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いつもクールで完璧美人な孤高の狼姫が、実は寂しがり屋で甘えん坊な子犬姫だと俺だけが知っている  作者: ゆめいげつ
第四章 狼姫の好きラッシュ

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第74話 「狼姫と、お姉さん?」

「どうぞどうぞ! 粗茶ですが!」

「ど、どうも……」


 ゴトッと勢いよく、目の前のテーブルにお茶が入ったグラスが置かれる。

 そして対面に座り両肘をついた女性がニコニコと、俺の顔を見ていた。

 彼女は咲蓮の家に来た俺を出迎えてくれたもとい、家の中に引きずり込んだ、綺麗な白髪の女性である。

 咲蓮が満面の笑みを浮かべたらきっとこんな顔なんだろうなって思うレベルで咲蓮の面影を感じる推定咲蓮の姉さんは、俺が困惑している間もずっとニコニコと俺を見つめていた。


「い、いただきます……」

「どうぞどうぞどうぞどうぞどうぞ!」


 圧が凄い。

 それと同じぐらい、お茶はよく冷えていた。

 喉を通る冷たさが俺に冷静さを取り戻させ、ようやく一息つく事に成功する。

 

「すみません、突然お邪魔しちゃって」

「ううん! 未来ちゃんから聞いてたから大丈夫! まあ未来ちゃんはお見舞いに行きますとしか連絡くれなかったんだけどね!」


 咲蓮の姉さんと思われる女性はグッと親指を立てた。

 とんでもなくハイテンションな女性である。

 そのハイテンションっぷりは、昨日薬局で俺と咲蓮に出会い限界化していた南と良い勝負出来ると思った。


「あ、あの……咲蓮は。咲蓮は……大丈夫なんですか?」

「うん! 今は二階でぐっすり寝てるよ?」

「その……風邪、なんですよね?」

「ううん。午前中に病院行ったんだけど、風邪じゃないって! お医者さんが言うには疲れが溜まってたみたい。テストも終わったし、暑くなってきたからかなー? 朝起きてきてからずっとフラフラしてたから、休ま――」

「すみませんでしたっっっ!!!!!!!!!!!」

「――せうわぁっ!?」


 咲蓮の様子を聞いた瞬間、反射的に俺は思いっきり頭を下げる。

 危うく勢いあまってテーブルに顔面を強打する所だったが関係ない。

 悪いのは俺だから。


「な、何々っ!? 何で総一郎くんが謝るの!?」

「咲蓮の疲れに気づけずに申し訳ありませんでした! 咲蓮は毎日と言って良いほど部活の助っ人で大変なのに、昨日は放課後に俺の買い物に付き合わせてしまって! 咲蓮の疲れを見抜けず、体調を崩させてしまったのは俺のせいです! 本当にすみませんでした!!」

