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いつもクールで完璧美人な孤高の狼姫が、実は寂しがり屋で甘えん坊な子犬姫だと俺だけが知っている  作者: ゆめいげつ
第二章 狼姫の風紀活動

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第31話 「狼姫と、太陽と月」

「あっはっはっはっ! いやぁ、バレちゃったねぇ」

「な、何を笑ってるんですか何をぅ……うぅ……こんな、こんなぁ……」


 生徒会長による魂の悲鳴から数分後。

 二人の反応はすごく対照的だった。

 十七夜月先輩は机の上に腰かけ、いつものように足を組んで愉快に笑っている。

 朝日ヶ丘先輩はその下の椅子にちょこんと座り、借りてきた猫みたいになっていた。


 もちろん、二人とも制服をキチンと着直している。


「莉子先輩と未来先輩。仲良し?」

「おお咲蓮クン。そうだともそうだとも! ボクと未来はとっても仲良しさ。それこそ、恋人と言って良いだろうね」

「ちょ、ちょっと莉子ちゃん!?」

「現行犯で見つかっちゃったんだ。今さら隠したって意味が無いだろう?」

「うあうぅ……」


 咲蓮の純粋な質問に十七夜月先輩が笑顔で答える。

 それに朝日ヶ丘先輩が顔を真っ赤にして口を出そうとしたけれど、圧倒的な正論によって封殺されてしまった。


 やっぱり十七夜月先輩の方が立場は上らしい。


「もうおしまいだよぉ……生徒会長が風紀委員長と実は放課後に秘密の密会をしていて、お互いに愛を囁き合っている禁断の関係だってことが、可愛い可愛い後輩にバレちゃったぁ……」


 朝日ヶ丘先輩が頭を抱える。

 その顔は羞恥に満ちていて、今にも泣き出してしまいそうだった。


「それでそれで、弱みを握られた私も莉子ちゃんもぉ……人には言えないようなことをさせられちゃうんだぁ……」


 ん?


「可愛い先輩と綺麗な先輩を二人とも侍らせる酒池肉林……放課後の校舎で行われる内緒のおさんぽごっこや、全校集会で壇上に上がった私達に仕掛けた秘密の――」

「朝日ヶ丘先輩!?」


 ブツブツと。

 顔を真っ赤にさせてとんでもない事を言い出した朝日ヶ丘先輩の言葉を、俺は大声で遮った。


 急に何を言い出すんだこの人!?


「あっはっはっはっ! 驚いてるねぇ柳クン。キミ達が尊敬する未来はいつも明るく振る舞っているけれど、実際はネガティブと被虐欲の塊でねぇ。どうだい、可愛いだろう?」

「…………ただ、驚いています」

「ふむ。間については、聞かないでおくよ」


 見透かしたような顔で、十七夜月先輩は笑う。

 二人の蜜月を目撃した筈なのに、常に上の立場にいる気がするのは何故だろうか。


「そして生徒会長としての立場を追われた私の転落人生が始まるんだぁ……へへ……あ、憧れのアイドルも落ちぶれたもんだなって……えへへ……そのまま、生徒会長もクビになっちゃうんだぁ……」


 その間も、朝日ヶ丘先輩の暴走は続いていた。

 止めた方が良いのだろうけど、下手に触れると逆効果な気がする。


「未来先輩。生徒会長、止めちゃうの?」


 そんな朝日ヶ丘先輩に話しかける、勇気ある人物がいた。


「咲蓮ちゃん……。ごめんねぇ……ちょっと早いけど、次期生徒会長は頼んだよぉ」

「やだ。未来先輩の生徒会長、すごいからもっと見たい」


 咲蓮である。

 破滅願望に溺れる朝日ヶ丘先輩に、咲蓮は小さく首を振った。


「ううん、私はちっとも凄くないよぉ……? こうして隠れながら莉子ちゃんに甘えて虐めてもらえないと立派な生徒会長をやれないんだもん……」

「大丈夫。私も、総一郎にしてもらってる」

「……え?」

「なっ!?」

「――ほう?」


 親指を立てて、咲蓮はサムズアップする。

 そして上から順に。

 朝日ヶ丘先輩がキョトンとし、、俺が大きく目を見開いて、十七夜月先輩が不敵な笑みを浮かべた。


「咲蓮ちゃんが……総一郎くんにって……ど、どういうこと……!」


 震える声で朝日ヶ丘先輩が聞き返す。

 単刀直入に言うのなら、鼻息が荒くなっていた。


「こういう事」

「さ、咲蓮っ!?」


 咲蓮がギュっと。

 俺に抱きついてくる。

 過去一の俊敏さで、いつものように俺の胸に収まってきた。


「私は、総一郎がいないと生きていけない」

「そ、そそそそそそうなの!? 咲蓮ちゃんもなの!? えっ、本当ぉ!?」

「本当。ぶい」

「ぶい、じゃないが!?」


 朝日ヶ丘先輩、大興奮。

 咲蓮は俺の胸に頬ずりをしながらピースサインを作った。


「えっ、そ、総一郎くん……ち、違うの……?」

「総一郎?」


 俺が大声を出したせいで、朝日ヶ丘先輩が大きく動揺する。

 それに追い打ちをかけるように、咲蓮が上目遣いで俺を見上げてきた。


 ジッと俺を見つめる切れ長の瞳は、何を考えているか分からない。

 それでも、吸い込まれそうなその瞳は僅かに揺れているような気がして――。


「……その、通りです」

「わぁっ!!」

「えへへ。そうです」


 ――俺は、観念し、決意した。

 咲蓮の期待を裏切る事は絶対に出来ないのである。


 言った、言ってしまった。

 今まで隠していたのに、あっさりと。


 でも、何故だろうか。

 とても、清々しい気分だった。


「十七夜月先輩」

「うん? どうしたんだい?」

「……すみません。この前から活動している、不純異性交遊の疑いがある生徒……。それ、俺と咲蓮です」

「えっ!? そうなの!? あの職員会議になってたアレ、咲蓮ちゃんと総一郎くんなの!?」


 だから、全部言ってやる事にした。

 案の定、朝日ヶ丘先輩はとても驚いている。

 でも、それで良い。


 十七夜月先輩と朝日ヶ丘先輩の秘密を知って、向こうが全部をさらけ出した以上。

 もう、隠し事は無しだ。


「ほう?」


 俺の言葉に、風紀委員長は口元を緩める。

 それは俺達を咎める訳でもなく、試すような笑みだった。


「咲蓮はこう見えて、死ぬほど甘えん坊で極度の高所恐怖症なんです。だからその日は、歩道橋を一緒に渡る為にくっついて歩いていました。早朝だから大丈夫だろうと思っていましたが、甘い考えでした。今まで隠していて、すみません」

「ごめんなさい」


 俺が深く頭を下げると、それに倣って咲蓮も頭を下げる。

 どんな理由があろうと、そのせいで他の風紀委員達や十七夜月先輩の貴重な時間を奪ってしまったのは事実だ。

 余計な言い訳は、もうしない。


「そうか……まさか、キミ達が、不純異性交遊の犯人だったなんて……」


 十七夜月先輩の大きな溜息が、静かな風紀室に響き渡り。


「まあ、知ってたけどね」

「えっ?」

「えっ?」

「えっ?」


 俺と咲蓮と朝日ヶ丘先輩の声が、綺麗にハモったんだ。

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