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いつもクールで完璧美人な孤高の狼姫が、実は寂しがり屋で甘えん坊な子犬姫だと俺だけが知っている  作者: ゆめいげつ
第三章 狼姫のダブルデート

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第52話 「狼姫と、間接キス」

「すっ、すまんっ!!」


 俺は慌ててハートのストローから口を離す。

 咲蓮がくわえていたストローが回転し、俺がくわえてしまったからだ。


「…………」


 しかし咲蓮は、俺のストローをくわえて固まったままである。

 その切れ長の瞳を俺を見上げるが、何を考えているかは分からない。

 無限とも思えるような短い静寂の後、ゆっくりと咲蓮がストローを口から離した。


「間接、キス」

「っ!?」


 ボソッと。

 咲蓮が自分の唇に指を添えながらそう呟く。

 それに俺の心臓は爆発寸前だった。


「そ、その……すまんっ! 嫌だったよな!?」

「ううん」

「……え?」

「嫌じゃ、無いよ?」

「さ、咲蓮……?」


 咲蓮は小さく首を横に振り、そしてそのまま立ち上がる。

 かと思えばそこから数歩歩いて俺の隣に立った。

 もちろんその一連の行動は、先輩方も見ていて。


「お邪魔します」

「さ、咲蓮っ!?」

「え、えぇっ!?」


 そんなのお構いなしで、咲蓮は俺の隣に入ってきた。

 ソファータイプのボックス席なので問題は無いのだが、そのせいで逆隣りにいた朝日ヶ丘先輩が更に奥へと追いやられた。


「こ、こっちだと一緒に食べられないぞ?」

「大丈夫」

「大丈夫って、え?」


 咲蓮はすまし顔で、パフェのストローをグラスの縁にくっつけた。

 事故の間接キスをしてまで止めたゲームが、一瞬で終わりを告げる。


「間接キス。したからもう、総一郎と私、仲良し」

「お、おう……」

「はい、あーん」

「こ、この流れでか!?」


 心なしか、とてもテンションが高いように見える。

 ポーカーフェイスながらに口元が緩んだ咲蓮は俺が使っていたスプーンを手に取り、パフェのクリームを俺に差し出して来たんだ。


「あ、あーん……」


 その押しに負けてしまった俺はパフェを口にする。

 テーブルという隙間が無くなったからか、さっきよりも甘い気がした。


「むふー。じゃあ、私も」

「え、ちょっ、咲蓮!?」


 さっきから俺は咲蓮の名前を呼びっぱなしだ。

 何故なら俺が口にしたスプーンで、咲蓮はそのままパフェを食べ始めたからだ。


「美味しい。総一郎の味がする気がする」

「き、気のせいだと思うぞ……?」

「そうなの? じゃあ、確かめて」

「た、確かめる……!?」

「はい。あーん。私の味、する?」

「ん、んんっ!?」


 そして今度は。

 パフェを無理やり口に突っ込まれた。

 もちろん咲蓮が使ったスプーンである。

 突然の事に驚いた俺だが、咲蓮の言う通り何か違う気がしたんだ。


「う、美味い……」

「良かった。これで総一郎と私、もっと仲良くなれたね」

「あ、あぁ……」


 咲蓮が俺を見上げて、微笑む。

 猫カフェでのひざまくらが大人しく見えるような、攻め攻めっぷりに俺は顔が熱くなるのを感じた。


 好きな人にこれだけ好意を向けられて、嬉しくならない方がおかしいだろう。


「お父さんとお母さん。キスは本当に好きな人としなさいって言うから、やったね」

「や、やったのか……?」

「うん。やった、一歩前進」


 もはやポーカーフェイスでは隠しきれない笑顔に俺はドキドキしっぱなしである。

 冷房が効いた店内でパフェもヒンヤリしているというのに、さっきから暑さが凄いのだ。


「パフェ、まだまだある。もっと仲良しに、なろ?」

「…………おう」

「じゃあ。今度は総一郎から、あーんして?」

「……仕方ないな」


 元々俺のだったスプーンを咲蓮から受け取り、今度は俺が咲蓮にあーんをする。

 すぐ隣で小さな口を開けてパフェを待つ咲蓮は、普段の凛々しさからかけ離れた可愛らしさを俺に見せてくれたんだ。


「り、莉子ちゃん助けて……! 色々な何かに押しつぶされちゃうよ私っ……!」

「ふふ。やっぱり二人はボクたちに似てるね」

「感心してないで助けてよぉ……!?」


 すぐ隣から朝日ヶ丘先輩の悲鳴が聞こえた気がした。

 だけど俺は咲蓮とパフェを食べさせ合うことに夢中で、手が離せなかったんだ。

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