第42話 「狼姫と、友人達」
咲蓮との距離が物理的にも精神的にも近くなっていると思わざるを得ない今日この頃。
明日はついに咲蓮とのデートだと言うのに、デートが始まる前からドキドキしっぱなしだった。
「総一郎。総一郎。何見てるの?」
「うおっ!? さ、咲蓮……ち、ちょっと、十七夜月先輩から風紀委員の連絡があってな……」
「そうなんだ」
昼休みの教室。
昼食を食べ終えた咲蓮が、自分の椅子ごと身体を俺に寄せてくる。
それがあまりにも自然で不意打ち気味だったので、俺はつい自分のスマホを腕で隠してしまった。
これでは後ろめたい事を考えているのがバレバレである。
「総一郎。いつも風紀委員頑張ってる」
「そ、そういう咲蓮もな……!」
「だから。明日、楽しみだね」
「お、おう……」
小さく笑いかけてくれるその表情に、俺は顔が熱くなるのを感じた。
こんなに楽しみにしてくれているのに、実際はデートの全てを十七夜月先輩に任せてしまっている。
光のドキドキと闇のドキドキが高速で反復横跳びしている状態だった。
「明日のデートの為に、今日の助っ人、頑張る」
「き、今日は何部なんだ?」
「ソフトボール。体育と同じ。大丈夫、私にはこれがある」
あまり表情は変わらないが、小さなドヤ顔で咲蓮はスポーツタオルを取り出す。
さっき体育の授業中に、俺の汗を拭きとったスポーツタオルだった。
「か、嗅ぐならほどほどで頼む……」
我ながら何を言ってるんだと思う。
俺も相当咲蓮に毒されてしまったらしい。
「うん。でも節約するよ? やっぱり直接が一番だから」
「…………」
咲蓮の猛攻が止まらなかった。
言ってる言葉の破壊力を、咲蓮は理解しているのだろうか……?
「サレン様ー! 次は移動教室ですよ! 一緒に行きましょう!」
「この学校、移動教室多くないですかね?」
「お疲れでしたら教科書お持ちしますーっ! あ、柳さんのも持ちますよ!?」
と、そこに現れたのは仲良しファンクラブ三人娘達である。
正直一人では耐えきれなかったので、助かったと思う反面少し残念だとも思ってしまった。
壁の時計を見てみればもう昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴る時間寸前。
騒がしく賑やかだが、時間より前に行動している彼女達は優等生の部類に入るだろう。
「いいや。俺のは大丈夫だ」
「そうそう! 悪いな! 柳の教科書は俺が貰う!!」
「新手の教科書狩りか……?」
そこに現れたのはいつものバスケ部男子である。
咲蓮同様、凄く自然に現れたがコイツの場合は気配を消してすらいないので特に驚きは無かった。
自分で言っておいて、気配を消すって何だとは思うが。
「そんな! 柳さんの教科書は私が先に目を付けていたのに!」
「残念だったな! 柳の両手はバスケットボールを掴む大切な手なんだ!」
「違うぞ」
ファンクラブで一番小柄な女子とバスケ部男子が謎の争いを始める。
何だかんだこのグループで行動することが増えた分、こういった人間関係の変化をよく目にするようになった。
「これが、修羅場?」
「違うと思うぞ」
そんな友人達のやり取りを見て、咲蓮が首を傾げる。
真顔だが、きっと咲蓮なりの冗談だろう。
咲蓮自身も少しずつだが変わってきていると思う。
それはとても良い事なのだが、どうしてもあの暴走しがちな生徒会長の顔がちらつくのだった。




