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いつもクールで完璧美人な孤高の狼姫が、実は寂しがり屋で甘えん坊な子犬姫だと俺だけが知っている  作者: ゆめいげつ
第三章 狼姫のダブルデート

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第56話 「狼姫と、君の為」

 咲蓮に手を引かれて、俺は試着室の前へと連れてこられた。

 水着売り場の奥にあったそれは壁で仕切られていて、入り口の前では受付の女性がいたんだけど――。


「任せてください彼氏さん! 今は他にお客さんもいませんし、ちょっとだけなら貸切に出来ますから!」


 ――俺と咲蓮を見るなり、余計な事は何も言わずに通してくれた。

 いや、彼氏じゃない俺からしたら何かもう全部余計に感じてしまったのは間違い無いのだが。


「総一郎。待っててね」

「お、おう……!」


 咲蓮が靴を脱いで、試着室の中に入りカーテンを閉じる。

 それに何故か俺は背筋を伸ばしてしまった。

 他には誰もいない試着室。カーテンが開いた隣の部屋は内部の構造が丸見えで、大きな鏡が奥にあってその他は衣服を吊るすためのハンガーとラック、それから小物入れの籠が見える。


 その鮮明な光景が、今そこで咲蓮が水着に着替えていると俺に解像度がやたら高い妄想をさせてしまっていたんだ。


「水着に、着替える……?」


 頭を抱えた俺は気づいてしまった。

 水着に着替えるという事は、水着に着替えるという事だ。

 つまり、咲蓮は水着に着替えている。

 衣服を脱いで、下着を外して、下着を、下着を。


 この、薄いカーテンの奥で……?


「んぐっ! んんんっ!」


 思わず変な声が出そうになってしまったのを、俺は下唇を噛みしめながら咳払いをして誤魔化した。

 俺だって交遊関係は狭いが健全な男である。

 好きな人のそういうのには当然興味があった。


 だが興味があるのと実際に直面するのはまた別問題なのだ。


「総一郎? 大丈夫?」

「だ、大丈夫だぞ! 冷房のせいか、喉が乾燥してな!?」

「確かに。脱ぐと、寒いかも」

「か、風邪ひかないようにな!?」


 ただ俺が激しく咳払いしたのをカーテン越しに咲蓮も聞いていたようだ。

 試着室の中から咲蓮の声がして、俺は咄嗟に適当に誤魔化す。

 だけど咲蓮の口から脱ぐという言葉が聞こえてきて、俺は更にむせそうになった。


「ふふ。そうしたら、また総一郎があっためてくれる?」


 何て、悪戯な声が追撃してくる。

 その言葉で、俺の頭にある光景が蘇ってきたんだ。


 それは去年の冬、咲蓮と俺が今の関係になった出来事で――。


「総一郎。着替え終わった」

「うおおっ!?」


 ――シャッと。

 その思い出を横に流すように、カーテンが横に開かれる。


 現れたのは当然、水着に着替え終わった咲蓮で……。


「どう、かな?」

「――――」


 その姿に、また俺は言葉を失ってしまった。

 朝、待ち合わせの時と同じように……いや、それ以上に。


「カッコいい?」

「あ、あぁ……綺麗だ……」


 咲蓮が着ていたのは、ビキニタイプの水着だった。

 パレオでもフリルでもない、ほとんど上下が下着と同じ露出度なのに、いやらしさよりも綺麗や美しさが強かった。

 髪の色と同じ、上下灰色の、いや明るいグレーと言った方が良いだろう。

 スタイルの良い咲蓮の胸を収めながらも、しっかりと谷間とくびれを作るそれは正に芸術と言っても過言では無かった。

 そのくびれの下に履かれたパンツもただ下半身を隠すだけではなく、内側から両腰へ斜めに伸びる謎の二本の紐によってカッコよさが担保されている。


 灰色のウルフカットと、グレーのビキニ。

 色合いが完全に一致した水着の狼姫がここにいる。

 そんな筈は無いのに、灰色の耳と尻尾まで見えた気がしたんだ。


「えへへ。やった、総一郎が喜んでくれた」

「……っ!」


 水着姿で心底嬉しそうに笑う咲蓮に、俺は何も言えなくなってしまう。

 咲蓮が俺の為に水着を着て嬉しそうに笑う姿に、胸がいっぱいになったんだ。

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