第43話 「狼姫と、デートプラン」
「やあ柳クン。昨日は未来が迷惑をかけたみたいだね」
「いえ……迷惑と言うか、勝手に暴走していなくなったと言うか……」
午後からは何も起きず、放課後になった。
風紀委員としての活動をしに風紀室に行くと、早速十七夜月先輩に絡まれた。
出会いがしらに絡まれたと言ったのは、それを言った風紀委員長の顔がこれでもかとニヤニヤしていたからである。
十七夜月先輩は今日も机の上に足を組みながら座り、得意気にその長い黒髪を指で弄っていた。
「あっはっは。未来は人より少し想像力が豊かだからねぇ」
「豊かすぎますよ……最近は咲蓮も影響されているみたいですし」
「ふむ。嫉妬かな?」
「どうしてそうなるんですか」
「好きな人を自分色に染めたい。その気持ちは誰しもが持つものだと思うけどね」
「…………十七夜月先輩もですか?」
「無論だとも」
困った、勝てない。
ペースを握られ続けているので何とか言い負かせないかと思ったのだが、笑顔で返されてしまった。
この話題が出た時点で俺に勝ち目は無かったのだ。
「それで、君の意中の人である咲蓮クンはどうしたのかな?」
「……分かって言ってますよね? 咲蓮は今日、ソフトボール部の助っ人です」
「そうだね。ボクの可愛い可愛い後輩の反応があまりにも可愛くてつい意地悪をしてしまったよ。こんな所、未来に見られたら妬かれてしまうね」
「ならやらないでくださいよ……」
短時間で三回も可愛いと言われた。
そう言えばこの前、咲蓮にも可愛いと言われたっけか……。
時代錯誤かもしれないが、男らしくあれと育てられた俺にとってかなり複雑だ。
「まあまあ。明日のデートプランをちゃんと決めたんだから、許しておくれよ」
「ほ、本当ですか!?」
「流石にこんな事で嘘をつかないよ、ボクは。ていうか、凄い食いつきだね」
「そりゃそうですよ! 咲蓮に隠しているのがとても心苦しいんですから……!」
「素直になれば良いだけだと思うんだけどねぇ」
笑顔から一転。
十七夜月先輩は呆れたように乾いた笑みを浮かべた。
同じ笑顔でも、湿度が夏と冬ぐらい違う笑顔である。
「まあ素直じゃない所がキミの利点でもあるからね。ボクがとやかく言うつもりは無いよ。まずは今回のダブルデート……特にキミ達の初デートを成功させなければ」
「そう言ってくれるとありがたいんですが……具体的にはどうなったんですか?」
「堪え性が無いねぇキミは。ベッドの上の未来みたいだよ」
「…………」
非常に返しにくいコメントだった。
触れたら俺まで火傷しそうなので黙っておくのが正解だろう。
「良いかい柳クン。まずこれは心構えの話だけど、デートを無難に終わらせようと思ってはいけないよ。新しい刺激が欲しくてデートをする訳だしね」
「な、なるほど……?」
そういうものなのだろうか。
でも十七夜月先輩の方が経験は豊富だと思うのできっと正解なんだろう。
咲蓮も、俺ともっと仲良くなりたいからって言ってくれたし……。
「その上で、その日は全員が楽しめて次に繋がる絶好のデートプランがある」
「そ、そんなものがあるんですか……!?」
「ああ、ある」
十七夜月先輩が微笑む。
「水着だよ」
俺の顔を見て、微笑む。
「皆で、水着を買いに行こうじゃないか」
今までにないぐらい、邪悪な笑みだった。




