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いつもクールで完璧美人な孤高の狼姫が、実は寂しがり屋で甘えん坊な子犬姫だと俺だけが知っている  作者: ゆめいげつ
第四章 狼姫の好きラッシュ

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第77話 「狼姫と、だっこ(真)」

 ベッドに背中を預けた俺に、跨った咲蓮が抱きついてくる。

 背中に回した手。もう片方は咲蓮の頬に添えられているので動く事は不可能で。

 いつもより高い体温と密着度。身体が触れ合ってない場所の方が少ないんじゃないかと思う中で、咲蓮の甘い匂いが俺の思考を狂わせる。

 お見舞いに来てこんな事を思ってはいけないのに、女の子の肌の柔らかさがとても気持ちいいと思ってしまっていたんだ。


「さ、咲蓮……! ちょっと、ちょっと待ってくれ……!」

「うん」


 ――スリスリ。

 頷く咲蓮だったが、俺に添えさせた手を頬に擦り付けまくっている。

 駄目だこれ、一生触っていられる。きめ細やかで手触りが良く、しかも咲蓮が嬉しそうにしているなんて良い所しかなかった。

 ちょっと指の先を下に動かせば頬から首に顎と色々なところを触れてしまいそうだし、咲蓮もそれを喜んでくれるだろうと謎の信頼がある。

 だけどそんな事をするような間柄でもないし、ましてや体調不良なのだからそんな事出来る筈もなかった。


「うん。このままで大丈夫、だよ?」

「そ、そうじゃなくてだな……!?」


 ――スリスリ。

 咲蓮が気持ちよさそうに俺の手を頬ずりして、目を細める。

 どうやら咲蓮は言葉の意味をそのままの意味で解釈してしまったらしい。

 でも当然俺の言いたい事はそうじゃなかった。

 このままだと色々な意味で危ないのだ、色々と……!


「さ、咲蓮は調子が悪いんだから……ちゃんとベッドで寝よう! な? な!?」

「わかった。総一郎は、いつも優しい」


 良かった、納得してくれた。

 その間も俺の手にスリスリは続いてるけど納得してくれた!

 本当にこのままだと大変な事になりそうだから、本当に良かった!!」


「じゃあ。だっこ」

「…………っ!?」


 俺の背中に回っていた手が、俺の首の後ろに回される。

 それによって俺の胸元に、柔らかい二つの何かが押し当てられた。

 確かな存在感を放つ極上の柔らかさが、俺の胸元でむにゅっと形を変える。

 体調不良だから苦しくないように――?

 それとも、いつも家ではつけずに――?

 そんな異性の下着事情なんて知らない俺は、興奮に飲み込まれるより前に無理やり思考を切り替える。

 だって、いくら考えたところで……俺の胸元に当たる柔らかさは本物なのだから。


「だ、だっこだな!? 持ち上げる方の、抱っこ!!」


 だっこ。そう、だっこである。

 その意味は考えるまでもなく理解できた。

 いつも咲蓮がだっこ言って学校でしているのは、正式にはハグ、抱擁である。

 だけど今咲蓮が俺におねだりをしているだっこは、正面から抱きかかえて持ち上げるという一般的なだっこだった。


「よ、よし! ま、任せろっ!?」

「やった。総一郎、好き」

「お、俺は嫌いだぞっ!?」


 俺の頭も完全に混乱していた事だろう。

 自分で言ってしまった手前、引き返す事は出来なかった。

 後から考えればすぐ後ろなんだから自分で頑張れと言えたかもしれないが、身体に当たり続ける柔らかさとあたたかさ、それからだっこをする事によって耳元に囁かれるようになった咲蓮の声にどうにかなってしまいそうだった。


 口数も声量も少ない咲蓮だからこそ、耳元で囁くと言う行為は危険なのだ。


「し、しっかり捕まってろよ!?」

「うん。ぎゅー……」

「っっっっっっっっ!!!!????」


 咲蓮が身体全体を押し当ててきて、俺は声にならない雄たけびを上げた。

 その勢いのまま思いっきり立ち上がる。

 咲蓮を落とさないように、背中に回していた手を太ももに回して――。


「――――」


 この時の柔らかさを、俺は一生忘れないだろう。

 いつも触れ合っている上半身とは違う、下半身の柔らかさに触れた。

 その事実が、衝撃が、一瞬……俺の思考を遥か宇宙へと飛ばしたんだ。


「わあ。いつもより、すごい」

「う、動く……ぞっ!?」


 その意識が、咲蓮によって一気に現実に引き戻される。

 だけどそれはそれとして現実の発言も捉え方によっては危険極まりないので、俺は震える声を原動力に振り返り、咲蓮をベッドに乗せようとする。


「お、俺が言うまで手を離すんじゃないぞ!?」

「うん。ずっと、離さないね」

「そ、そうじゃないが!?」


 ぬいぐるみだらけのベッド。

 その一つ一つ、一匹一匹、一人一人が咲蓮にとって大切な存在なのだろう。

 それらを押しつぶさないように、ベッドの真ん中に慎重に咲蓮を抱きかかえながら……。

 誘惑に聞こえる甘言を振り切って、寝かせないといけないのだ!


「よ、よし……このま、まぁっ!?」

「わっ」


 そう思っていた時が、俺にもあった。

 身長になり過ぎた挙句バランスを崩して、咲蓮と一緒にベッドに倒れこむまでは。

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