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いつもクールで完璧美人な孤高の狼姫が、実は寂しがり屋で甘えん坊な子犬姫だと俺だけが知っている  作者: ゆめいげつ
第三章 狼姫のダブルデート

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第54話 「狼姫と、水着選び」

 隣町の駅前はとても栄えていて、いくつものデパートが連なった巨大な複合商業施設となっていた。

 中は休日という事もあってか、大勢の人が和気あいあいとショッピングを楽しんでいる。

 外より人が多くとも、中は冷房が寒いぐらいに効いているので全く暑くない。


 だけど俺の額からは、冷や汗が頬を伝って落ちていった。


「総一郎」

「柳クン」

「総一郎くん」


 三人の視線が、一斉に俺に向く。

 店内に流れる陽気なBGMも、今は気にならない程に俺は追い詰められていた。

 全生徒の憧れな孤高の狼姫が、期待の眼差しで俺を見つめる。

 全てを見透かすような瞳をしている風紀委員長が、ほくそ笑んでいる。

 皆に好かれる学園のアイドルな生徒会長は、鼻息が少し荒かった。

 

 全員が人気者で、全員が美少女。

 男なら誰しもが羨むようなシチュエーションなのに、俺は今すぐにでもこの場から逃げ出したかった。


「水着」

「キミはこの中から」

「どれを選ぶんですかっ!?」


 何故なら、三人が男用の水着を持って、俺に詰め寄ってきているから。

 ここはデパート、男性用の水着売り場。

 そこで俺は、三人からどの水着にするかを迫られていたんだ。


「総一郎は、これが似合う」


 エントリーナンバー、ワン。

 孤高の狼姫、咲蓮。

 その手には黒地のハーフパンツタイプの水着が握られていた。

 それはシンプルイズベストで、普段なら間違いなくそれを選んでいるのだが一点だけ懸念事項があった。

 そのハーフパンツに、月に吠える狼のイラストが描かれているのである。


 狼姫が、狼の海パンを渡してきた。

 何て言うか、知ってる人が見たらバカップルに見えてしまいそうな水着だった。


「いいや。柳クンは身体が大きいんだから、こっちの方が良いと思うけどねぇ。ピチピチの衣装に浮かぶ肉体美、どうだい?」


 エントリーナンバー、ツー。

 風紀委員長、十七夜月先輩。

 その手には、濃紺の上下一体型なウェットスーツが握られていた。

 何故、水着売り場にウェットスーツがあるのだろうか。

 ここが本格的な水着ショップで、サーフィンとかで着る為にだろうか。


 ていうか十七夜月先輩は俺にこれを着せてどうしたいんだろうか?

 ウインクをしてきたって、有力候補に躍り出るにはとても厳しかった。


「違うよ莉子ちゃん! やっぱり肉体美を楽しむのなら高露出でしょっ! ってことで総一郎くんにはこれが絶対似合う!!」


 エントリーナンバー、スリー。

 生徒会長、朝日ヶ丘先輩。

 その手には、ブーメランパンツが握られていた。


 うん、論外。

 この人は俺をボディービルダーか何かと勘違いしているのかもしれない。


「総一郎」

「柳クン」

「総一郎くん!」


 そして、最初のやり取りに戻った。

 美少女三人が水着を持って、俺に迫っている状況に。


「何だあの集団……」

「美少女に水着を選んでもらってる、だと……」

「いったい前世でどんな徳を積んだんだ……」

「やっぱり筋肉、筋肉のおかげなのか……」


 周りには当然他の客もいて、こんな珍事を繰り広げていれば視線が向けられるのも明らかだ。

 だけどこの異様な光景というか圧によって、店員さえも近づく気配がまるで無いのである。


「私だよね?」

「いいや、私だろう?」

「私ですよね!」


 何だこのシチュエーションは。

 傍から見たらどの美少女を選ぶのか、みたいになっている。

 でも実際は選びにくい水着を一方的に選ばされているだけである。


 どれだけ逃げたくても、これはデートだ。

 俺は絶対に逃げられない。

 ていうかどうして三人は俺の水着を選んでいるのだろう。

 普通こういうのって各々が各々の水着を自分で選ぶんじゃないのだろうか。

 俺の水着なんて選んで何が楽しいと言うのだろうか。


 でも三人は夢中で、キラキラした瞳……は咲蓮だけか。

 十七夜月先輩は何を考えているか分からない漆黒の瞳だし、朝日ヶ丘先輩の碧眼は濁りに濁っているように見えた。


「……俺は」


 その中で、俺は選ばなければいけない。

 誰の水着を選ぶかを。


「……咲蓮の、水着が良い」

「やった」

「なるほど。柳クンは咲蓮クン……の水着が好きなんだね」

「えー! 絶対こっちの方が良いのにぃ……!」


 悩んでいるようで、答えはほぼ決まっていた。

 遊びに行く用の水着なら、咲蓮が選んでくれた水着一択だろう。

 ただ俺が狼のイラストに特殊な恥ずかしさを感じていただけである。

 ていうかウェットスーツとブーメランパンツで何をさせたいんだこの先輩二人は。


 俺の答えに咲蓮は小さく笑い、十七夜月先輩は意味深にニヤけ、朝日ヶ丘先輩は本気で悔しがっていた。

 咲蓮は嬉しいのだろう。

 十七夜月先輩は絶対に結果が分かっていて変な水着を選んでいた。

 朝日ヶ丘先輩は……協力するって言った事を既に忘れてしまったのかもしれない。


「総一郎。カッコいいから、狼が良いって思った」

「あ、あぁ……ありがとな」

「今度一緒に泳ごうね」

「お、おぉ……」


 この中で一番純粋な咲蓮が、ニコニコである。

 自分が選んだ水着を俺に選んでもらって、心なしか左右に小さく揺れていて嬉しそうだ。

 悪い気はしないし、むしろ俺も選んでもらって嬉しい。

 だけどニヤニヤする先輩が隣にいるので、俺は素直に喜べなかった。


「じゃあ。今度は総一郎が、選んで」

「…………なに?」


 そんな俺に、咲蓮が告げる。


「私の水着。総一郎に、選んでほしい」


 ワクワクと。

 期待に満ちた切れ長の瞳が、キラキラと輝いていた。

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