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いつもクールで完璧美人な孤高の狼姫が、実は寂しがり屋で甘えん坊な子犬姫だと俺だけが知っている  作者: ゆめいげつ
第三章 狼姫のダブルデート

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第41話 「狼姫と、夏の日差し」

 金曜日になった。

 金曜日という事は週末で、明日はついに咲蓮との初デートという事である。

 デートをする前から咲蓮のアピールと言うか猛攻はその勢いを増しに増している。


 俺がドキドキする以外に悪い事は無い。

 しかしデートをした後にどうなってしまうのか、気が気ではなかった。


「柳……バスケが……バスケが、したい……!」

「今は体育館じゃなくて校庭だし、授業はバスケじゃなくてサッカーだ」

「足は走る為のもんでボールを蹴る為のもんじゃねぇだろ……。人間には立派な手があるじゃないか……」

「サッカーでそれをやったらハンドで反則だぞ? そんなに触りたいのなら、キーパーをやるのはどうだ?」

「柳お前……天才か……? 俺ちょっと交渉してくる!」


 バスケに憑りつかれたバスケ部男子が全力疾走でキーパー役の生徒に向かう。

 その俊敏性はキーパーにとどめておくには非常に惜しいのだが、この炎天下の中でダル絡みをされるよりはマシだった。


「それにしても暑いな……」


 照り付ける日差しが襲いかかる。

 控えめに言っても、今日は焼けるように暑かった。

 体育用のポロシャツとハーフパンツに着替え通気性が良くなっても、そもそも周囲が暑ければ暑いものは暑いのだ。


「総一郎」

「うおっ!? さ、咲蓮か……」

「うん。私だよ、ぶい」


 そこに咲蓮が現れた。

 当然ながら咲蓮もポロシャツとハーフパンツ姿になっていて、制服の時とはまた違った美しさを醸し出している。


 暑さと汗、それから対策だろうか。

 首には純白のスポーツタオルをかけていて、それがまた灰色髪のウルフカットや白のポロシャツと組み合わさって涼し気で、良いアクセントとなっている。


 しかし何故か。

 その姿を見ているだけで、俺の熱は上がったような気がした。

 

「女子はソフトボールじゃないのか?」

「うん。みんなが、準備するから休んでてって」


 同じクラスだが、男子と女子の授業内容は違っていた。

 今は合同での準備体操が終わり、それぞれの準備時間である。


「これからサレン様が活躍するグラウンド! 本気で綺麗にするわ!」

「小石一つ! 虫一匹いないようにしないとね!」

「サレン様を近くで見れるけど、柳さんの活躍は見れないジレンマー!!」


 少し離れた場所では、仲良しファンクラブ三人娘を筆頭に全力でグラウンド整備が行われていた。

 その活力だけなら、どの運動部にも負けないぐらいの力強さである。


「……いい友人を持ったな」

「うん。期待されてるから、頑張る」

「…………そうか」


 咲蓮は表情こそ変わらないが、仕草でやる気に満ちていると分かった。

 学校中の憧れの的である孤高の狼姫は、その期待を一身に背負っている。


 それは体育の授業でさえも、例外ではないのだ。


「あ。総一郎……」

「ん? って、咲蓮!?」


 その変わらぬ姿勢に感心していると、咲蓮に動きがあった。

 俺に一歩近づいた咲蓮が、首にかけていたスポーツタオルを手に取り俺の顔を拭いてきたんだ。


「ふきふき」


 視界いっぱいに広がるタオル生地。

 それから咲蓮の匂いが、俺の顔を包んだ。


「汗。そのままにしてると、また風邪ひく」

「あ、あぁ……。あ、ありがとう……」


 俺の汗を拭き、咲蓮は満足げに小さく微笑む。

 そんな可愛い仕草と表情に、熱を出すなという方が無理だった。


「ううん。私も、ありがとう」

「いや、拭いてもらったのは俺の方なんだが……何でだ?」


 俺がお礼を言うと、咲蓮は微笑みながら首を横に振る。

 困惑しながら、どういう事かと聞き返した。


 すると咲蓮は、スポーツタオルを自分の鼻先に押し当てて。


「新鮮な総一郎の匂い。これでもっと頑張れる」

「なっ!?」


 顔の下半分をタオルで隠しながら。

 嬉しそうに、俺にしか見えない距離で笑った。


「じゃあ。また後で、ね?」

「さ、咲蓮っ!?」


 ご機嫌になった咲蓮は、軽い足取りでソフトボールが行われるグラウンドへ駆けていく。

 灰色のウルフカットが、太陽の光を反射して輝いていた。

 その後ろ姿がどんどんと離れていく。


 それはまるで、蜃気楼の先にあるオアシスのようで――。


「よっしゃ柳! キーパー代わってもらったぜ! これでボールを掴み放題投げ放題だ! って、どうしたんだボーっとして?」

「夏、だった……」

「そりゃ七月だからな……大丈夫か、お前?」


 ――とても、綺麗だった。

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