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いつもクールで完璧美人な孤高の狼姫が、実は寂しがり屋で甘えん坊な子犬姫だと俺だけが知っている  作者: ゆめいげつ
第三章 狼姫のダブルデート

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第60話 「狼姫と、添い寝だっこ」

「ごろん」


 ネットカフェのペアルーム。

 黒のマットレスが全面に敷かれたこの部屋で、咲蓮が横向きに寝転がる。

 今日の咲蓮は私服で、ボーイッシュな格好をしていた。

 胸元のボタンが緩んだ薄手の白シャツに、黒の長いロングパンツ。学校の制服と違って身体のシルエットがハッキリと出ており、寝転がった事によりそのスタイルの良さが一段と伝わってくる。


 そうじゃなくても先ほど灰色のビキニ姿を見ているので、俺の脳内では自動的にその服の下の綺麗な身体を想像してしまっていたんだ。


「総一郎。寝ないの?」

「ね、寝るぞ……!」

「ふふ。寝る前なのに、凄く元気だね」


 寝るのに宣言はいらないと思う。

 だけど横向きになった咲蓮に見惚れて変な妄想をしてしまったせいで、俺は焦ってそんな事を言ってしまった。

 それを見て咲蓮は楽しそうに微笑む。

 横向きに、寝転がったまま、まるでこのピロートークを楽しむかのようだった。


「いつもより総一郎がおっきく見える」

「ち、近いからじゃないか!?」


 俺も咲蓮も向き合って、マットレスに寝転がる。

 確かに俺も、咲蓮が大きく感じた。きっとそれは距離が近くて、お互いの顔と上半身ぐらいしか見えないからだろう。

 重力に負け形を変えた灰色のウルフカットによって、咲蓮の印象がまた変わった。綺麗なのに可愛くて、クールなのに幼く見える。

 知れば知るほど、俺は咲蓮にどんどん惹かれていったんだ。


「じゃあ、お邪魔します」

「お、おぉ……!?」


 そしていつものように、咲蓮が俺の胸元に入り込んでくる。

 いつもは立ちながら抱きしめているのが、今日は寝ながら抱きしめる形なのでこう、凄く、凄い。絶対に変わらない筈なのに密着度が上がっている気がする。

 だけどそれ以上に寝ているという状況はリラックス効果も強いのか、さっきよりも強い幸福感があったんだ。


「すんすん……すぅ……」

「…………っ!」


 咲蓮が静かに、俺の胸に顔を埋める。

 息遣いがかなりくすぐったい。かと思えば俺の背中に片手を回してきて、より強く顔を押し込んできた。

 さっきも抱き合ったけど、寝ながら抱き合うのはかなり、いやとんでもなくレベルが違う事を俺は今現在進行形で学んでいる。


 やわらかい、あたたかい、いいにおい、やわらかい、あたたかい、いいにおい。

 頭がボーっとして生き、同じ単語がずっとループしていた。


「はふぅ……これは、危険。中毒者続出する」

「そ、それは咲蓮だけじゃないか……?」


 深呼吸までしてから。

 一通り俺を吸って満足した咲蓮を、俺は自然と腕枕していた。

 腕に頭を乗せた咲蓮が至近距離から俺を見つめて、いつものように変な事を言う。

 俺の匂いにそんな中毒性を感じてくれるのは嬉しい限りだけど、それを冷静に返したら咲蓮の頬が少し膨らんだんだ。


「むぅ。じゃあ、総一郎も」

「え……?」

「総一郎も。嗅いでみれば分かる」

「さ、咲蓮っ――!?」


 ――その、刹那だった。

 咲蓮が身をよじり、俺の腕から上へ抜ける。

 ここでの上とは、寝る姿勢での上なので、高さは変わっていない。

 俺の視界を覆ったのは、咲蓮が着ていた白のシャツ。緩んだボタンの内側から一瞬だけ覗いた、確かな膨らみ。灰色の水着とは違う白色が見えたのとほぼ同時に。


「ぎゅー」

「っっっっ!!!???」


 咲蓮は、俺の顔を抱き寄せて、自らの胸元に押し付けたのだった。

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