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いつもクールで完璧美人な孤高の狼姫が、実は寂しがり屋で甘えん坊な子犬姫だと俺だけが知っている  作者: ゆめいげつ
第三章 狼姫のダブルデート

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第45話 「狼姫と、先輩達」

「やあ柳クンと咲蓮クン。ご機嫌いかがかな?」

「莉子先輩。おはよう」

「お、驚かさないでください……!」


 スマホを覗いてたら、十七夜月先輩が急に現れた。

 悪戯に成功した風紀委員長は笑みを浮かべながら楽しそうにウインクをする。

 咲蓮のせいで心臓がバクバクだった俺は、突然の登場に心臓が止まるかと思った。


「いやはや、可愛い可愛い後輩の初デートだからね。実はもっと早く着いていたんだけど、やはり初めて同士で待ち合わせのやり取りを奪ってはいけないと思って遠目から覗かせてもらったよ」

「覗きって……」


 あっはっはと笑う。

 それでも風紀委員長ですかと思いながら、俺と咲蓮も先日、十七夜月先輩と朝日ヶ丘先輩の逢瀬を覗いてしまったのでお互い様だった。


「ところで、ボクに何か言う事は無いのかい?」


 そう言って、十七夜月先輩はクルリとその場で軽やかに回る。

 いくら察しが悪い俺でも、先輩が何を求めているかは理解できた。


「莉子先輩。凄く綺麗」

「……似合ってますね。悪戯が霞むレベルで」

「ふふっ。ありがとうありがとう」


 それを察して、俺と咲蓮はほぼ同時にそれを口にする。

 その言葉に十七夜月先輩は、はにかんだ。


「制服と違って、私服のボクも素敵だろう?」


 そう得意気に笑うが、正にその通りだった。

 十七夜月先輩が身に纏っているのは白のロングワンピースと、同じく白い帽子を被っていた。

 全身白という絶対に人を選ぶコーディネートも、吸い込まれそうに艶やかな黒の長髪とスタイルの良さからバッチリと着こなしている。

 

 遠目から見たら、月並みな言葉だが深窓の令嬢という言葉がピッタリだろう。

 しかし実際は悪戯好きで小悪魔的な人なのだが……。


「見て……あの人すっごい綺麗……」

「隣にいる子も凛々しくてカッコいいな……」

「美人が二人……何かの撮影かな……」


 それを知らない通行人からはとても高評価で、一度目を奪われた人達は十七夜月先輩と咲蓮を見て感嘆の声を呟いていく。

 校内でも美人ランキング最上位な二人が私服で並んでいれば、それは当然の事だった。


「おっと、ここは校外だったね。少しはしゃぎ過ぎたかな?」

「莉子先輩も。デート、楽しみ?」

「もちろんだとも咲蓮クン。ボクも久しぶりに未来とのデートだからね」


 そんな美人二人がデートを前にして意気投合していた。

 そう、これからデートが始まるのだ。

 それもダブルデートであり、人生初デートが。

 

 思い出すだけで緊張してしまう。

 後は朝日ヶ丘先輩が来たらデートが始ま……?


「そう言えば十七夜月先輩。朝日ヶ丘先輩は一緒じゃないんですね」

「うん? そうだよ。ボク達もキミ達を見習って初々しく待ち合わせをしようって約束したからね」

「なるほど……大丈夫なんですか?」

「ふむ? 大丈夫とは?」


 俺の問いに十七夜月先輩は首を傾げる。

 そのいつも見るような仕草でさえも、似合いすぎている私服効果かとても絵になっていた。

 俺が咲蓮に惚れていなければ、もしかしたら危なかったかもしれないぐらいに綺麗なのである。


「ほら、朝日ヶ丘先輩って、学校では立派な生徒会長ですけどその、背は子供のように小さいじゃないですか」

「そうだね。それがすっごい可愛いんだよ」

「うんうん」


 十七夜月先輩は嬉しそうに笑い、咲蓮がそれに頷く。

 俺的にはそれが懸念点だった。


「そうなんですよね。朝日ヶ丘先輩は誰もが認めるぐらいに小さくて可愛いんです。だから一人で外を出歩くのは大丈夫なのかなって思いまして」

「なるほど。柳クンは結構過保護で、束縛するタイプなんだね」

「うんうん。そこが総一郎の良い所」

「違いますよ!? 咲蓮も頷かないでくれないか!?」


 しかし俺の意図とは違う方向に解釈されてしまった。

 咲蓮まで便乗してさっきよりも大きく頷いているし、ここに俺の味方はいないのかもしれない。


「まあでも気持ちは分かるよ。ボクも隙あらば未来を誘拐したいぐらいに可愛いと思う時が多々あるからね」

「多々あって良いんですか、それ……」


 真顔で何て事を言うんだろうかこの人は。

 でもきっと本気なのだろうと、十七夜月先輩の漆黒の瞳がそう語っていた。


「まあまあ。柳クンの心配もごもっともだ。けれど安心してくれたまえ。未来は大丈夫だよ」


 それは、どうして?

 そう聞き返そうとした時だった。


「あっ! おーい!」


 遠くの人込みから、聞き覚えのある元気な声がしたんだ。


「みんなーっ!」


 まるで海が割れるように人が避けていく。

 ふわふわの金髪を揺らして、近づいてくる小さな美少女の姿があった。


「咲蓮ちゃん! 総一郎くん! 莉子ちゃーんっ!!」


 ぶんぶんと手を振り、その小さな身体に見合わない大きな胸を揺らしながら近づいてくるのは、生徒会長の朝日ヶ丘先輩。

 だけど、その服装が何ていうか、凄かった。


 子供のように可愛らしい笑顔の半分を隠す、大きな黒のマスク。

 小さな首に巻かれたチョーカーには大きな十字架がぶら下がっている。

 目が痛くなるようなピンク色のシャツにはフリフリの黒いフリルやリボンがあしらわれていて、それに負けじとふわりと広がる黒のミニスカートもこれでもかとフリフリで何て言うかもう凄かった。

 黒の厚底ブーツも何か凄く光沢でぎらついていて、頭の先から爪先まで全ての要素が統一感はありながらも激しい自己主張を解き放っている。


「おー待ーたーせーっ!!」


 誰もが憧れる学園一のアイドルで人気者な生徒会長は、誰がどう見ても分かるレベルのゴリッゴリな地雷ファッションで登場したのだった。

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