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いつもクールで完璧美人な孤高の狼姫が、実は寂しがり屋で甘えん坊な子犬姫だと俺だけが知っている  作者: ゆめいげつ
第四章 狼姫の好きラッシュ

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第71話 「狼姫と、夏風邪」

「おーしっ。今日も出席を取るぞー……っと。まあいきなりだけど、出席番号一番の赤堀は風邪の連絡来たから休みなー。他の奴らも体調管理に気を付けろよー?」

「…………は?」


 朝のホームルーム。

 担任教師が気だるそうに出席簿を眺めながら言った言葉に、俺は思わず声が漏れてしまった。


「えー!?」

「さ、サレン様が!?」

「昨日あんなに元気だったのに……!?」


 しかしその声が届くよりも前に、ファンクラブ三人娘の中の声でかき消される。

 咲蓮は人気者なので、当然他のクラスメイト達もざわつき出した。


「よしよし、来てるお前らは元気だなー」


 そんな生徒達を見て、担任教師は大丈夫だと判断する。

 確かに元気はいっぱいだろう。


「咲蓮が……か、風邪……?」


 だけど当然……。

 俺の心は、何も大丈夫じゃなかったんだ。


  ◆


「サレン様、大丈夫かな……?」

「昨日グラウンドで見かけた時はいつも通りハキハキしてたけど……」

「私も昨日……元気、でしたね?」


 昼休み。

 ファンクラブ三人娘が心配そうに話している。

 俺の隣、咲蓮の机の前で。

 その中で昨日会った南はチラッとだけ俺の方を見てきた。


「狼姫も風邪ひくんだな。なあ柳、何か知らね?」

「なっ、何で俺に!?」

「だって、一番仲良いだろお前」


 不意打ち気味にバスケ部男子、山川も加わり俺に聞いてくる。

 驚いた俺が聞き返すと、山川の返事にファンクラブ三人が揃って頷いた。

 南に関しては頷きまくっていたので、俺は思わず咳払いをして誤魔化しながら視線を戻す。


「……連絡は、無い」

「マジかぁ。夏風邪はキツいって言うからなぁ」


 その言葉に、胸の奥がざわついた。

 スマホで咲蓮にメッセージを送って見たが、返事はおろか既読もつかず昼休みを迎えている。可能なら今すぐにでも学校を早退して見舞いに行きたいのだが、俺は咲蓮の家を知らないのだ。

 いつも登下校で一緒になり別れる時は、決まってバス停の近くまでだから……。


  ◆


「ふむ。心ここにあらず、だね」

「…………はい?」


 放課後。

 風紀室に入るやいなや、俺を見た十七夜月先輩は机に座り足を組みながらそう言い放った。


「昨日はあんなに良いリアクションをしてくれたと言うのに、今日はそんな余裕は全然無さそうだ。せっかくプライベートビーチに向けてこの前買った水着を制服の中に着てきたから、突然制服を脱いで驚かせようとしたのに……」

「…………」

「反応する元気もない、と」

「絶句してただけです」


 人を驚かすのに身体を張り過ぎじゃないだろうかこの人は。

 いきなり服を脱ぎだすとか、風紀違反スレスレというかアウトだ。

 でも反応する元気が無かったのも事実である。

 今日一日、咲蓮が風邪でいなかった。

 送ったメッセージの返事も、まだ無い。


 昨日から体調が悪かったのだろうか?

 俺はそんな咲蓮に無理をさせて買い物に付き合わせてしまったのだろうか。

 後悔と申し訳なさがグルグルと頭の中で生まれては消え生まれては消え、輪廻転生を繰り返していたんだ。


「そんなキミの悩みは分かるよ。咲蓮クンの風邪の事だね?」

「なっ、何故それを!?」

「理想的な反応をありがとう。でもその驚きは、水着を見てしてほしかったな」


 はっはっはっと十七夜月先輩は笑う。

 いつもと変わらないその様子は今の俺にとってありがたいが、話が逸れるのはよろしくなかった。


「冗談はさておき。咲蓮クンが風邪をひいたという情報は三年の教室にも届いていてね。そして今、心ここにあらずなキミがやってきたんだ。簡単だろう?」

「すみません……」

「気にする必要は無いよ? 安心したまえ。もう、呼んでいるからね」

「……はい?」


 呼んでいる?

 そう思った瞬間、風紀室の扉がバンと開かれた。


「話は聞かせてもらったよっ!!」

「あ、朝日ヶ丘先輩っ!?」


 入ってきたのは、ブロンドの髪を靡かせた小柄で胸の大きな生徒会長、朝日ヶ丘先輩だった。

 彼女は勢いよく風紀室に入ってくると、制服に包まれたその大きな胸をこれでもかと揺らしながら俺に接近して――。


「はいこれ! 咲蓮ちゃんの住所っ!!」


 ――満面の笑顔で、咲蓮の個人情報が書かれた紙を俺に渡してきたんだ。

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