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いつもクールで完璧美人な孤高の狼姫が、実は寂しがり屋で甘えん坊な子犬姫だと俺だけが知っている  作者: ゆめいげつ
第四章 狼姫の好きラッシュ

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第69話 「狼姫と、限界オタク」

「さ、ささささささささ、サレン様とっ、や、やややややややややや柳さんががががががががががっ、ううううううう……腕を組んでお買い物ののののののののっ!? え? これ、夢? 私の願望が生み出した、妄想……?」

「わ。しおりちゃんだ」

「はいいいぃぃぃっ!! サレン様が学校以外で私の名前をををををををっ!? は、はい! この(みなみ) しおり……精一杯お会計をさせていただきますーっっ!!」


 薬局のエプロンを身に着けレジ打ちをしていたクラスメイト……もとい咲蓮ファンクラブ代表仲良し三人娘の一人がガクガクと震えている。

 感極まって自分で名乗っていたが、彼女の名前は南 しおり。

 俺と咲蓮の机の周りに集まっている仲良し三人娘の中で一番大人しそう……だと思っていたクラスメイトである。三人の中で一番小柄で、その中で唯一髪を染めていない、黒髪のおさげが特徴的な少女だ。

 だけど最近は一番アグレッシブな面が目立っていて、それこそいつの間にか咲蓮ファンクラブではなく、俺と咲蓮を見守る会みたいなものを発足した張本人らしい。

 それにあのやかましいムードメーカーのバスケ部男子ともよく一緒にいる所を目撃するし、その行動力は計り知れない。


 何故ここまで俺が長ったらしく彼女について語るように思い出しているのかと言えば、そんな行動力の化身である彼女に俺と咲蓮のこの状況を見られてしまったからだった。

 幸い後ろには他に並んでいるお客はいないが、逆にそれが逃げ場を無くしてしまっている要因でもある。


 もう手遅れかもしれないが、ここは何とか丸く収めなければ……!


「やった。私、お友達にお会計してもらうの初めて」

「そっ、そそそそそそそそんな私なんてサレン様のお友達って言ってもらえるなんて大変恐縮ですしむしろ私の方がお二人のお会計をさせていただいてありがとうございますっていうか嬉しすぎて泣きそうでえっへっへっへっへっへへへへへへ……!」


 とんでもない早口だった。

 俺が割って入れないレベルの早口。

 いつもは三人でいたからなんとかなっていたのが、今はほとんどタイマンで咲蓮と話しているせいでとんでもない事になっている。

 

「……大丈夫か、南」

「うえええええええええええええっ、や、柳さんまで私の名前をっっ!? い、良いんですか私! あ、明日いや今日の帰りにトラックに轢かれないですよね!?」

「落ち着け! 落ち着いて安全な道で信号にも気を付けて帰れば大丈夫だ!」


 ひとまず落ち着けようと俺が声をかけたのだが、更に悪化した。

 前々から思っていたことなのだが、彼女は咲蓮だけではなく俺にも妙な視線を送ってくる事があるので、俺と咲蓮が一緒にいるこの状況は本当に劇薬かもしれない。


「そっ、そうですよね……お仕事……お仕事……私は、レジ打ち……あ、無理……幸せ過ぎてしんどい……」

「しおりちゃん。頑張って」

「……咲蓮。今は、見守ろう」


 南は両肩で大きく息をしながら、ブツブツと自分に言い聞かせていた。

 それに咲蓮は期待のまなざしを送るのだが、逆効果になりそうなのでやんわりと止めておく。

 最初にクラスメイトに見られてしまったというドキドキは、何故か途中から事業参観で娘を見守る親みたいなドキドキに変化していた。


「えっと、トラベル歯ブラシセットが一点、二点……二点んんんんんんっっ!?」


 くわっと目を見開いて。

 南は俺と咲蓮の顔を何度も見返してくる。

 その手には青とピンク色のお揃いトラブル歯ブラシセットが握られ、猛スピードで小刻みに震えていた。


「おそ、お揃いの歯ブラシって、お揃い? え? お揃い? これ、知って良い情報ですか? 私、消されません……?」


 その震えがどんどん全身に広まっていく。

 薬局の店員なのに顔は青ざめて、この中で一番不健康に見えた。


「総一郎。消すって?」

「……気にしなくて大丈夫だ。それで、南。この事だが」

「わっ、わわわわわわわわわ分かっています! この事はいくらサレン様と柳さんの行く末を影ながら応援して見守ろうの会会長でも誰にも言いませんよ!? 影ながら! 見守らせていただきます! はい!!」

「お、おぉ……」


 お願いしようとした事を、とんでもない早口と頷きで了承してくれた。

 喜んで良い所だと思うのだが、ここまで必死になられると何故かこっちが悪い気がしてくる。


「そ、それでは続きまして日焼け止め……日焼け止め!? サレン様と柳さんが、肌をっ!? 今朝の水着も、そういうこと……っ!?」

「しおりちゃん。すごくハキハキしてる」

「頼むから普通に会計してくれ……」


 その後も南は、レジ打ちをする度にカゴの中の商品に食いつきまくっていた。

 十七夜月先輩と言い、朝日ヶ丘先輩と言い、南と言い、俺と咲蓮の秘密の関係の理解者がどんどん増えていくのは素直に喜ばしい事である。


 ただその全員の癖が強いのは、どうにかならないだろうかと心の奥底で思った。

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