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第32話 「狼姫と、思いやり」

「り、莉子ちゃん!? 知ってたってどういう事っ!?」

「どうって、そのままの意味だけど?」


 十七夜月先輩は俺と咲蓮が不純異性交遊の疑いをかけられた犯人だと知っていた。

 それについて真っ先に聞いたのは彼女の隣というか下に座っていた朝日ヶ丘先輩。

 でも十七夜月先輩は得意気な表情を一切崩さずに言葉を続けていった。


「咲蓮クンと総一郎クンが、ボク達のように人目を隠れて逢瀬を送っていたのを知っていたという事だよ未来」

「な、何で教えてくれなかったのーっ!?」

「教える訳ないじゃないか。まだ二人とも風紀委員でボクの可愛い後輩なのだから」

「あーんっ! 咲蓮ちゃんは次期生徒会長だって前々から言ってるのにー!」


 仲睦まじい言い合いと言うか、やり取りが始まる。

 その間も俺と咲蓮は呆気に取られていた。

 いや呆気に取られているのは主に俺であり、その間も咲蓮はさっきからずっと俺に抱きついているのだが……いつまで抱きついているつもりだろうか?


「そ・れ・に、これはキミにも問題があるんだよ総一郎クン」

「は、はいっ!? 俺ですか!?」

「そう、キミだ」


 すると急に矛先が俺に向いてきた。

 突然の出来事なのでかなり驚き、身体がビクッと反応する。


「キミは誰もが認める次期風紀委員長の器だ。それは普段の活動や学校生活を見れば一目瞭然だろう。でも、それがいけないんだよ」

「そ、それとは……?」

「総一郎クン。キミは一人で頑張り過ぎだ。風紀委員としては正しいかもしれないが、キミが頑張り過ぎるせいで他の風紀委員が結果的に楽をして、緩んでしまっていたんだ。だから今回の機会は、キミ達の為にもこれからの風紀委員会の為にもやる気を出す良い機会だと思ってね、一芝居打たせてもらった……という訳だよ」


 この人は何処まで見通していたというのだろうか。

 言われてみれば他の風紀委員は校内外問わずに見回りを続けていたというのに、俺と咲蓮は偽装カップルのように仲良くしてくれという頼みしかされていない。


 それが風紀を正す為だと、完全に十七夜月先輩の術中にはめられていたんだ。


「うん。総一郎が頑張り過ぎなの、私もそう思う」

「咲蓮までもか!?」


 そして俺の胸元に埋まる咲蓮も十七夜月先輩の言葉に頷く。

 最も近くにいたのに、一瞬で寝返られてしまった。


「あっはっはっ! 大変だねぇ、総一郎クンも。でもまあ、キミも次期に長になる身だ。今後は他者を、いや仲間を頼る事を覚えておくといい。そうしないと、どこかの誰かさんのように一人アイドルに祭り上げられて内心鬱憤が溜まりいつ爆発してもおかしくないような状態になってしまうからね」

「莉子ちゃん!? ど、どうしてそこで私を見るの!?」

「紛れもない、キミだからだよ」

「そんなぁー……っ!」


 いや、味方だった。

 ただちょっと、やり方が特殊と言うか回りくどいだけで。


「そんな訳で。ボクはキミ達の事を知っていたし、キミ達もボク達の秘密を知った。どうだろう? ここは、お互いに秘密を共有し黙っておくと言うのは」

「それは……良いと言うか、俺からもそうしてもらいたいと言うか……」

「ふむ。咲蓮クンは?」

「私も。仲良しなのは良い事だから」

「うんうん。決まりだね」


 十七夜月先輩は満足そうに頷いた。

 凄いな……最初から最後まで完全に十七夜月先輩のペースだった。


「えっ!? り、莉子ちゃん私は!?」

「キミはこちら側だろう? それに、キミのせいでバレたんだから……あとでお仕置きだよ?」

「ひゃ、ひゃいぃ……」


 机の上から、椅子に座っている生徒会長の顎をクイっと上げる風紀委員長。

 朝日ヶ丘先輩はその名が示す通り、太陽のように顔を真っ赤にさせた。


 知ってしまったとは言え、出来れば見えない所でやってもらいたい。

 何て言うか、慣れないから


「良いなぁ」

「…………」


 そんな二人の、朝日ヶ丘先輩が蕩ける顔を見て咲蓮がボソッと呟いた。

 俺の胸の中で。

 当然、俺が聞き逃すはずが無かった。


 大丈夫か?

 これ、俺の心臓の音聞かれてないか?


「さて。迷惑をかけたね二人とも。これで問題は解決大団円だ。雨ももうすぐ止むだろうし、今日はお開きとしようじゃないか。それとも、キミ達も一緒にボクと未来の間に混ざっていくかい?」

「え、遠慮しておきます! い、行くぞ咲蓮!!」

「あ、うん」


 最後に、からかうような笑みを浮かべる。

 その漆黒の瞳はこちらの心を見透かしているかのようで、俺は慌てて視線を逸らした。


「あ、そうだ総一郎クン」

「は、はい!?」


 そのまま咲蓮の手を引いて風紀室を後にしようとした時である。

 まだ何かを言われるのかと、俺は反射的に振り向いた。


「まだテストは折り返しだ。帰ったらしっかりと休むと良い。熱、あるんだろう?」

「…………はい」


 すると最後に。

 何の裏表もない笑みで、十七夜月先輩は微笑んだ。

 それは後輩を思う先輩そのもので、俺が咲蓮を好きでも見惚れるには十分すぎる程の笑顔だった。


 それと同時に、少し恐ろしくも思った。

 十七夜月先輩は俺達が保健室にいた事も知っていたのである。

 それを分かった上でこの時間帯に朝日ヶ丘先輩を呼び出して、結果的に俺達がそれを目撃した……。

 

 これは、偶然なのだろうか?


「総一郎。晴れた。一緒に帰ろ」

「……だな」


 まあそれを考えても仕方がない。

 風紀室を出ると、窓の外では雨が止み雲の隙間から太陽が顔を出していた。

 そして隣では、まるでこれからお散歩に行けると知った子犬のように目を輝かせている咲蓮がいる。


 何だかどっと疲れたので、今日は早く帰って休むとしよう。


『り、莉子ちゃん……! まだ二人が出たばかりだから、聞こえちゃうよぉ……!』

「未来先輩。いつでも、声大きい」

「……聞いてやるな。いくぞ、咲蓮」


 俺達が出てきた扉の向こうから、何か聞こえた。

 でも多分気のせいなので、俺は咲蓮の腕を引きながら、帰路につくのだった。

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