「か、顔上げて顔っ! とりあえず顔! 顔! 顔っ!!」


 まだまだ全然謝り足りなかった。

 しかし俺が顔を上げない事によって更に迷惑をかける訳にはいかないのでゆっくりと顔を上げる。

 すると咲蓮の姉さんと思われる女性はホッとしたように大きな溜息をついた。


「いやぁ……ビックリしたよー。若いねぇ、若いって良いねぇ……」

「す、すみません……」


 咲蓮の姉さんはエプロン越しの胸に手を当てる。

 見た目とテンションは大学生ぐらいなのだが、こうして見ると大人の落ち着きみたいなものを感じる不思議な女性だった。


「まずね、咲蓮の体調が悪いのは総一郎くんのせいじゃないよ」

「い、いえそれは!」

「ううん。あの子、頑張り屋さんだもん。知ってるでしょ?」

「……はい」


 彼女の言葉に、俺は口を挟もうとする。

 しかし俺を見て優しく微笑むその顔に、俺は何も言えなくなった。

 その表情を、そしてその言葉を否定する事は、咲蓮の頑張る姿に惹かれている俺には絶対に出来ない。


「安心して? 咲蓮、今日はちょっと疲れちゃっただけだから」

「すみません……」

「謝らなくて大丈夫だよ。だって咲蓮、毎日総一郎くんの事を嬉しそうに話してくれるもん!」

「……咲蓮が、ですか?」

「うん! 今日は総一郎が、総一郎がって……帰って来る度に教えてくれるの。総一郎くんのお話をしてる時の咲蓮、すっごい楽しそうなんだぁ……」


 その言葉がお世辞ではなく、心からのものだと伝わってくる。

 それだけその表情が、声音が、とても幸せそうだったんだ。


「だからね? 総一郎くんのせいじゃないよ? むしろ総一郎くんがいなかったら、咲蓮はもっと頑張っちゃって無理してたかもしれないもん!」

「…………」


 その言葉に、思い当たる節があった。

 それは俺と咲蓮の秘密の関係が始まる前……。

 去年、寒かった冬の、出来事だ。


「と、言う訳で総一郎くん。これからも咲蓮をよろしくお願いします!」

「えっ!? ちょ、ちょっと! 頭を上げてくださいよ!?」


 しかしそれを思い出す前に、咲蓮の姉さんと思われる女性が今度は俺に頭を下げたので、それどころではなくなってしまった。

 俺はともかく、咲蓮の家族である彼女が頭を下げる理由は無いのだから。


「うん! 分かった! 上げます!」

「は、はい……?」


 だけど。

 俺の言葉に、速攻で彼女は頭を上げた。それも思いっきりニヤけながら。

 あまりの出来事の連続に、俺の頭が混乱していく。


「へへん! 驚いたでしょー? さっき総一郎くんが急に謝った時もこれぐらい驚いたんだよ! だからお返し!」

「あ、え……はぁ……すみません……」


 何だこの人は。

 十七夜月先輩とは違うベクトルで愉快な人だった。

 混乱した俺は思わず謝ってしまうぐらい、さっきまで真面目な話をしていた時と印象が違いすぎたんだ。


「まあ咲蓮の好きな人にこれ以上いじわるをするのも良くないし、言いたい事も言ったから、そろそろ咲蓮に顔を見せてあげて? きっと喜ぶよー? あっ、咲蓮の部屋は二階に上がって一番手前の扉だよ!」

「あ、はい……はいっ!?」

「え? なにどうしたの?」

「い、今……! さ、咲蓮の好きな人って……!?」

「え、うん。だってデートしたんでしょ? それに、咲蓮から全部聞いてるよ?」

「ぜ、全部とは……?」

「んー? 全部っ!!」

「…………」


 ニコッと、満面の笑みで女性は笑った。

 だけどその言葉の意味が本当なら、これ以上怖い笑顔は存在しなかった。


「…………すみません」


 俺は謝る事しか出来なかった。

 最後の方なんて、かすっかすの声だった。


「まあまあ、二人とも若いから! 今を楽しむのが一番だよ! もちろん、喧嘩しない範囲でね?」

「はい……」


 彼女は笑顔で立ち上がり、リビングの扉を開いて俺を手招きする。

 わざわざここまでお膳立てをしてもらって座ったままなのも悪いので、グラスのお茶を一気に飲み干してから立ち上がった。

 

「すみません……色々とご迷惑をおかけして……」

「いいのいいの! じゃ、後は若い二人で! グッドラック!!」

「いやいや……お姉さんも若いでしょう……」


 扉から廊下に出ようとすると、女性はまた親指をグッと突き立てる。

 最初から終始ほとんどハイテンションの彼女に、つい俺はずっと思っていた事を言ってしまった。


「やだなぁ、もうお姉さんって歳じゃないよー?」


 すると女性は大きく笑って。


「総一郎くんや未来ちゃんと倍ぐらい違うんだからー!」

「……はい?」


 その言葉に俺は思わず歩き出そうとした止め、振り返った。

 倍……ぐらい、違う?

 年齢が、倍ぐらい?

 俺が高校二年生で、朝日ヶ丘先輩が高校三年生……。

 そんな俺達の年齢より、倍ぐらい違う……?


「…………」


 その瞬間、頭の中で何かがカッチリとハマった気がした。

 咲蓮と似た容姿、エプロン姿、咲蓮を想う気持ち、俺に言った言葉……それら全てを当てはめると、考えられる事は……俺が、考え違いをしていた事は……。


「……さ、咲蓮の……お、お母さん……?」


 彼女が、咲蓮のお姉さんじゃなくて、お母さんという事で。


「え、うん! どうもどうも、咲蓮のママの赤堀 早霧(あかほり さぎり)です! 娘がいつもお世話になってます! え、何で今それ聞いたの?」


 俺の言葉に、咲蓮のお母さんは……早霧さんは、笑顔で笑い。首を傾げる。


「すっ、すみませんでしたああああああああああああああああっっっっ!!!!!」

「うえええええええええええええええっっ!? 何でまた謝るのーっ!?」


 俺は、全力で土下座を決め込むのだった。

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