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いつもクールで完璧美人な孤高の狼姫が、実は寂しがり屋で甘えん坊な子犬姫だと俺だけが知っている  作者: ゆめいげつ
第三章 狼姫のダブルデート

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第47話 「狼姫と、猫カフェ」

 俺と咲蓮、そして十七夜月先輩と朝日ヶ丘先輩のダブルデートが始まった。

 駅前で待ち合わせをして電車に乗り、揺られること十数分。

 たどり着いたのは、大型のショッピングモールが駅と複合している、隣町だった。


「かわいい~~~~~~~~~~~っ!!」


 そんな賑やかなショッピングモールから少し外れたテナントビルの二階に、俺達はやって来ている。

 開口一番に歓喜の声を上げたのは、地雷系生徒会長の朝日ヶ丘先輩だった。


『にゃー』

『にゃー』

『みぃ』

『ゴロゴロ』


 カーペットが敷かれた清潔感のある部屋に、見渡す限りの猫、猫、猫。

 毛並みも色も様々な猫が床やソファー、専用のキャットウォークの上と、様々なところで思い思いの姿勢でリラックスしている。

 

 そう、十七夜月先輩に連れられて最初にやって来たのは、猫カフェだったのだ。


「いらっしゃいませぇ。四名様ですかぁ?」

「やあやあ。今日は友達と来たよ」

「あらぁ莉子ちゃん、まあまあまぁ」


 俺達が中に入ると、猫のエプロンをかけているおっとりとした雰囲気の店員さんが出迎えてくれた。

 どうやら十七夜月先輩と知り合いらしく、少し言葉を交わした後に柔らかい笑顔を俺達に向けてくる。

 

「莉子ちゃんがいるなら詳しい説明は大丈夫かなぁ。じゃあみんなぁ、ゆっくりしていってねぇ」


 そう言って笑顔を振りまいて、カフェの奥に引っ込んでいってしまう。

 開店直後だからだろうか、店内には他にお客さんの姿は無かった。


「莉子先輩。ここ、来るの?」

「良い質問だね咲蓮クン。来ると言うよりはたまにお手伝いをしているって感じかな?」

「え? 十七夜月先輩、アルバイトしてるんですか?」

「ふふ、意外かい?」

「いえ、えっと、正直言うと、はい……」

「そこで取り繕わないのがキミの美徳だと、ボクは思うよ。ここで固まっていても猫ちゃんが警戒するだろうし、早速お邪魔しようか」


 こっちだよ、と十七夜月先輩が俺達をソファに案内してくれる。

 本当に働いているらしく、十七夜月先輩がいる事に気づいた猫達がどんどんと近づいてきていた。


「り、莉子ちゃん……! さ、さっきの人とはどういう関係なの……!?」


 違う猫……じゃなかった朝日ヶ丘先輩も凄く近づいている。

 その地雷系ファッションのせいかおかげか、詰め寄り方がとても様になっていた。


「ただのバイトの先輩だよ。安心してくれたまえ未来。あの人はああ見えて、猫しか愛せない業を抱えているんだ。大人になって、少々現代社会の闇を経験してね」

「そうなんだ……良かったぁ……」

「良かったで済ませて良い話なんですか、それ……」


 十七夜月先輩の言葉に心底安堵する朝日ヶ丘先輩。

 気にはなったが、初対面で深入りしては絶対に駄目な話題というのは分かった。


「総一郎。猫、猫」

「ああ、猫だな」


 ソファに座った咲蓮の膝の上に、早速三毛猫が座った。

 嬉しそうだ。

 これは邪推だが、黒のロングパンツに抜け毛とかついてしまわないのだろうか。


「咲蓮クンは可愛いから、早速懐かれたみたいだね。店の入り口にコロコロがあるから、安心して戯れてくれたまえ」

「そうなんです、か……」

「すぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ」

「せ、せんぱい……?」


 そんなことを思っていると、まるで心を読んだように十七夜月先輩のアドバイスが入る。

 本当に人の心を読みかねない風紀委員長を見てみれば、フワフワの毛並みを持つ白猫に顔を埋めていた。


 猫吸い、という言葉は知っていたが、まさか十七夜月先輩がやるとは思っていなかったので俺は言葉に詰まってしまった。

 俺の知り合い、ひょっとして匂い好きが集まっているのか……?


「り、莉子ちゃんと猫ちゃんの組み合わせ……! り、りことねこ……! りことねこ! 泥棒猫……!!」


 その珍しい光景に興奮している朝日ヶ丘先輩は、ブツブツと意味分からない事を呟きながらスマホのカメラをフル活用していた。

 デートは始まったばかりだけど、多分今日一番自由なのはこの人だろう。


「わ。あったかい。総一郎、あったかい」

「猫も生きてるからな」


 咲蓮は膝の上に乗った三毛猫を撫でると、感動した様子で俺にそれを伝えてくる。

 たいして俺の返答はとてもつまらないものだった。


「総一郎も、触って」

「い、良いのか?」

「うん。この子も、触ってほしそう」

「そ、そうか……」


 猫に触ると言う体裁で、隣に座っている咲蓮の太ももに手を伸ばすのは何だか犯罪チックな気がした。

 頼むから動かないでくれよと言う俺の心配は杞憂に終わり、のびのびとリラックスしていた三毛猫は俺の手をすぐに受け入れた。

 手のひらに伝わる猫の感触。

 手入れの行き届いた毛並みの手触りが素晴らしく、少し冷房の効いた部屋ではとてもあたたかく感じる。


「きもちいね」

「あぁ……猫って、触れたんだな……」


 感動だった。

 俺は今、猫を触っている。

 学校の帰り道で野良猫を見かけても逃げるばかりだったのに、今はこうして咲蓮の膝の上にいる猫をこうして触れているんだ。

 しかも俺に撫でられた猫は気持ちよさそうに体を伸ばしてゴロゴロと鳴いている。


 確かにこれは、疲れた大人には万能薬かもしれなかった。


「総一郎も。だっこ、してみる?」

「こ、ここでか……!?」

「猫ちゃん、だよ?」

『にゃっ』


 咲蓮が首を傾げ、三毛猫が小さく鳴く。


「あ、あぁ……そう、だよな……」


 いつものご褒美と勘違いしてしまった馬鹿な俺は咲蓮の顔を見る事が出来ず、ずっと膝の上にいる猫を眺めて誤魔化す事しか出来なかった。

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