第39話 「狼姫と、ラブチェック」
放課後の生徒会室。
俺達が所属する風紀室とは違い、生徒会を運営する為だけに設けられたその部屋はとても綺麗で広く、必要なものが勢ぞろいしていた。
そんな明るい部屋に引けを取らないぐらいに学園のアイドルをしている朝日ヶ丘先輩は、俺の前で顔を真っ赤にして何やら妄想を爆発させながらぴょんぴょんと飛び跳ねている。
そのせいで制服越しに大きな胸が弾み、目のやり場に困るのだが……。
「未来先輩。今日も元気」
「…………まあ、そう、だな」
視線を逸らした先には、咲蓮がいた。
次期生徒会長候補筆頭である咲蓮も、朝日ヶ丘先輩に呼び出されていたのである。
広い生徒会室にいるのは俺、咲蓮、そして妄想爆発の生徒会長の三人だけだった。
「これは由々しき事態なんだよ総一郎くんっ! な、何故なら君は私と莉子ちゃんの秘密を握っているからね……!」
「それは、まぁ……」
お互い様ですよね?
そう言っても聞き入れてくれなさそうな迫力があった。
それは朝日ヶ丘先輩の顔が赤く、妄想と同じぐらい爆発しそうだったからである。
「十七夜月先輩からは、その……聞いたんですよね?」
「き、聞いたよ! 総一郎くんと咲蓮ちゃんが私達とダブルデートをするって! び、美少女を三人も侍らせて……よ、良くないと思うな……っ!」
「未来先輩。口、にやけてる」
「咲蓮ちゃん!?」
口調は強いけど、咲蓮の言う通り朝日ヶ丘先輩の口はこれでもかとにやけていた。
俺達に十七夜月先輩との関係をバレただけではなく破滅願望的なものもバレた結果、俺達以上に開き直ってしまっている。
願わくばその願望は十七夜月先輩にだけ向けてほしいのだが……。
「そ、そんな……咲蓮ちゃんは既に総一郎くんの手によって篭絡されちゃったんだね……。こ、このまま私と莉子ちゃんまで……へへ、へへへへ……」
「むぅ。総一郎、モテモテ?」
「違うと思うから、頬を膨らませないでくれ……」
少し不満げに。
咲蓮が小さく頬を膨らませる。
俺にだけ見せていた可愛い仕草も、今ではこうして信頼できる相手の前でなら見せてくれるようになった。
まあ、その信頼が大丈夫かと思わなくもないけれど。
「朝日ヶ丘先輩も安心してください。俺も咲蓮も、お二人の仲に入り込んでどうこうしようとは考えてませんから……」
とはいえ、誤解されたままと言うのも良くない。
何故なら朝日ヶ丘先輩も一緒にデートに行くからだ。
どうせ行くのなら、全員が心から楽しめた方が咲蓮も嬉しいに決まっている。
「…………ほんとぉ?」
少し間を空けてから。
朝日ヶ丘先輩はジットリとした視線を俺と咲蓮に送ってきた。
生徒会長として体育館の壇上に上がっていた時では想像がつかないぐらい、湿度が込められた瞳である。
いつも明るく振舞っていた彼女の本質は、どちらかと言えばネガティブ……しかしその願望から変な方向に前向きになっているのかもしれなかった。
「…………じゃあ、証明してよ」
「証明、ですか?」
「何するの?」
朝日ヶ丘先輩がボソッと呟く。
いくら広い生徒会室とは言え、俺達だけがいる場所でそれを聞き逃す事はなく。
「そ、総一郎くんと咲蓮ちゃんが! 私と莉子ちゃんなんて眼中に無いぐらいにラブラブなところ……見せてっ!!」
とんでもない無茶ぶりを。
俺と咲蓮に要求してきたんだ。




