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いつもクールで完璧美人な孤高の狼姫が、実は寂しがり屋で甘えん坊な子犬姫だと俺だけが知っている  作者: ゆめいげつ
第四章 狼姫の好きラッシュ

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第78話 「狼姫と、君のぬくもり」

「だ、大丈夫か咲蓮……?」


 咲蓮を抱っこしてベッドに運ぼうとした俺だったが、無数のぬいぐるみを避けようと慎重になり過ぎたせいで足を滑らせ、咲蓮と一緒にベッドにダイブしてしまった。

 咄嗟のところで身体を捻り俺が下敷きになったのは不幸中の幸いだろう。

 危うく病人の咲蓮を押しつぶす所だったのだから。


「…………」

「……咲蓮?」


 しかし、抱きかかえた咲蓮から返事は無かった。

 まさか転んだ拍子に怪我でもしてしまったのだろうか。

 そんな不安が俺の中に生まれて。


「くるしい」

「すっ、すま、んんっ!?」


 咲蓮の声が俺の胸元から聞こえてきて、俺は慌てて咲蓮を抱く腕を離そうとした。

 どうやら咲蓮を守る為に強く抱きしめすぎてしまったらしい。

 しかし何故か咲蓮は俺から離れようとせず、ベッドと俺の背中の間に自分の両手を差し込んで来たんだ。


「このまま」

「なっ、こ、このまま!?」

「うん。このまま……」


 もごもごと、俺の胸元に顔を埋めた咲蓮が喋る。

 その度に俺の心臓ははち切れそうになっていた。

 何故なら咲蓮の全身が完全に俺に乗っているからだ。

 上半身と上半身が、下半身と下半身が、制服と寝間着越しに完全に密着している。

 この前のネットカフェでの添い寝が抱き枕なら、今の俺は完全に咲蓮のベッドになっていたんだ。


「すんすん……すぅー……」

「あ、あまり……その、嗅がないでくれ……」

「や」

「やっ!?」


 全身で余すところなく感じる咲蓮の柔らかさ。

 冷房が効いていたってとっくに俺の身体はオーバーヒートしそうだった。

 そんな俺のドキドキをさらに加速させるように、咲蓮が夢中になって俺の身体に自分の鼻を押し当てる。

 とてもくすぐったく、恥ずかしい。

 何故か小声になった俺が止めようとするが、文字通り一言で断られてしまった。


「今日。会えないと、思った」


 ぎゅーと、俺の背中に回った腕の力が強くなる。

 ずっと俺の胸元に顔を埋める咲蓮の表情は分からない。

 だけどその純粋な言葉に、体温とは違う温かい何かが胸の中に生まれたような気がしたんだ。


「来てくれて、嬉しい」

「……そうか」

「なでなでしてくれて、嬉しい」

「…………そうか」


 ポン、と俺は咲蓮の頭に手を置く。

 いつ触ってもきめ細やかな手触りの髪だ。

 一緒にベッドに倒れこんだせいで少しだけ乱れているその灰色の髪を、俺は手櫛で整えていく。


「総一郎」

「……なんだ?」

「いる?」

「……ちゃんといるよ」

「うん」


 咲蓮が、可愛くて仕方ない。

 俺だけに見せる弱さを守ってやりたいと思うこの感情は、庇護欲とは違う何かだ。

 学校では誰からも憧れの的で、来る者拒まずに努力をひたむきに続けている。

 しかし咲蓮は疲れたとかキツイとか、弱音は一切吐かない。

 ……俺の前でも。

 頑張り屋さんで寂しがり屋な、狼姫で子犬姫。


 そんな咲蓮の力になりたいと。

 俺はあの日、心の底から思ったんだ。


「疲れてるのに、買い物に付き合わせてごめんな」

「ううん」


 俺も咲蓮の背中に手を回しながら、もう片方の手で頭を撫でる。

 咲蓮は静かに身を預けてくれた。

 好きな人と抱き合って眠っている。

 その言葉は、直接読み取れる意味だけじゃ言い表せないぐらい俺の中で大きな意味を持っていた。

 

 咲蓮が安心してくれるように、俺も咲蓮を抱きしめると安心する。

 どうやら俺も、咲蓮がいなくて寂しかったのかもしれないと思った。


「…………」

「……咲蓮?」


 そう思っていると、咲蓮から返事が無い事に気づく。

 俺はまた苦しくさせてしまったのかと思い、慌てて視線を落した。


「……すぅ……すぅ……」


 すると俺の胸元に顔を埋めながら、咲蓮の寝息が聞こえてきた。

 さっきの寝たふりとは違って、本当の寝息である。

 呼吸をする度に胸が膨らむ感触が、直で俺に伝わってくるのだ。


「……しっかり休むんだぞ?」

「……うゅ」


 最後に、もう一度俺は咲蓮の頭を撫でる。

 それに咲蓮は、小さな寝言で返事をしてくれたんだ。

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