第50話 「狼姫と、ラブラブチュッチュハートデラックス特盛り生クリームゴロゴロフルーツトロピカルハートパフェ」
ダブルデートの最中、俺は朝日ヶ丘先輩と手を組む事になった。
理由と動機は不純だがやるべき事は単純で、お互いに相手をフォローしつつ良い雰囲気にされるというものである。
ここ数日暴走しかしていない地雷系生徒会長様の事を考えると不安はあるのだが、それでも人生の先輩であり恋人経験も長い。
そして何よりも、咲蓮が信頼と尊敬を置いている人物だから安心して良いだろう。
「お待たせしましたー! カップル限定、ラブラブチュッチュハートデラックス特盛り生クリームゴロゴロフルーツトロピカルハートパフェ二つでーす!!」
そう、思っていた。
俺達の目の前に、何かとんでもないサイズのパフェが二つ現れるまでは……。
「ほう。これは中々」
「凄い」
明るく綺麗な店内の、四人が座れるボックス席。
俺の正面には咲蓮が座り、その隣には十七夜月先輩が、それぞれ置かれたクソデカいパフェを見て感心した様子を見せている。
「そうそうこれこれっ! これを莉子ちゃんと食べたかったんだぁっ!」
そして俺の隣に座っている朝日ヶ丘先輩が、この店に俺達を連れて来てこのパフェを頼んだ張本人である。
彼女は満面の笑みでそのパフェをスマホで撮りつつ、ついでにその向こうにいる十七夜月先輩も盗撮……じゃなくて一緒に撮影していた。
「人が食べれるものなのか……これ……」
そしてただただ、圧倒されている俺だった。
独り言なので敬語も忘れ、目の前に君臨する巨大パフェに視線を向ける。
まずは何といっても容器、グラスがデカい。そして高い。
何センチあるんだろうか。それこそ四、五十センチはあるんじゃないだろうか。
そんな透明な巨大グラスの中に、ミチミチと甘々な色をしたフルーツやらドリンクやらの液体が注がれていて見ているだけで口の中が甘さでどうにかなってしまいそうである。
グラスの頂点付近には溢れんばかりのカットフルーツがこれでもかと差し込まれていて、その内側からはまるで雪が積もった富士山のように純白の生クリームが盛り上がっている。
極めつけはそこにささる二本の半透明の物体だ。
それは飲み物を飲むために用いる半透明でプラスチック製の管。
通称、ストローとも言う。
そのストローが二本あった。
二本のストローがうねりにうねり、お互いにクロスしてハートの形を作り出し、反対方向に伸びている……。
そう、まるで向き合って飲めと言わんばかりの構造で。
それなのにパフェを食べる際はこれを抜かなければ絶対に食べられないだろうという欠陥は、誰が見ても一目瞭然だった。
恐るべしラブラブ、ちゅっちゅ……何とかパフェ。
「未来先輩。これ、どう食べるの?」
「よくぞ聞いてくれたね咲蓮ちゃん!」
俺が圧倒されている間にも、世界の時間は動いていく。
俺の対面に座る咲蓮が、対角にいる朝日ヶ丘先輩に首を傾げた。
ありがとう咲蓮。
俺もこれは、かなり気になっていた。
「このラブラブチュッチュハートデラックス特盛り生クリームゴロゴロフルーツトロピカルハートパフェは見た目とその名前からネットで大バズりしてね、カップルのラブラブ度を測れるんだよっ! 向き合った二人はまずストローで見つめ合いながらお互いの愛をすするように甘ーいドリンクで口を満たして、そこからは備え付けのハートスプーンで食べさせあいながら最深部を目指すの! でも注意してね……! その時にこのクロスハートストローが倒れちゃ駄目なんだ! メロン、マスカット、パイナップル、オレンジ、ピーチ、ストロベリーの層を食べさせあって、どこでストローが崩れたかでそのカップルのラブラブ度が分かっちゃうの……! ストローが倒れそうになったら、二人はストローをくわえて元の場所に戻して良いってルールがあるから、最後まで諦めちゃ駄目だよ……!!」
「なるほど。凄い」
とんでもない早口だった。
これを運んできてくれた店員さんなんて目じゃないぐらい細かく正確に、知ってる言語なのにまるで意味が分からないルールを熱烈に朝日ヶ丘先輩は説明していく。
それを聞いた咲蓮の返事は短かいが、とても感心しているようだった。
「つまり、お互いに食べさせ合って愛を確かめつつ、ストローが崩れずにどこまで食べれたかという競技性があるからSNSでも共有しやすく、ストローをくわえて持ち直せるという救済措置もハプニングのようなドキドキを演出してくれるからより人気に拍車をかけているという訳だね」
「さっすが莉子ちゃん! 聡明! カッコいい! 好き!」
クソデカパフェを前にしても物おじせず、十七夜月先輩は冷静にこれがネットで受けている要素を解析している。
凄い冷静だ。
俺も見習った方が良いのだろうか……。
いやこれは無理だと思う。
「何はともあれ、せっかく未来がおススメしてくれたラブラブチュッチュハートデラックス特盛り生クリームゴロゴロフルーツトロピカルハートパフェだ。郷に入っては郷に従えとも言うからね。ここは美味しく楽しく食べようじゃないか」
「うんうん! ラブラブチュッチュハートデラックス特盛り生クリームゴロゴロフルーツトロピカルハートパフェは味もすっごい美味しいって評判だから、これぐらいペロリだよねっ!」
「楽しみ。ラブラブチュッチュハートデラックス特盛り生クリームゴロゴロフルーツトロピカルハートパフェ」
「何でみんな、噛まずに名前を言えるんだ……?」
俺以外の全員が期待の視線をパフェに向ける。
俺なんて名前を覚えてすらいないのに、何故こうもスラスラと言えるのだろうか。
でもこんなに一息で喋る咲蓮はとてもレアなので、新しい一面が見れた事はとても嬉しかった。
ありがとう、ラブラブチュッチュハート……パフェ。
そんな俺だけが呼び方が定まらない巨大なパフェとの戦いが、これから始まろうとしていた。




