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いつもクールで完璧美人な孤高の狼姫が、実は寂しがり屋で甘えん坊な子犬姫だと俺だけが知っている  作者: ゆめいげつ
第三章 狼姫のダブルデート

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第46話 「狼姫と、手つなぎ」

 人込みをかき分けて、ゴスロリ地雷系ファッションに身を包んだ生徒会長が駆け寄ってきた。

 小柄な身体ながらにハーフの朝日ヶ丘先輩は日本人離れした可愛らしさをしているので、お世辞抜きでもその恰好は似合っていた。


 しかし衝撃が大きすぎるのもまた事実。

 ここまで典型的な地雷系の衣装を、俺は初めて見た。

 黒マスクもコーディネートの一種なのだろうが、はたしてこれは必要なのだろうか?


「やあ未来。今日も世界一可愛いね。それでこそ、ボクだけの未来だよ」

「り、莉子ちゃん……! そんな駄目だよぉ! みんなが見てるってばぁ……写真や動画に撮られて弱みを握られて言いなりにされちゃうよぉ……!」


 そう俺が困惑していると、更に困惑する事態が訪れてしまった。

 全身白ワンピースコーデの十七夜月先輩が朝日ヶ丘先輩の顎をクイっとして褒めたたえ、それを受けた朝日ヶ丘先輩がクネクネと揺れながら何やら危ない言葉を発している。

 

 風紀委員長と生徒会長が恋人同士なのは俺達にとっては既知の事実だが、デート待ち合わせ時点から既にハイレベルなやり取りが繰り広げられていたのだった。


「なるほど。メモメモ」

「さ、咲蓮……? 俺達は、俺達のペースで良いんじゃないか……」

「私達の……? うん、分かった。総一郎と、一緒のペースが良い」


 良かった。

 二人に憧れている咲蓮がまた変な事を覚えようとしていたが、何とか説得する事に成功した。

 いくら俺でも公衆の面前であんな恥ずかしい事は出来そうにないのである。


「ふむ。まだ集合時間まで三十分以上あるけど、揃ったね」

「にゃーん……!」


 十七夜月先輩が左手首の内側を自分に向け、小さな腕時計を眺めながら涼しい顔をして言う。

 だけどその右手は朝日ヶ丘先輩の顎というか首元を撫でていて、正直話が入ってこなかった。


「莉子先輩。じゃあ、デート開始?」

「そうだとも咲蓮クン。楽しい楽しい、ダブルデートの開始だよ」


 今だ困惑の渦中にいる俺に代わり咲蓮が聞いてくれる。

 すると十七夜月先輩はニヤリと笑った。


「莉子ちゃん莉子ちゃん、最初はどこ行くのぉ……?」

「ふふ。可愛い可愛い未来に負けず劣らずの、可愛いところだよ? さ、行こうか」

「うんっ!」


 出会いがしら早々に猫なで声に変化した生徒会長に微笑み返す風紀委員長。

 地雷系と清楚系の二人は自然な流れで腕を組み、歩き出してしまった。


「総一郎。私達も、行こ?」

「お、おう……」


 完全に場の空気に流された俺は、咲蓮の言葉でハッとする。

 前を見れば仲良く腕を組んだ先輩二人の背中が見えた。

 どうやらダブルデートとは言っても、デートが始まってしまえば細かい事は言わないらしい。


『ここからはキミ達次第だよ』


 なんて、言ってもいないのに十七夜月先輩の声が聞こえた気がした。


「……咲蓮」

「呼んだ?」

「そ、その……俺達も、手を……」

「……うん」


 どうしようかと空中で右往左往していた俺の右手を、咲蓮の左手が握る。

 細く華奢な手はとても柔らかく、ボーイッシュでカッコいい系の見た目からは想像できないぐらいに女の子の手だった。


「総一郎の手。おっきい」

「さ、咲蓮の手は……小さいな」


 にぎにぎと、俺の手が咲蓮の手に握られる。

 くすぐったい感触が広がる中で、多分このやり取りに意味は無かった。


「デート。楽しもうね」

「だ、だな……!」


 勇気を出しても、これである。

 いつの間にか咲蓮にペースを握られて、小さな微笑み一つで俺はドキドキしてしまうんだ。

 

「おっ。ようやく来たね二人とも」

「こ、こうして見るとやっぱり総一郎くん……おっきいね、犯罪的だよぉ……!」

「追いついた。私と総一郎で、もっと二人に追いつきたい」

「お、追いつかなくて良いからな!? 朝日ヶ丘先輩はもう少し声を抑えてくださいね!?」

「そう言う柳クンも声、大きいけどねぇ」


 そうして合流した俺達は、他の人から見たらどう映っているのだろうか。

 清楚系女子と地雷系女子の恋人同士が腕を組み、ボーイッシュ系女子とラフな大男が手をつないで歩いている。


 そんな異彩を放つ四人のダブルデートが、賑やかに幕を開けたのだった。

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