧さんに言われた一言が原因だった。

 俺と咲蓮は隠れて抱き合いデートもして添い寝もする関係だが、ちゅー……キスはしていない。

 そもそもそんな関係なのかも疑問で、好意は間違いなくあるがそれでも俺と咲蓮の間にはまだ誰にも言っていない約束もあって……と、頭の中がぐちゃぐちゃになっているのだ。


「……いかんいかん! 顔に出すと変に勘繰られる!」


 廊下を歩き、教室が近づいてきた所で俺は自分の頬を両手で叩く。

 最近では南が筆頭になりつつあるファンクラブ仲良し三人娘や、その彼氏であるバスケ部男子の山川だったりと、関わる友人が増えている。

 賑やかなのは良い事だが、俺と咲蓮の事となると熱くなる人物が多すぎるのだ。


 だから俺は昨日あった事を悟られないように、咲蓮ばりのポーカーフェイスで教室に入る。

 昨日咲蓮のお見舞いに行った事は、誰にも知られていないのだから。


「あっ! 柳、柳が来たわっ!!」

「柳! サレン様は大丈夫だった!?」

「柳さん、昨日サレン様のお見舞いに行ったんですよね!?」

「うおおっ!?」


 俺は教室に入って、一秒で包囲されてしまう。

 俺が入ってきた事に気づいた仲良し三人娘が俺を取り囲みながら、グルグルと俺の周りを回って交互に質問攻めをしてきた。


「な、何だ急に!? っていうか、お見舞いって……!」

「ネタは上がってるのよ! 昨日の放課後、柳が学校からダッシュして帰ったって!」

「風紀委員の柳が校則を破ってまで廊下を走って帰るなんて、サレン様のお見舞いに行く以外無いってね!」

「サレン様は、サレン様は大丈夫だったんですか!? 柳さんは、サレン様にどんなお見舞いをしたんですか!?」


 バレていた。

 黙っているつもりだったのに、俺の軽率な行動から全てがバレていた。

 正直、朝日ヶ丘先輩から咲蓮の住所をいただき、家に着くまでは緊張であまり記憶が無いのだが。

 俺、走ってたのか……。

 

「さ、咲蓮は少し疲労が溜まっていたらしい! 重い風邪とかじゃないから、だ、大丈夫だ!」


 こうなってしまったら言うしかなかった。

 咲蓮の体調については隠す必要もないし、三人も本気で心配してくれているのだから。


「疲労……。風邪じゃなくて良かったぁ……」

「でもちょっと、私達もサレン様に頼り過ぎてたかもね……」

「そ、それで柳さんはどのような看病を……?」

「ふ、普通にちょっと話しただけだぞ!?」


 咲蓮の事を知り、三人はようやく落ち着いてくれた。

 それでも南だけが落ち着きながら何かを聞こうとしたので慌てて誤魔化す。

 流石に咲蓮のベッドになったなんて、口が裂けても言えないのだ。


「わっ。今日もみんな、元気」

「サレン様!?」

「もうお身体は大丈夫なんですか!?」

「柳さんとはいったい何が!?」

「うん。平気だよ」


 そこに。

 まさにグッドタイミングで咲蓮が。

 いつも通りのポーカーフェイスで教室に入ってきた。

 ファンクラブ三人娘は一瞬で俺から咲蓮に移動して、あわあわと慌てている。


「総一郎。昨日は、ありがと」

「ん? お、おぉ……」


 そのまま咲蓮は俺の隣に来て、小さく笑みを溢す。

 学校で咲蓮を見るのは二日ぶりだ。

 たった二日でも、こうして笑顔を見れるのは嬉しくなる。

 昨日と変わらない空気感に少しだけ気恥ずかしくなった俺は視線を逸らす。

 すると、その笑みを見た俺以外の三人と目が合った。


「さ、咲蓮様が笑顔をっ!?」

「な、なんかこの前より距離感近くないっ!?」

「や、やっぱり昨日何かあったんですか柳さんっ!?」

「お前ら邪推しすぎじゃないかっ!?」


 嫌に勘の鋭い三人娘が騒ぎ出す。

 賑やかだが騒々しく、元気を貰えるがやかましかった。

 このままだとある事ない事を全て新生ファンクラブに広められて大変な事になってしまうと思った俺は慌てて三人を止めようとする。


「総一郎」

「ちょ、ちょっと待ってくれ咲蓮! 復帰早々で悪いが、この三人をどうにかするのが先だから!」


 咲蓮が、俺の名前を呼ぶ。

 だけどこれ以上俺と咲蓮のやり取りを見せたら誤解が更に進んでしまうので、俺は三人娘に視線を戻した。


「ありがとう」


 だから、気づかなかった。

 咲蓮の呟きと、その微笑みに。


「総一郎」


 俺が暴走する三人娘をなんとか落ち着かせようと躍起になる。

 そんな、時だった。


「好き」


 ――ちゅっ。

 俺の頬に。あたたかくて柔らかな感触が、広がったんだ。

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