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いつもクールで完璧美人な孤高の狼姫が、実は寂しがり屋で甘えん坊な子犬姫だと俺だけが知っている  作者: ゆめいげつ
第四章 狼姫の好きラッシュ

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第76話 「狼姫と、ぎゅーぎゅーぎゅー」

「さ、さささささささささっ、咲蓮っ!?」

「うん。おはよう、総一郎」


 寝ていたと思った咲蓮がむくっと起き上がる。

 ゆったりした灰色の寝間着は半袖で涼し気だ。それに髪の色とお揃いですごく似合っている。だけどそんな好きな人の寝間着姿を見れた感動よりも、咲蓮が起きていたという衝撃の方が遥かに勝っていた。


 いつから起きていたのだろうか?

 場合によっては、大変な事になってしまう。

 俺の言った言葉や勝手に頭を撫でていた事が、全部バレていた事になるからだ。


「い、今……起きたのか?」

「ううん。総一郎とお母さんの大きな声で、起きたよ?」

「…………」


 俺は思わず天を見上げる。

 知らない天上だった。咲蓮の部屋の天井は初めて見る。

 俺が一階で早霧さんに土下座をした時に叫んだせいで、咲蓮は起きたらしい。

 完全に、自業自得だった。


「……すまんな。体調悪くて学校休んだのに、突然家に来て大声出して」

「そんなことない。総一郎の声、聞くだけで元気になる」

「咲蓮?」


 色々と謝りたい事はあるのだが、まずは最初の非を俺は詫びる。

 しかし咲蓮はその言葉も首を振ってから、ゆっくりとベッドから降りてきて。


「それに。なでなで、嬉しかった」

「お、おう……!?」


 そして、ちょこんと。

 ベッドの脇、俺の横に正座をして、俺の手を握ってきた。

 女の子の、細い手。ずっと眠っていたからなのかやっぱり少し体温が高めだ。

 咲蓮は俺を見上げながら少しだけ口角を上げる。

 今日一日学校で見れなかった笑顔に、俺の胸が温かくなった気がした。


「総一郎の手。今日、ひんやりしてる」

「さ、咲蓮っ!?」


 手のひらに、咲蓮の頬の感触が広がった。

 咲蓮が俺の手を、自分の頬に当てさせたからだ。

 俺の手を感じながら、咲蓮は気持ちよさそうに目を細める。

 抱き合った事は何度もあったし、頭を撫でた事も多くなってきた。

 しかしこうやって直接露出した肌、顔に頬に顎に首に触れるのは初めてである。

 柔らかく、きめ細やかで手触りが良い。いつまでも触っていたくなるような幸せと得も言われぬ興奮が押し寄せてくる。


 今なら体調不良の咲蓮よりも心拍数が高い自信しかなかった。


「むふぅ……」

「おっ、えっ、あっ、えっ、なっ!」


 ご満悦の様子。

 対する俺は大パニックだった。

 何だこれ何だこれ何だこれ何だこれ何だこれ。

 自分の家だからリラックスをしているのかいつもよりスキンシップが激しかった。

 いや激しいと言っても何か過激とかそういう事じゃなくてベッタリと言うか距離の詰め方が凄いと言うか何と言うか……!


「総一郎だ」

「お、おぉ……いるぞっ!?」

「総一郎が、私の部屋にいる」

「おっ、お見舞いに来たからな!?」

「嬉しい」

「――――」


 俺の手を頬に当てながら、咲蓮が笑った。

 疲れているせいかいつもより表情筋が柔らかくて、自分の部屋でリラックスしているせいかいつもより嬉しそうだった。

 そんな好きな人の、初めて見る笑顔で、頭が真っ白にならない奴はいないだろう。


 何故なら、俺がそうだから。

 俺が咲蓮のお見舞いに来た筈なのに。

 咲蓮の言葉で、俺の心が満たされていくんだ。


「総一郎。ぎゅー、して?」

「こ、このままっ!?」

「うん。このまま、ぎゅー」

「お、おぅ……」


 無茶ぶりである。

 だけど咲蓮のお願いに、いつもより大胆な甘えっぷりから来るおねだりに、俺は逆らえる気がしなかった。

 咲蓮の頬を撫でている手とは逆の手を、咲蓮の背中に回す。

 お互いに座っているせいか体勢が難しく、気づいたら俺がベッドの縁に背中を預ける形になった。

 自然と胡坐をかく姿勢になった俺に乗っかるように、咲蓮が正面から俺に身体を預けてくる。その密着度合いはある意味で添い寝よりも上だ。


 だって胡坐で座る俺の上に、咲蓮が完全に乗っかっているのだから。


「ぎゅー。ぎゅー、ぎゅー」

「~~~~っっ!!」


 もちろん、頬に触れた手はそのままに。

 胸元に頭を乗せて、短く呟き続ける咲蓮の甘い声に。

 俺の頭は幸せと興奮でどうにかなってしまいそうだった。

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